注:かなり昔に作ったもので、かなりいい加減に作っているので、固有名詞などかなりいい加減なカタカナ表記になっているのでご注意ください・・・。固有名詞は一応は古アイスランド語のテキストから拾い出しはしていますが、カタカナ表記は・・・。信じないように・・・。
ハラルド美髪王の息子のビョルンの息子のグズレズの息子「グレンランド人の」ハラルドはアースタと結婚をした。しかし彼は彼女が妊娠している最中に、乳きょうだいの膨大な財産をもつ未亡人シグリーズに求婚しにスウェーデンへと妻を捨てて向かった。彼女はスウェーデンのエリク常勝王に嫁ぎ、「強い」シグリーズの名を持つ。サガでは特徴あるキャラクターとして登場します。しかしこの時、ハラルドは彼女にロシアからいいよってきたヴィッサガルドと共に宴会場で酔わされ館ごと燃やされて殺されてしまう。しかし彼女は後にオーラヴ・トリュグヴァッソンとの婚約の時に「異教徒のばあさん」とののしられて婚約が解消されてしまうという逸話の持ち主。ちなみに彼女とエリク常勝王との子供はオーラヴといい「ユングヴァルのサガ」にも登場している。
アースタは夫に捨てられ、涙涙に激怒しながら父のいるオプランドへ行き、そこで息子を産みオーラヴと名づける。そしてハラルドの死後、彼女はリンゲリーク王の「雌豚の」シグルズと結婚する。なぜこの王が「雌豚」といわれているかというと、不動産にこだわり、畑を耕したりと自分の土地のめんどうをせっせせっせと見ていたので、この当時の勇敢なヴァイキングたちにはどうやら雄雄しく見られたかったようで、こんなあだ名を付けられたようです。そして私が個人的に大好きな王「ハラルド苛烈王」のおとっちゃんでございます。シグルズ王の家系も見事なもので、ハラルド美髪王の息子の「巨人の」シグルズの息子ハールヴダンの息子である。もちろんこの当時、王であったオーラヴ・トリュグヴァッソンもハラルド美髪王の家系といわれています。そしてオーラヴが3歳の時に、オーラヴ・トリュグヴァッソンがリンゲリークに行き、そこでシグルズ王とアースタを改宗させ、オーラヴに洗礼を施したといわれています。違う説ではオーラヴはノルマンディで洗礼をしたという話もあるみたいです。
さてやっとここいらあたりから主人公であるオーラヴに話を向けると、彼は王のサガでは珍しく「長身の美男子」ではない王でございます。サガを読んでいると、本当にたくさんの美男子が出てきます。ノルウェイとアイスランドには美男子以外いないのかと思うほどに数多くでてきます。ちなみに上記のオーラヴ・トリュグヴァッソンもハラルド苛烈王も美男子であったりします。しかし不細工、いや美男子でなかった彼は背の高さは普通であったものの、幼くして聡明で気高い精神の持ち主であったようです。
ある日、彼の義理の父である「雌豚の」シグルズがオーラヴに馬小屋に行き、父のために馬に鞍をつけて用意するように命じた。これに対してオーラヴは山羊小屋に行き、そこで一番大きな山羊に鞍をつけて父に差し出した。それを見てシグルズ王は、
「お前はわしよりも誇り高いのだな。」と言った。
オーラヴが畑仕事に精を出す父をどう思っていたかというのが面白くかかれている場面である。
そして彼は成長したがやはり背の高さは中ぐらいでずんぐりとしており、髪の色は明るく、大顔の赤ら顔であった。目は鋭く激怒した時には誰もが震え上がったというほどである。全ての競技に長けており、弓が上手く、泳ぎも上手く、手先も器用で、鍛冶も得意であった。そして彼は「ディグリ」というあだなが付けられた。この単語はよく本では「肥満王」や「デブ」と訳されているんですが、こは英語のBIGに相当し、「がっしりしている」「大きい」「偉そう」「高慢」「誇りある」というような意味も内包しており、「デブ」の一言で片付けるのはかなり悲しいものがあるので私は「大きな」を使っていきたいと思っております。そして彼は人の率いるリーダーになることを常に欲し、それは彼の出生のなせる技だといわれていた。
そしてオーラヴが12歳の時に初めて軍船に乗り込んだのであった。この当時は領土を持っていなくても王族であればヴァイキングの襲撃に行く時には王の称号を冠するという風習のもと彼は軍船と家来を手に入れた時に「オーラヴ王」を名乗ったのであった。そして母アースタはオーラヴの養父であるヴァイキング行きの経験豊かなラニをオーラヴの従者としたのであった。そしてオーラヴが王ではあったが、実際には舵取り席にはラニが座ったため、オーラヴは「舵の少年」と呼ばれたのであった。彼らは岸に沿って東に船を進めてデンマークへと向かったのであった。そしてこの後、秋に彼の父の「グレンランドの」ハラルドを殺害したスウェーデン人に報いるために彼はスウェーデンに向かい、スウェーデンを略奪したのであった。そしてその時にソータの島々で初戦を行ったのであった。オーラヴの船は敵の船より大きかったのであったが、兵の数では劣っていたのであった。そして彼は岩礁の間に停泊し、一方、敵のヴァイキングたちは停泊が困難であった。そしてこの当時の海戦法にならって、フックで敵の船を捉えそれから船を引き寄せ、そして攻撃したのであった。敵は逃走し、たくさんの敵が倒されたのであった。
その後、どんどんとスウェーデン内を航行し、メーラレン湖に向かい、その両岸を略奪したのであった。そしてガムラ・シグチュナ(シグチュナはスウェーデンの重要な場所)に停泊したのであった。そしてこのことがスウェーデン王のオーラヴの耳に入り、彼は侵入者を封鎖撃破するために鎖をその場所へと運ばせたのであった。そして鎖で封鎖し、兵を置き、監視させたのであった。「大きな」オーラヴは兵が少なく、正面きっても仕方が無いと判断したのか、場所を移動し、西に砦南に敵陣という位置で静かに停泊していたのであった。そしてこの後にスウェーデン王オーラヴが大軍と大艦隊でやってきたので、「大きな」オーラヴは戦っても仕方ないとばかりに、海へ通じる水路を掘る計画を立てたのであった。激しい雨が降り、そのあたりの降った雨の水がそこに流れる仕組みになってたので水がどっと押し寄せ、強い風が吹いたので帆をあげて漕ぎ出して海に出て無事に逃げたのであった。違う説ではスウェーデン人が気づき、掘っている水路へと向かったところ、土手が崩れてたくさんのスウェーデン人がそこでおぼれてしまったという説もあるようだが、スウェーデン人たちがその話はうそであると否定している。そしてこの後に「大きな」オーラヴはゴトランドへと向かい略奪しようとしたが、そこは金持ちゴトランド、お金で平和を買い取ったのであった。オーラヴにいわゆる「税」を支払ったのであった。この冬は彼はゴトランドに滞在したのであった。オーラヴの家来のオッタルはゴトランド人を臆病者とあざける詩を作っている。
そしてこの後にエイシスラに向かい、そこも略奪した。ここにいた豪農達は「税を差し出す」と言っていたのだが、実際には差し出さず、会合に豪農達は完全武装でやってきて、結局、話合いの場所は戦いの場となり、豪農達が負けて倒されたのであった。
この後にフィンランドに向かい、略奪したのだが、そこに住む住人達が財産を持って森に逃げてしまったので、収穫は少なく、彼らは森へとその後を追ったのだが、森で待ち伏せしていた住人達が一斉に弓を射ったのであった。王はこりゃたまらんとばかりに家来達に盾で身を守るように命じ、攻撃したのだが、森がフィン人達を守ったのであった。そしてオーラヴの家来達はたくさん命を落とし、怪我をした。なんとか夕方に船までたどりついたのであるが、フィン人達は魔法に長けた人たちであったので、その夜に魔法で悪天候と嵐を作り出したのであった。反魂の術さえ使うフィン人たちには天候を変えることなどお茶の子さいさいであったのであろう。しかしこの悪天候の中、オーラヴは碇を上げ、帆を上げ、風に向かったのであった。オーラヴの幸運がフィン人の魔法に勝った瞬間であった。そして彼は海に出たのでた。しかしフィン人達もあきらめず、水上を行くオーラヴの船を陸上で追ったのだが、フィン人達の努力も空しく彼らは海に出たのであった。(01.04.18)
その後にオーラヴ王はデンマークに船で向かい、そこでヤールのシグヴァルディの兄弟の「背高」トルケルと会い、彼は仲間になった。その後にユトランドに沿ってヴァイキングの仲間と船をどんどんと増やした。そしてこの後に4度目の戦を行い沢山の戦利品を手に入れた。その後に南のフリースランドに向かったが、悪天候であったので現在のポーランドの西海岸に上陸したところ、その国の者達の騎士がやってきて戦となった。そしてこの5度目の戦も勝利を収めた。
その後にイングランドに向かった。デンマーク王スヴェン二又髭王がイングランドを征服したのだが、突然にベッドで急死したのであった。フランスに逃げていたエセルレッド王はすぐにイングランド戻った。そして彼は以前の彼の財産や領土を取り戻すために兵を集めたのであった。そしてこの徴兵にオーラヴ王はノルウェイ人を沢山ひきつれて加わったのであった。オーラヴ王は現在のロンドン近郊のテムズ川に停泊をした。そこにはデーン人はボルグ(城市)を守っていたのであった。彼らは対岸のサウスワークという市場のある町も占拠し、そこにはデーン人の大軍がいたのであった。エセルレッド王はそこを激しく攻撃したのだが、その周りに張り巡らされた堀などの防御策によって落とすことをなしえなかった。そのボルグとサウスワークの間には荷馬車がすれ違えるほど広い橋が架かっていた。その橋の上には楼と砦の要塞があったのであり、その橋の足はしっかりと川床に打ち込まれていたのであった。その橋はどうしても攻略することができなかったのであった。エセルレッドは単純に考えて正面切って無謀に突撃したからである。そしてどうやっても攻略できなかったので彼は仲間に助言を求めた。オーラヴ王は他の首領たちが協力するのであれば、この橋を攻略してみようと進言したのであった。
オーラヴ王はこの後に家の部材を取ってきたのであった。それは籐や柳といった曲げやすい部材で、それで敷物を作り、船に木枠を作り、その上に載せたのであった。それは非常にしっかしと作られていたので石などが投げ込まれても耐え得るほどのものであった。そして木枠の高さは敷物の下で十分に武器が振り回せるほど高いものであった。この装備で船々は橋に向かった。橋の上ではデーン人が両手でないと持ち上げられないほどの大きな石を投げつけてきた。そのためたくさんの船が損傷し、撤退した。しかしオーラヴとその家来達の乗った船は橋の足まで行き、そこに綱を巻いた。その後に下流に向かって全力で漕いだのであった。そしてその引っ張りに耐え切れず、橋の足は崩れ、橋はばらばらに崩れたのであった。(マザーグースの「ロンドン橋落ちた」の話はヴァイキングがロンドン橋を落としたことを言っているという説もあるみたいなんですが、マザーグースのHPを見たら、違うようなことも書いてありましたが・・・。)橋の上にいた敵は川に落ち、落ちなかった者はボルグやサウスワークに逃げ込んだ。その後にサウスワークは攻略され落とされ、そしてデーン人はボルグを守ることをあきらめて投降した。
オーラヴはその冬をエセルレッド王のもとで過ごし、ウルフケルが統治していたリングメール・ヒースで7度目の戦をウルフケルと行い勝利した。そしてこの領土は再びエセルレッドのものとなった。しかしまだ多くのシングメンとデーン人がたくさんの町を占拠し、たくさんの領土を保有していた。オーラヴはカンタベリーに向かい、そこを攻略するまでたくさんの市民を殺害した。これが8度目の戦であった。その後にオーラヴはイングランドの守備を任され、ニャー・モーダに上陸後そこでシングメンと9度目の戦を行い勝利した。こうして3年が過ぎた。
3度目の春にエセルレッドが崩御し、その息子のエドムンドとエドワードが王国を引きついた。そしてオーラヴは10度目の戦をすべく、南に向かいヴァイキングが占拠していた丘の上の城を落とした。そして11番目の戦い、それは西のアキテーヌの町の前でヴァイキングとのものであった。この後に12度目の戦、13度目の戦を行う。
この後にスペインに向かって略奪し、ジブラルタルを出て、そこからパレスチナに向かおうと風を待っていた。そして彼はここで夢を見た。
「己が国に戻れ。ノルウェイ王に永遠になるために。」と見知らぬ強そうな男がびびりながら彼に話し掛けたというビジョンを見たのであった。オーラヴはこれを「自らがノルウェイ王となり、自らの血筋が長くその地を支配する」と夢を理解したのであった。
しかし真っ直ぐ帰ればいいのに、フランスに行き、略奪、略奪、略奪、放火、放火、放火。夏・秋・冬・春・夏とそんなことで過ごしたのであった。この時、既にオーラヴ・トリュグヴァッソンが海中に消えてから13年が過ぎていた。この後の秋はノルマンディーに向かい、セーヌ川でおとなしく冬を過ごした。(01.04.23)
この頃ノルウェイでは前王のオーラヴ・トリュグヴァッソン王没後、前述の王と戦い勝利側についていたヤールのエリクがトロンヘイムの4つの州(部族区)を統治していたのであった。彼はオーラヴ・トリュグヴァッソン王の部下であった「太鼓腹振りの」エイナルを赦免しエイナルは平和を手に入れたのであった。エイナルはノルウェイで最も権力を有する者で、最高の射手であった。弓にはエピソードがあり、オーラヴ・トリュグヴァッソンの最終戦の時に弓で戦っていたところ、戦況はオーラヴ側に非常に不利になり、相手側の弓の名手に弓を打ち抜かれて弓が砕ける。その音を王が聞いて、
「なんだ今の大きな音は!」と訊ねたところ、エイナルは、
「ああ、王様の手からノルウェイが(逃げる音です)」と、うっかり答えてしまい、
「あほか、お前は!」と、しかられたという話がある。スキーは上手い、血統もよい、と、とにかく優秀な方です。
強大な土地を保有し莫大な財産を持つエルリング・スキャルグソンという者がおり、ヤールのエリクは彼にひがんでいた。しかし彼が皆から指示されていたので、彼とは戦わなかった。エルリングはオーラヴ・トリュグヴァッソンのように色々なスポーツに長け、強く、気前がよかった。エルリングは常に90名以上の自由民(武器が携帯できる身分)を抱えていて、ご近所さんのヤールが集まった時には200人以上の戦士がいたという話である。エルリングは在宅時には召使以外に(!)奴隷を30人おいていた。彼らは言いつけられた仕事の時間以外の時に、自分たちのために働くことが許されており、地所も与えていたというおっとこまえぶり。そして身代金を決めてその金額を払えば自由人になることを許したので、ほとんどの者が1〜2年で自由を手に入れることが出来、交易、農場経営など次のステップへ行くことができた。彼はその身代金で新しい奴隷を購入して、同じように数年で自由を与え、次の人生も与えたという、すっばらしいお方であったようです。
ヤールのエリクが12年間ノルウェイを統治していたところ、義兄弟であるデーン王のクヌートからお手紙がやってきた。それはイングランド遠征のお誘いであった。彼はその誘いに乗り、17歳の息子に後を託した。しかし息子が若かったので「太鼓腹振りの」エイナルをその摂政(?)として息子を任せた。エリクはクヌート王と共にイングランドで7戦して、ローマに行きたいな〜と思ったものの、イングランドで帰らぬ人となってしまった。クヌート王はエセルレッド崩御のその夏にイングランドに進軍、その後に女王エマと結婚。彼らの子供は、ハロルド、ハルデクヌート、グンヒルドである。クヌート王はエドムンド王と話をしてイングランドの半分を手に入れた。その後にエドムンド王はエドリック・ストレオナに殺害され、クヌート王はこりゃらっきーとばかりにエセルレッドの息子をイングランドから追い出してイングランドを手に入れた。
そんなこんなの時に、「大きな」オーラヴはのんきにノルマンディーにいた。そこへエセルレッドの息子達がイングランドから逃げてきた。
「もし、おぢさん(21才)がイングランドからデーン人を追い出したら、ノーサンブリアをあげる!(注・言ったのがエドワード告白王だったらこの時12歳)。」とのお誘いに乗ってしまう。
その秋にこそこそとオーラヴ王は養父のラニに金を持たせ、イングランドに行って仲間を集めるようにと命令し、彼はそれを遂行した。準備万端、春にオーラヴ王とエセルレッドの息子達はイングランドへ向けて船を出した。そして彼らがボルグを落としたところ、クヌートの家来達が軍隊を引き連れてやってきたが、デーン人に反感を持つイングランドの人々が集結し、それがえらくでっかい集団であったので、彼らはびびってしまって逃げってしまった。ここでオーラヴ王はお役目も終わっただろうと、彼らと別れヴァルランドには戻らずノーサンブリアに向けて北上し、その途中で略奪を行い沢山の金品を手に入れた。
オーラヴ王はロングシップを残し、2隻の小舟で220人の家来を引き連れて出帆した。運悪く嵐に遭ってしまうが、そこは聖オーラヴの幸運がラッキーてなことで万事上手くノルウェイに到着したのであった。オーラヴ王はノルウェイの中央あたりに到着し、彼らが上陸した島は「幸運」という名前が付けられた。
「いや〜これはラッキーな日だ。」とオーラヴはしみじみしたのであった。
そしてこの後に船でウルヴァスンドに向かい、ヤールのハーコンについて情報を得る。どうやらハーコンは1艘だけだったらしい。オーラヴは南に向かい入り江の両側に船を停泊させ、両船の間に綱を渡した。そこへのこのことハーコンが入り江に入ってきた。ヤールはうっかり小舟だったので「商船だろう〜」とのんきに航行していたところ、綱が竜骨の中央あたりにきた時に、巻き上げ機でおもいっきり綱を引き上げた。当然、船が持ち上がり、船首側が下に向き浸水、満水、転覆。オーラヴはヤールの家来達を殺害しつつ捕虜にした。ヤールのハーコンが王の船に連れてこられた。彼は髪も絹のように美しくふさふさしており、男前であった。とってもおしゃれな彼は額に黄金のフラズ帯を巻いていた。その男前ぶりにむっとしたオーラヴは、
「お前は男前と言われているが、お前の幸運も尽きたな〜」と、いやみたらたら。
「別にこのことは不幸なことではないわ。たまたま準備不足だっただけだ!次にはわれらに幸運がくるわ!」とヤール。
「それはどうかなぁ〜。お前は将来に勝利も敗北もできないようになるかもな〜。死んじゃったらどっしょうもないもんね〜」とオーラヴ。
「さっさとしろ!このデブ!」と業をを煮やしてしまうヤール。
「ん〜、ど〜しよっかな〜。もし、ここを無事に切り抜けたら、お前、どうする?」といぢわるオーラヴ。
「あんたの領土から出て行って、二度とあんたに刃を向けんよ!」
その言葉にオーラヴは納得し、彼に助命して行かせた。
そそくさとヤールはノルウェイから出て行ってイングランドに向かった。おじのクヌートに会いに行き、王の宮廷に身を寄せることになった。
(01.04.24)
<この時代のイングランドをぱらっと調べてみたら、スカンジナビア人がイングランドを侵略しまくっている時にエセルレッドが即位。その後オーラヴ・トリュグヴァッソンがイングランド攻撃。再度オーラヴはデンマーク王スヴェンと共にイングランド進攻。ノルマンディ公の妹のエマを後妻に迎え、1002年にデーン人の大殺害を行う。その中にスヴェンの妹がいたためスヴェンが報復を兼ねて進軍。1013年にエセルレッドはノルマンディに亡命。しかし次の年、スヴェン急死。この時、スヴェンの長男ハラルドがデンマーク王、クヌートがイングランド進攻の指導者。クヌートはエセルレッドに仕えた時期もあった「背高」トルケルを仲間にしてイングランド進攻。1016年エセルレッド急死、息子のエドモンド剛勇王が即位、クヌートと戦うが負け、クヌートがイングランドのテムズ川以北の王になる。しかしエドモンド死亡。息子エドワードは幼く、エセルレッドの双子のエドワード、アルフレッド12歳、エドモンドの弟エドウィも未成年。そのためクヌートが正式にイングランド王になる。クヌートはイングランドを4分割して、「背高」トルケルは東アングリア伯になる。
この後、幸運にもデンマーク王である兄のハラルドが1019年死亡。トルケルを送り込みデンマーク統治。1028年に息子のハルデクヌートをデンマーク王にする。この後、このサガの主人公のオーラヴ聖王撃破、北海大王になる。エドモンド剛勇王の弟のエドウィはすでに殺害され、エドモンド王の遺児のエドワードはハンガリー王廷に亡命。ノルマンディにエドワードとアルフレッドが亡命中。しかしクヌートは抜かりなく1017年にノルマンディ公の娘のエマを妻にしているため、ノルマンディにも影響力を及ぼす。と、とってもドラマチックです。イングランドの歴史はごちゃごちゃしている上に同じ名前ばっかりでかなりツライ・・・>
この後、オーラヴはノルウェイを進み、いたるところで豪農達と一緒にシングを行った。そして養父シグルズのもとへ行き、母アースタは室内で息子を歓迎した。
「んま〜ぁ、オーラヴちゃん、立派になって。あんたたちなにやってんの私のかわいいオーラヴちゃんをもてなす準備をなさい。ほらそこ、織物で壁を飾りなさい。ほら、そこベンチを用意なさい。床にもわらを敷くのよ。」
そう指示があると4人の侍女は壁を飾り付けし、2人が食器棚とエールの樽を運び込み、2人がテーブルを整え、2人が食事を運んだ。
「そこの2人。エールを運んで。そうそう、畑にいるシグルズを呼んで来て。そして、あなた達、私のかわいいオーラヴちゃんの家来ちゃんたちはとっておきの服に着替えるのよ。一張羅がない者には貸して上げるから。」とオーラヴママ。用意が整うと人払いをしたのであった。
使者がシグルズ王のもとへ行き、王にふさわしい衣装と、エナメルの石がはめ込まれた金で施された鞍をつけた馬を持っていったのだ。アースタの命で家来達が四方八方へと有力者達を宴に誘いに行かせた。
「なんじゃ?」と、シグルズ王。
彼は家来達がせっせせっせと畑仕事をしているのを見守り、畑の外側に立っており、灰色のマント、灰色の大きな前びさしのある帽子を被り、手には先が銀メッキされた軸受けのある銀の輪がついた棒を持っていた。
「アースタ様は王様のために大シングの準備をされておりまする。この王に相応しい衣装をまとい、この馬で参られよとおおせつかっておりまする。閣下は偉大な賢者さまである閣下の母君のご尊父の「細鼻の」ラニ様やヤールの老ネレイド様以上に閣下がハラルド美髪王閣下の家柄に相応しく振舞われよとおっしゃっておりまする。」
「はぁ、やれやれ。」
シグルズ王は虚飾を好まず、寡黙で、当時のノルウェイで最も賢く、豊かで、平和的であった。そして妻のアースタは寛容で高貴な魂の持ち主であった。
「わしを怒らせたようだな。デンマークやスウェーデンを敵に回してただで済むと思うなよ、アースタ、オーラヴ。」といいながら王はそこに座り靴を脱ぎ、使者が用意した衣装を身に着けた。そして緋色(高貴な色)のマントを羽織り、高価な剣を腰に下げ、頭に金メッキされた兜を着けて馬にまたがった。シグルズ王が家来を連れて家に戻った時、館でオーラヴ王の軍旗がたなびいているのを見た。そこにはオーラヴが立っており、彼と共に着飾った100名の家来達がいたのであった。シグルズ王は馬上からオーラヴの一団に挨拶をし、共に酒を飲むようにと言った。アースタはオーラヴに出来る限りの手助けをするといい、息子のオーラヴはそれに感謝し、そして彼女はオーラヴの手を取り高座へと導いたのであった。そしてシグルズ王は共に帰ってきた部下達に向かって
「お前達も着替えて来い、そして宴に来るのだ。っと、その前にお前達の馬にかいばを与えておくのだぞ。馬の世話を忘れるなよ。」と、シグルズ王は命じ、そして自身の高座へと行き祝宴が行われた。
(01.04.25)
ある日のこと、オーラヴ王はシグルズ王とその親族、アースタ、養父ラニを集めた。そして彼らを前に演説をしだした。
「私はこの国で生まれ、そして長い間、外国で暮らしておりました。町や村を襲撃し、そこで手に入れたものを糧に生きてきました。そして、それ以上のものは手に入れておりません。今、このハラルド美髪王に由来するこのノルウェイをデーン人どもが支配しております。デーン人どもはこのノルウェイの地での土地保有件をほとんどわれらノルウェイ人には認めておりませぬ。私は決心したのです。正当なる血筋である者がこの地をデーン人どもの手から取り戻すのです。そしてそれは戦いで手に入れることを意味しております。私には戦に勝利し、このノルウェイを取り戻すか、戦に破れ狼どもの餌となるかのどちらかしかありません。皆も立ち上がるのです、この侮辱された状態から脱すのです。」
そしてシグルズ王が答えた。
「それはお前の考えだ。お前の欲がそうさせるのだろう。お前はいつもそうだった。なにかにつけ大将になることを望み、そうした。お前はあまりに熱いのでわしの言葉なぞ届きはせぬかもしれんがの。だがハラルド美髪王の国が弱まるこの時に、お前の言葉は強くオプランドの者達に響くだろうな。よし、王族や領主達や民衆達と共にわしもお前に手助けするとするか。お前はクヌート大王と戦う前に沢山のものを手に入れなくてはならぬ。」
そうやって話がかなり進んだ時にアースタが口を開いた。
「さすがは我が息子。お前は最高の権力者になるのよ。例えオーラヴ・トリュグヴァッソンより長生きできなくても王になるのよ。シグルズを超えられなかったり、老衰で死ぬなんてはよくはないわね。」
そして会合は終了し、その後しばらくの間オーラヴは自身の家来達と共に滞在したのであった。
シグルズ王はオーラヴを連れて会合を行い、その出席者はオプランドを統治する多くがハラルド美髪王の家系である王達、ヘデマルクを統治するロウリクとリング兄弟。グドブランドダーレを統治するグズレズ、ラウマリク王、トーテとハデランドを所有する王、ヴァルデルの王、などの王達や有力者達であった。そしてシグルズ王は彼らにオーラヴに手助けするように要求をした。
「確かに、このノルウェイがハラルド美髪王の血族でないもの、ましてや外国のものが統治することはよくはないな。しかしどうやってデンマークやスウェーデンと戦うのだ。我等は前王のオーラヴ・トリュグヴァッソンには苦しめられた。彼は我等の土地の権利を縮小させ、自由な権利もわずかで、キリスト教の改宗にも高圧的であった。それを救ったのがデーン人だ。デーン人と友情を保ち、我等の今ある権利を守りたいのだ。」と、レリク王が言った。
「私は外国の支配者よりハラルド美髪王の血統である我が血族がこのノルウェイを支配すべきだ。そしてオーラヴ、君がそうだ。君の幸運がこの結果を左右するのだ。我らには父から受け継いだ国はあるが、君には我等が所有するような国はない。君がこのノルウェイの最高権力者になるために我らは手助けをしようではないか。」とその兄弟のリングが言ったのであった。
彼の演説に皆が立ち上がり、彼らのほとんどがオーラヴ王と同盟を結びたいと申し出た。オーラヴはもし自身がノルウェイの最高権力者になれば彼らに十分な友情と権利を約束すると言ったのであった。
この後にオーラヴはシングを開催し、民衆に彼の計画を皆に伝えた。そしてその場にいた豪農達に古の法を守り、外国からの危険から国を守ることを約束した。そしてこのシングの終わりにオーラヴは全領土の王の名を与えられ、オプランドの古い法に従ってその領土を認められたのであった。
そしてこの後にオーラヴは様々な土地を訪れ、彼のもとにたくさんの者達が協力者としてやってきたのであった。その王の旅の情報が「太鼓腹振りの」エイナルの耳に入ることとなった。彼はすぐに「戦の矢」を切り、全州に送った。彼は武装した者達を集め、オーラヴ王からこの領土を守らなくてはならぬと伝えたのであった。その命はオルケダール、グルダールへ伝わり、その全ての地から多くの戦士たちが集まってきたのであった。
(01.04.26)
オーラヴ王は軍隊と共にオルケダールに平和的に進んでいった。しかしグリョタルに到着した時、そこには豪農達が7〜800人の戦士を引き連れて集まっていた。オーラヴは戦になると判断し、軍隊を引き出した。それを見た豪農達の軍隊には動揺が走った。というのは彼らはその軍の指揮官を決定していなかったからである。その同様をオーラヴは読み取り、部下のトーレ・グドブランドソンを豪農達のもとへ行かせ、オーラヴ王が戦を望んでいないことを伝えた。それから彼らの中から12名の男がオーラヴ王のもとへ向かった。
「君たちが賢明であったので、戦は回避でき、こうやって話し合いの場が持てた。私はヤールのハーコンと出会い、彼から彼の領土を譲り受けた。そのことは承知しておるな?その地はオルケダーレ、グルダーレ、ストリンド、エイナ州だ。」と、オーラヴ王は切り出した。その後に彼は彼らに王に従うか、もしくは戦うかのどちらかを選択させ、彼らは王に従うことを決定した。
この後の旅を続ける前に豪農達は王のために宴を催した。オルケダーレ州のゲルミンのグンナルという者から王は1隻の20漕手席のあるロングシップを譲り受けた。それ以外にもヴィッグのロディンから、ネスのアングラルで数隻の船を手に入れ総数4〜5隻になった。
ヤールのスヴェンはトロンヘイムにおり、宴の準備が行われていた。「太鼓腹振りの」エイナルはオルケダールの民がオーラヴの手中に落ちたことを知り、スヴェンに使者を送り出した。ヤールにそのことが伝えられ、彼はその夕方にもてるだけの財産や日用品や食料を船に積み込み、夜に速やかに漕ぎ出した。スカルンスンドに到着した時に、そこでオーラヴ王がフィヨルドに沿って航行しているのを見つけ、陸地にへと進路を変えた。そこには大きな木があり、その葉と枝が覆っている崖に近づき木を切り、それで船を覆い隠した。その時、暗かったのでオーラヴ王は彼らを発見するに至らなかった。そしてヤールは無事にフロスタへ行き、そこで上陸した。そこは彼の領土であった。
この後にヤールのスヴェンのもとに「太鼓腹振りの」エイナルは使者を送り出し、彼を呼び寄せて話し合いした。
「オーラヴは我らが同志を集めていると知ればすぐに軍隊を引き出し向かってくるだろうが、我らのその動きを悟られなければやつはのうのうとユールの間はステインケルに居座るだろう。」とエイナルが言った。
そのように取り計らわれ、ヤールはステョルダーレに豪農達と共に宴に行った。オーラヴ王がステインケルに到着した時、王は宴の品々を全て手に入れて船に運んだ。それ以外に貨物船も所有しており、そこに食料と酒を積み込んだ。この後にニダロスに向かった。ヤールのエリクもニダロスに向かい、父の土地であるラーデに行った。その地のニドにオーラヴ・トリュグヴァッソンが建設した数軒の館は今や廃屋となり荒れ果てていたのだが、オーラヴ王はそれを修繕してその館に食料と酒を持ち込み、ユールの間はそこに滞在していたのだた。それをヤールのスヴェンとエイナルは聞き知った。
アイスランド人のスカルドのトルドはヤールのシグヴァルディに仕え、その後は「背高」トルケルのそばにいた。ヤールの死後トルドは商人になり、西方でのヴァイキングを行っている時にオーラヴと出会い、王の家来になった。トルドの息子はシグヴァットと言い、成人した時に商人達を連れて船をどした。秋にトロンヘイムに行き、彼らは船に張った天幕を用意した。しかし父が王のそばに居ることを知って彼は父に会いに行った。シグヴァットは若い頃はよき詩人でオーラヴ王のために詩を歌い、その報酬に黄金の環を貰い、親衛隊の一人になった。この時、彼はアイスランドの税金の負担がつらいと王に直訴した。
ヤールのスヴェンとエイナルは約2000人の兵を連れてトロンヘイムに向かった。トロンヘイム郊外で警戒をしていたオーラヴ王の部下が気づき王に伝えた。そして王は手に出来るものを船に持ち込んで海へと漕ぎ出した。その後にヤール達が到着し、館から物品を取り出すと館に火を放った。オーラヴは南のヘデマルクに向かった。そこで王は宴三昧。しかし我に返って春に兵を引き出してヴィクに向かった。王はヘデマルクで諸王が提供したたくさんの兵を手に入れた。そこにたくさんの州の首領たちがやってきて仲間になり、その中にリンガネスのケテル・カルヴがおり、ラウマリク出身の戦士たちもいた。義理の父のシグルズ王も兵を連れてやってきて、船へでる準備をした。
ユール直後にヤールのスヴェンは傾倒する有力者や権力者達を集結させた。彼の血族の「太鼓腹振りの」エイナルもその中にいた。準備が整うと海に出て、その途中でたくさんの人を集め、彼らはヴィクに向かった。グレンマルを過ぎてネスヤル付近に停泊した。オーラヴ王と彼らの間はわずかで、「シュロの主日」前日の土曜日に互いに認識した。オーラヴ王は「益荒男の頭」号を所有し、王の頭が船首に彫られていた。日曜日にオーラヴ王は上陸の角笛を吹き、軍隊に向けて演説をはじめた。
「戦はすぐだ。準備しろ。船は陣形を守り、まず盾で身を守り、時を待つ。あらゆる武器を海中に落とすなどという無駄はしてはいけない。白兵戦が始まり、船が接触した時、雄雄しく戦うのだ。」と王は言った。この当時の海戦は見方の船を互いに綱で結び付けて陣形を作り、敵の船にむかって鉤を投げて引き寄せ、乗り込んで戦う。白兵戦になる前に槍や矢を投げることである程度の攻撃を行うというのがパターンであった。
オーラヴ王の船の上にはチェーンメールとフランス製の兜を身につけた100人の戦士がいた。王の家来のほとんどは黄金の聖十字架が描かれている白の盾を持っていた。その一方、赤や青で塗られた盾をもつ者もいた。そして王は白の十字架を兜にも描かせていた。王の軍旗は白地に龍が描かれていた。王の角笛で出帆した。ヤール達は王の船を目にした時に船を綱で縛り、軍旗を立てた。そして王はヤールの船のそばに停泊し、戦が始まった。その戦は長く激しく、ヤール側の戦士に負傷者が出だした時に、王の家来達はヤールの船に王の軍旗、王と最も近づいた。そしてヤールの武運も傾き、ヤールは船を繋いでいる綱を切り落とすように命じた。王軍がヤールの竜頭に鉤を投げつけ、それがしっかりと食いついたので、ヤールは船首の竜頭を切り落とすように命じた。「太鼓腹振りの」エイナルはヤールのそばに船を近づけて、船首に碇を投げ入れさせた。こうして共に行き、ヤール軍は背走した。ベルシ・スカルドトルフソンはヤールのスヴェンの船の前部にいて王に見つけられた。ベルシは男前でいい衣装と武器を身につけていた。そしてベルシは王軍に取り囲まれ捕らえられた。
「終わりだな、ベルシよ。」と、オーラヴ。あくまでも色男がにくいだろうか。
「優雅にやるさ。」とおくびもなく鎖に繋がれたベルシは答えた。
ヤールの部下達は逃走したり、命乞いしたりした。ヤールのスヴェンとその家来達はフィヨルドを出て、仲間内で話し合いをした。エルリング・スキャルグソンは北に行ってオーラヴ王と再戦することを薦めた。しかしそれ以外の多くの者達は兵の数が減ったので、スウェーデン王の武力の助太刀を求めた方がいいと言った。この計画をエイナルは支持し、ヤールと共に南に向かったが、エルリングは北に戻った。
オーラヴ王はヤールの一団を目にし、シグルズ王は攻撃するように煽ったが、オーラヴは彼らの動きをいま一歩つかめなかったので攻撃しなかった。
「今、たたいておいた方がいいと思うがな。」とシグルズ王はつぶやいたのであった。
そしてこの後、戦死者を略奪しまくり、戦利品を山分けして戦は集結した。
(01.04.27)
オーラヴ王はヤールを偵察するためにスパイを送り出した。そしてヤールがその地を出たと知るとすぐにヴィクに沿って西方に向かった。人々が王のもとへ集いシングを行い、シングで王として認められたのであった。その後にリンダンディネスに向かい、エルリング・スキャルグソンが人を集めていると知った。王はヤールが領土外に居るその隙にたくさんの土地を支配下にするために北のトロンヘイムに向けて出発した。トロンヘイムでの民衆の反対はなくそこでも王として認められた。秋の間はニダロスに滞在し、冬越えの準備を整え、王の敷地の中にクレメンス教会を建てた。
ヤールのスヴェンはその後に親族のスウェーデン王オーラヴのもとを訊ねて助言を求めた。スウェーデンのオーラヴ王は協力することを約束し、トロンヘイムに行くことに同意した。
「まずその前に必要なもんを用意しよう。夏にバルト海にでも略奪に行こう。」と、両者。
ヤールのスヴェンは部下をつれてガルダリークに向かい略奪する。夏にそんな旅をしたヤールも秋には部下をつれてスウェーデンに向かった矢先、ヤールは死に至る病に陥り、藁の(ベッド)死を迎えてしまう。ヤールの死後、その家来達はスウェーデンに向かったり、トロンヘイムに戻ったりした。
「太鼓腹振りの」エイナルは軍隊を連れてスウェーデンに向かい、王に歓迎を受けた。スウェーデン王オーラヴは「大きな(ディグリ)」オーラヴに絶大なる敵意を持っていた。というのは従属するスヴェンの領土を奪い、ヤールを領土から追いやったからである。
「「デブ(ディグリ)の」オーラヴはノルウェイを支配する器ではないわ。」とスウェーデン王がはき捨てるのに同意するスヴェンの部下達とエイナル軍団。しかし彼らの思いとはうらはらにトロンド人達はヤールの死を聞き知ると「大きな」オーラヴに益々傾倒したのであった。その秋にオーラヴはトロンヘイムに行き、豪農達とシングを行った。そして彼は全州で王として認められたのであった。
オーラヴ王はニダロスに行き、そこに王宮(王のガルズ)を建てさせた。玉座が中央にあり、つづいてグリムケル司教、その司祭達と座し、その外側に相談役が座った。その他の王達、対峙席の高座にはビョルン元帥、彼の隣に客人が座った。そして王は役割分担をして、60名の親衛隊、30名の家令を迎え、給金を支払い、彼らのために法を制定した。それ以外に30名のガルズで勤務するフスカールがおり、それ以外にたくさんの奴隷がいた。
いつもオーラヴ王は朝早く起きて、マーティン(早朝の祈り)と朝のミサを欠かさなかった。彼は正しいと思うことを行った。様々な見識者を呼び寄せて、アセルスタンの養い子ハーコンがトロンヘイムに制定した法に手を加えて新しい法を作り、それに豪農達は同意した。
その冬にスウェーデン王オーラヴのもとから、「ウサギ口の」トルガウトと世話役のアスガウトの2人の豪農が24名の部下を連れてノルウェイに使いでやって来た。ヴェルダーレにキョーレを越えて向かい、そこで豪農達とシングを行い、スウェーデン王の名のもとに税を要求した。
「そうだなぁ〜ノルウェイ王のオーラヴが税を徴収しないんだったら、そっちのスウェーデンにお支払いしましょうか。」と豪農達は答えた。
といいながらずるがしこい豪農達はどっちの王にも支払っていなかったのであった。その後に使者達はあちこちでシングを行って税を徴収しようとしたが、何も手に入れることができなかった。挙句の果てにはステョルダーレにおいてはシングに豪農達がこなかったという事態まで発生した。やけになった使者達は、
「なんかやる気なくしたなぁ。いっそのこと「大きな」オーラヴ王のところに行こうか。」と言い、彼らはそのようにした。
彼らはオーラヴ王を尋ね、歓迎されて食事までご馳走になった。彼らはスウェーデン王の命で来たと伝えた。次の日にまた王を尋ねてくるように言われ、次の日そうした。王はミサを済ませてフスシングに向かった。
「トロンドの者達は外国の支配者のもとにいるより、ハラルド美髪王の正当なる血筋の者が王になることを望んでいるのだ。」とオーラヴ王は口を開いた。
「ま〜あそうおっしゃるのも判るんですが、貴殿も怖いが、我らの王にしかられたくないんでな〜。どうです、スウェーデン王オーラヴ様とお話をしてみませんぁのう。正式にスウェーデン王からこの土地を譲ってもらったらどうじゃろうでしょうかのう。」とアスガウトが言った。
「お前達の王に伝えろ。早春に私はノルウェイとスウェーデンの国境地帯に向かう。そうすればやつもおのずとその場所にくるだろう。そして生得の領土について話し合うのだ。合意ができるはずだ。」とオーラヴ王は言った。
その後にトルガウトは帰路に着こうとしたが、アスガウトは本来の命を実行すべき12名の部下を連れてグルダーレに向かい、メーレに向かって南下したが、オーラヴ王にそれが気づかれ王は家来を送り出し、彼らを捕らえガウララスに連れてゆき、フィヨルドや航路から遠く見える絞首台でつるし首にした。そして帰路の途中のトルガウトがそのことを知り、スウェーデン王オーラヴに伝えた。王はその事実をしるやいなや罵声の嵐を巻き起こしたのであった。
次の春にオーラヴ王はトロンヘイムから軍隊を連れて東方に行く支度をした。その時、アイスランドの船がニダロスを出ようとしていた。王はヒャルティ・スケッギャソンを呼び寄せ、アイスランド等でキリスト教を保持するためにと選出した法律家のスカフティ、アイスランドの法のために尽力をつくしてもらうそれ以外の者達に激励をして送り出した。それから王は様々な地に行きシングを行い、キリスト教の保持について力を入れた。キリスト教を受け入れてはいたものの古い習慣を行っていたり、キリスト教の法をしらなかったりした者達が少なくなかったからである。そしてより山や谷の奥深い土地では、未だにオーディンやトールといった古の神々を信仰していたのであった。
王がカルムトスンドにいた時に、エルリング・スキャルグソンに使者を派遣した。その伝言は、両者が和解し、フヴィテング島で会合を行うというものであった。エルリングがそれ以前に所有していた借地権を保持できるというので王の家来になった。オーラヴ王はさらに東に向かい、ヴィクに入った。デンマークの王達の命できていたデーン人達はその土地から去った。その夏はヴィクで過ごし、ツンスベルグを抜け、スヴィナスンドを抜けて東に船で向かった。すでにそこではスウェーデン王の主権が発動されており、保安官が置かれていた。北部には「ガウト人の」エイリヴ、エルヴ川までの東部にはロエ・スキャルギが置かれていた。ロエはエルヴ川の両側に家族がおり、ヒシングに大きな館を持ち、富豪であった。エイリヴも家柄がよかった。
オーラヴ王がランリークに軍隊を連れてやって来た時にその地の人々とシングを行った。シングでビョルン元帥が話しをして、他のノルウェイの土地で受け入れられたようにするように言い、豪農達と話し合いをした。エイリヴが王がそこにいると知ると偵察するために家来を送り出した。豪農達がオーラヴ王とエイリヴの間に入り長い間話し合いをした。シングが行われることになり、オーラヴ王は家令頭の「長い」トーレを11名の家来たちとともに派遣、ブリュニュルヴのもとへ行かせた。彼らは上着のしたに鎧を着け、帽子の下には兜を被っていた。次の日に豪農達がエイリヴと共にやってきた。その中にはブリュニュルヴがおり、彼の従者の中にトーレがいた。海に突き出した岬に王は船を近づけた。そこに豪農達の集団がおり、家来達が盾で守る背後にエイリヴがいた。ビョルン元帥は王の代弁として語り、彼が座った時に、エイリヴが立ち上がって話そうとした。しかし「長い」トーレが立ち上がり剣を抜き剣を抜きエイリヴの首を落とした。その後に豪農達の軍隊が飛び出し、ガウト人がそこから逃げ、トーレと彼の家来達のうち数名が殺害された。その騒ぎが治まった時に王が立ち上がって豪農達に座るように命じた。その後、長い間話し合いが行われ、彼らが王に服従することを約束した。
その後、夏が終わり秋になろうとしている時に、王は北のヴィクに向かい、サルプという大滝があるラウメルヴに行った。オーラヴ王は石と泥と木材で土塁を作り、外側に堀を作った。その内側に市場のある町の基礎を作り、王のガルズを建てさせ、聖母マリアに捧げる教会を建てた。家来達の館も建造した。冬はそこで過ごした。王はガウトランドの者達が気を悪くしないようにヴィクからガウトランドにタラや塩を輸送することを禁じた。王はユールの大祭を行い、たくさんの豪農達にそれを命じた。
その冬に「白の」トランドはトロンヘイムから東のイェムートランドに「大きな」オーラヴ王の名のもと税を徴収しに行った。しかし徴収後にスウェーデン王の家来達がそこに来てトランドと共に11名の部下を殺害し、徴収した税をスウェーデン王のもとに持って行った。
オーラヴ王はヴィク中にキリスト教を布教した。それはスムーズに行われた。そのヴィクには冬と夏の両季節にたくさんのデーン人やサクソ人の商人がいたからである。そしてヴィクの者達もまたイングランド、ザクセン、フランドル、デンマークへと交易の旅を頻繁に行ったり、ヴァイキングの襲撃についたりして、冬をキリスト教の国々で過ごしていたからであった。
その春にオーラヴ王はエイヴィンドに王のもとへやってくるようにと使いをよこして、彼はやって来た。彼らは長く話し合い、その後にエイヴィンドはヴァイキングの襲撃に行き、ヴィクに沿って南に航行していた。ヒシング外のエイケレイエル付近に停泊し、そこで彼はロエ・スキャルギという者がオルドストに向かって軍隊と共に北進し、土地税を徴収し、今その時は南にいるであろうとの話を耳にした。それからエイヴィンドはハウゲスンドへ、ロエは南へ行き、彼らは南で出くわし、そこで戦った。そしてロエと約30名の部下の首を取り、エイヴィンドは彼らが持っていた金品を全てもって行った。その後にエイヴィンドはバルト海に行き、夏の間ヴァイキングの襲撃を行っていた。
アグデル出身の親族を持つガルダリーク(ロシア)人のグドレイクという船乗りで大商人の男がいた。彼は様々な国と交易を行っており、しばしば東のガルダリークに行った。オーラヴ王は彼と友達になり、彼からノルウェイで手に入れにくい高価な品々を王のために買い付けるように命じた。グドレイクは了承し、王は彼にそれを遂行できるに足るような莫大なお金を託した。その夏にグドレイクはバルト海に出て、ゴトランドに停泊した。その話が漏れ、その地の人々が船上の1人の男がオーラヴ王の息のかかったものだと知った。夏の間にグドレイクはホルムガルド(ノブゴロド)に向けてバルト海に出て、そして彼は高価な王の相応しいローブの材料になる良品の革を購入し、それ以外に高価な革やすばらしい食器を購入した。その秋にグドレイクは西に向かったが、逆風であったのでエーランド島に長らく留まった。「ウサギ口の」トルガウトは秋の間にグドレイクの旅を偵察した。そして彼らは見つかり戦った。長い間、防御したが、彼らに向かってきた敵の数が余りに多かったのでグドレイクと彼の沢山の船乗り達は命を落とし、たくさんの者達が負傷した。トルガウトは全ての積荷を持ち去った。彼は彼と家来達で平等に戦利品を分けたが、彼はスウェーデン王に高価な品々を渡すべきだといった。
「これは閣下がノルウェイから徴収すべき税の一部だ。」と彼は言った。
トルガウトは東のスウェーデンに戻り、この話をすばやく知らしめた。少し遅れてエイヴィンド・ウラルホルンはエーランド島に向かい、そこで事件を知り、トルガウトを追った。彼らはスウェーデンの岩礁の間で出くわし、戦って、トルガウトとその家来達のほとんどが命を落とし、エイヴィンドがグドレイクの積荷を取り戻し、ノルウェイに戻り、王に渡した。王は彼に感謝し、再び熱き友情を固めた。そんなこんなでその時、オーラヴは王になって3度の冬を越していたのであった。
その夏にオーラヴ王は軍船を準備させ、東のエルヴに戻り、夏の間そこに滞在した。オーラヴ王とヤールのラグンヴァルドとその妻のトリュヴィの娘のインゲビョルグの間を使者が行き来した。彼女はオーラヴ王と親族関係であること、スウェーデン王が彼女の弟を撃破したことに加担し、命まで奪ったという私怨のために、全力を持ってオーラヴ王を支援したいと望み、力を入れていた。ヤールは妻が熱心に勧めるのでオーラヴ王と友情を結び、王とエルヴのそばで会合することを了承した。そこで彼らはたくさんの問題を提起し、ノルウェイとスウェーデンの王たちの間にあるうらみごとについて話し合った。そして彼らはラヴィクの人々とガウトの人々がその理由のために自由交易がないことが最大のネックであると言った。別れの時に贈物を互いに贈り、友情に同意した。
ヴィクの豪農達は平和は両王が折り合いをつけることが一番で、戦をすれば悲惨なことになると判っていたが、誰もあえて王に口を開くものはいなかった。彼らはビョルン元帥に王にこの事柄を伝えるように頼み、彼は王に代わって平和にするためにスウェーデン王のもとへ家来達を送り出した。
「あ〜やだやだ。このことをどうやって「大きな」オーラヴに伝えりゃいいんだ。」と気に病むビョルン元帥。
しかし彼は決意をしてオーラヴに伝えた。しかしスウェーデン王へのあらゆる妥協を王に申し出ることを上手く話すことはできなかった。
その夏にアイスランドからノルウェイにオーラヴ王の命でヒャルティ・スケッギャソンがやって来た。彼は歓迎されビョルン元帥の隣に席を設けられた。彼らは友情を固め、その後に長く話し合いを行った。ビョルンは王に民衆は困っていると伝えた。
「そこまで言うんなら、お前がスウェーデン王と話をつけてこい。」とオーラヴ王。
その言葉に反泣きのビョルン元帥であった。
そして王は教会に行って盛式ミサを歌わせた。それから食卓についた。次の日、ヒャルティはビョルンに言った。
「どうした?うかない顔をして。」とヒャルティは訊ねた。
「困ったことになった。大役を命ぜられた。大役につくには名誉な事だ。しかしそれを遂行するには命の危険が伴う。しかしなぁ・・・」とビョルンが困りながら言い、昨日あったことを彼に伝えた。
「お前はこの使命を軽くみているんじゃないのか?恐らく、私はお前と共にその旅路につく事になるだろう。王がそんなことをほのめかしていたんでな。」とビョルンの困り顔に相反してさわやかなヒャルティ。まだ踏ん切りがつかないビョルン、それを見越したかのようにヒャルティが口を開いた。
「もしお前と別れたら、私はお前以上の友を手に入れることは難しいからな、お前が望むならお前と共に行こう。」と、あくまで前向きなヒャルティ。こんなへたれのビョルンのどこに惚れたんだろうか疑問である。
数日後、オーラヴ王が会合に行った時、ビョルンが11名の家来と共にやって来た。彼は使命につく準備が整い、馬は鞍を置かれ主人を待っていると伝えた。
「スウェーデン王に伝える事柄をお教えください。それと、あ、あの、閣下、何かよいお言葉を・・・」とビョルン。
「スウェーデン王に伝えておけ。オーラヴ・トリュグヴァッソン王が保持していた国境線にしたがって平和裏に国を分け、互いの国の国境を脅かさないということに同意するようにと伝えておけ。」
そして王は立ち上がりビョルンとその家来達と共に外に出て、黄金で飾られた剣と黄金の指輪を手にとってビョルンに渡した。
「これらはこの夏にヤールのラグンヴァルドが私に譲ったものだ。剣はお前にやろう。そして彼のところへ行き、指輪を見せるのだ。彼は役に立ってくれるだろう。」とオーラヴが言った。
ヒャルティは王の前に進み王に挨拶をした。
「閣下、我らはこの旅路における閣下の「幸運」を必要としております。」とヒャルティが言った。
そして王は幸運が彼らを再会できるようにしてくれると言い、そしてこう付け加えた。
「ヒャルティ、お前もこの旅に行くのか?」
おいおいお前が命じたんだろうと思いながら、
「ビョルンと共に。」とヒャルティがきっぱりと言った。
「この旅路に幸運あれ。」とオーラヴはこの難しい旅の成功を祈ったのであった。
ビョルンとその仲間は馬で行き、ヤールのラグンヴァルドのもとへ行った。彼らは大変歓迎された。ビョルンはその容貌と演説のやり方の両方で有名であった。ビョルンは全ての事柄に立って演説したからである。ヤールの妻のインゲビョルグはヒャルティのそばに行き、彼に話し掛けた。彼女の兄弟がオーラヴ・トリュグヴァッソンに仕え、彼がその同志であったので彼を見知っていた。そして共にヴォスの地主のヴァイキングのカリの息子である「丸いはげ頭の」エリク(オーラヴ・トリュグヴァッソンの母方祖父)とボドヴァル(ヴィルボルグの父の「白の」ギッスルの母のアロヴの父)が兄弟であったので、彼女は王とヒャルティの妻のヴィルボルグの親族関係を主張した。彼らはご機嫌であった。
ある日、ビョルンとその家来達がヤールとインゲビョルグと話をするために会いに行った。それからビョルンはやっと使命を彼らに伝え、ヤールに黄金の指輪の王の印を見せた。
「ビョルン、王はお前の死を望んでおるのか?そんな話をスウェーデン王オーラヴに言ってみろ、ただでは済まぬぞ。スウェーデン王は許すような方ではないぞ。」とヤールが言った。
「その通りでしょう。スウェーデン王が激怒する以外になにも起こらぬでしょう。しかし良い方向になるだろうと王の幸運を信じています。私は決意したのです、これをスウェーデン王に伝えると。」とビョルンが言った。それを聞いてインゲビョルグが自分の考えを言った。
「たとえ我らがスウェーデン王の怒りを買い、財産や全てを失うことになっても、それはスウェーデン王に伝えられるでしょう。」と彼女がいい、それを聞いたヤールは反論した。
「何をいっておるんだ、インゲビョルグ。お前はこいつらをそそのかしておるのだ。私は彼らが確実にこの使命を進めることができると自信がつくまでここで我らのもとで過ごすのがよいと思う。私はお前達を出来る限り支援しよう。」とヤールは言った。
ビョルンはヤールに感謝し、彼の助言に従うと言い、彼らと共に長い間を過ごした。
(01.04.30)
インゲビョルグは彼らと仲良くした。ビョルンと彼女はしばしばこの使命について話し合った。そしてヒャルティも彼らと話し合いをよくした。
「もしお前達が望むのであれば、私がスウェーデン王を尋ねよう。私はノルウェイの民ではないので、スウェーデン王は私が不利になるようなことはしないだろう。スウェーデン王のもとにスカルドの「黒の」ギッスルや「黒の」オッタルというアイスランド人が身を寄せており、彼らとは旧知の仲だ。彼らがよき助言をくれるだろう。私がこれを遂行するに相応しいと思わないか?」とヒャルティは言った。
こんなカッコの良いヒャルティを感激しながら見るインゲビョルグとビョルン。そして彼らは彼の賢明な案に乗る事にした。インゲビョルグはヒャルティの旅の準備をし、2人のガウト人の従者、銀20マルクを準備した。インゲビョルグはスウェーデン王オーラヴの娘のインゲゲルドに手助けを求めるために必要な伝言とその印となるもの彼に託したのであった。ヒャルティは準備が済むとすばやく出発した。スウェーデンに到着すると彼はスカルドのギッスルとオッタルに出会った。彼らは彼を歓迎し、大喜びであった。そして彼らはヒャルティを連れてスウェーデン王オーラヴのもとへ行った。彼らはヒャルティが同郷人で、郷里では非常に栄誉ある者であると伝えた。ヒャルティは王のもとにいる事を許され、歓迎されたのであった。
ある日、ヒャルティとスカルド達は王に会いに行った。王を賞賛した後に続けてヒャルティは言った。
「アイスランド人がノルウェイを訪れた時、土地税を払うという取り決めがアイスランドとノルウェイ間で取り決められております。しかし私は閣下の力がノルウェイに及んでいると知ったので閣下に土地税を支払いましょう。」と彼は言いながら王に銀10マルクを見せ、それを「黒の」ギッスルの膝に流し込んだ。
「ノルウェイからこんなものが来るのはしばらくぶりだな。私はお前の好意を喜ばしく思うぞ。」と王は感激して言った。
ヒャルティは王から友情を受け、王としばしば話をする仲になった。ヒャルティはギッスルとオッタルに王女インゲゲルドに口を利いてもらえないか訊ねた。それは難しいことではなかった。ある日、たくさんの者達が酒を飲んでいる館にいた彼女に会いに行った。彼女はスカルド達をよく知っていたので彼らを歓迎し、ヒャルティはヤールの妻のインゲビョルグの言付けを彼女に伝え、その印を見せた。そして彼女はヒャルティに話をするために訊ねてくるように言った。ヒャルティは彼女をしばしば訊ね、彼はビョルンとの旅のその使命を彼女にそっと打ち明けた。そして彼女に王たちが平和に折り合いをつけるために協力して欲しいと頼んだ。
「父上が「大きな」オーラヴと折り合いをつけるなんてことは考えられません。恐らく大変お怒りになるでしょう。」と彼女は困った顔で言った。
ある日、ヒャルティは王の前に座って話をした。王はたくさん酒を飲んでいたので大変ご機嫌であった。そしてヒャルティは王を賞賛して王を喜ばせ、その後に切り出した。
「民衆はスウェーデンとノルウェイが折り合いをつけることを望んでおります。そしてノルウェイ王もそう思われております。彼は自身の権力が閣下に劣っておることを承知しているはずです。ノルウェイ王は閣下のご息女のインゲゲルド様に求婚されることを考えておられるでしょう。そしてそれは永遠の平和を保障するものです。」と言った。
「お前はそのようなことを口にすべきではない。よいか、ヒャルティ、高慢な者はこのスウェーデンの宮廷では王を名乗ることは許されず、やつの言い分はなんら価値のない事だ。私は10代目のウプサラ王であり、それは正当に受け継がれたもので、スウェーデンやそれ以外の広い領土の単独王であるゆえ、やつと私はつりあわぬのじゃ。ヒャルティ、お前は頭がよいので理解できるな?ノルウェイはわずかな者しか住んではおらず、ハーラル美髪王が最高権力者だったといっても、そこにはまだ小王達がたくさんおる。そして彼は賢明にも己が領分を心得ており、スウェーデンを欲するなどということは無かった。だからスウェーデン王は彼に力を見せつけるようなことはせなんだのだ。そしてその上に我々には親族関係を結ぶ事となったのだ。しかしアセルスタンの養い子のハーコンがノルウェイを統治した時、彼はガウトランドとデンマークで戦をするまで平和に過ごしていた。その後に彼は軍を引き連れて進軍した。グンヒルドの息子達はデンマーク王に服従することを止めた時が人生の終わりとなり、ハーラル・ゴルムソン(青歯王)がノルウェイをデンマークに取り込み、税を課したのだ。しかし我らの親族のスティルビヨルンが彼を脅かし、ハーラルが家来となったので彼らはウプサラ王の足元にも及ばぬ存在であると認識したのだ。しかし我が父であるエリク常勝王はスティルビヨルンと力比べをした時、彼を超えたのだ。そしてオーラヴ・トリュグヴァッソンがノルウェイにやって来て、自身を王と称した時、デンマーク王スヴェンと私が共に行き、やつをその座から退き下ろした。わかるか、それほどまでに我が力はノルウェイを凌駕しておるのだ。わかるなヒャルティ。」と王はくどくどと言ったのであった。
ヒャルティはこれ以上はなにをしても無駄と思い、立ち去った。少し後に彼は王女に会いに行き、彼女にことの成り行きを伝えた。
「予想した通りです。」と王女はあきらめながら言った。
「どうか王女から王に話をしてはくれませぬでしょうか?」
「父上は耳を貸さないでしょうが、やるだけはやってみます。」と彼女は了承したのであった。
ある日、インゲゲルドは父の機嫌がよいと見て話を切り出した。
「お父様は父上と「大きな」オーラヴ王の間にある敵意をどうお考えなのでしょうか?民衆は皆、悲しんでおります。お父様の家来達はノルウェイに行く事が出来ぬとほとほと困っております。どうですか、お父様、そろそろノルウェイを欲することをやめて、その目をバルト海に向けては如何でしょうか?かの地は以前はスウェーデン王の領土であり、スティルビヨルン(エリク常勝王の兄弟の息子)がバルト海を荒らし、ヨムスボルグを征服し自らの支配下にした土地です。「大きな」オーラヴにノルウェイを統治させ、彼とかの国を平和にさせてはいかがなものでしょうか?」と賢明な彼女は言った。
「このわしにノルウェイをあきらめ、お前をデブに嫁がせるのがお前の望みというのか!そんなことはさせぬ。むしろ冬のウプサラでシングを行い、わしがノルウェイに行き、かの地を荒らし全てのものを灰に変えるであろうと氷が水に姿を変える前に全スウェーデン人に知らしめるだろう。」と、王はまっかに激怒しながら言ったのであった。
それ以上、彼女は何も言葉を発することができず、立ち去った。ヒャルティは彼女が出てくるのを見ており、すぐに彼女のそばに行きことの成り行きを尋ねた。
「予想した通りです。もうあなたも父上にこの事でお話をなされぬ方がよいと思います。」と彼女は答えた。
(01.05.01)
この後もヒャルティと王女は「大きな」オーラヴの事柄を話し合った。そしてヒャルティのクセなのか人をよく見てしまうのが彼のいいところなのか、彼は彼女にオーラヴ王について様々な事柄を話した。すると王女はすっかり勘違いしたのか「大きな」オーラヴに惚れ込んでしまったのであった。そしてヒャルティは一言王女に言った。
「インゲゲルド様。私が思っていることを敢えて口にすることをお許しください。」
「どうぞ。どんなことでも気軽に話して。」
「もし、ノルウェイ王オーラヴが貴女様にプロポーズするために家来を遣わせたとしたら、どうなさいますか?」とヒャルティは言った。
その言葉に彼女は頬を赤らめ、ゆっくりと答えた。
「私にはわかりませぬわ。」と彼女は言った。確かにこの時代、王が娘の嫁ぎ先を決めるもので、王女の一存では決められないというのが正直な所であった。そしてヒャルティはこのことをおし進めようと益々「大きな」オーラヴ王を賞賛したのであった。
「でもこのことは他の方の耳に入らぬようにしてください。父上の耳に入るとまたお怒りになるでしょうから。」と彼女はヒャルティに言い聞かせたのであった。
ヒャルティはスカルドのオッタルにこの事を打ち明け、彼もこの事柄に賛成し、彼はガウト人の家来をヤールやその妻にも相談するために派遣し、家来はユール前にヤールの館に到着した。
「大きな」オーラヴがビョルンとヒャルティを送り出した同じ時期に、他の家来達をオプランドに遣わせた。その冬はオプランド中で宴の接待を受けるつもりであった。それ以前の王は3年ごとに冬にオプランド中の宴の接待を受けるのを常としていたからである。オーラヴのその旅はボルグから始まり、ヴィングマルクに行った。宴に遠くからも人々を呼び寄せ、その場で彼はキリスト教の重要性を説き、未だ古の神々の信仰を捨てない者たちには罰を与えた。罰とは手足を切り落としたり、目をえぐったりといったものであった。王はあちこちに行き、富めるもの貧しきもののどちらも罰した。そして王はラウマリークに行き、その地ではキリスト教が守られていないのが判り、もっと奥では益々そうであった。そして王は厳しく罰を与えたのであった。
ラウマリークを支配していた王がこの状況を知り、彼のもとにたくさんの者達が直訴しにやって来た。そして王はその辺りで一番の見識者であったレリク王の助言を求めてヘデマルクに行こうと計画した。そして王たちが集い話し合いをした結果、北のグドブランスダーレのグドレド王に使者を遣わせて、会合に誘った。そして5人の小王がヘデマルクのエイングサケルで会合を行った。5人の中にはレリク王の兄弟のリングがいた。そして王は「大きな」オーラヴのラウマリークでのやり方についてあれやこれやと話し合った。そして不注意にもダーレの王のグドレドが言ってしまった。
「5対1だ!こてんぱんにやつをのしてしまおう!」
「そうだな、それにはまず我らの結束だ大事だ。」とレリク王が口を開いた。
そして彼らはオーラヴの動きを探るためにスパイを放ったのであった。オーラヴはあちこちで宴の接待を受けていた。リンガネスのケテルはその集団の中にいた。彼は夕方にやってきて、夕食を取り、その後に彼と彼のフスカールは服を整えて水辺に行った。オーラヴ王から譲り受けた彼の船を水上に押し出した。ケテルには40名の武装した家来がいた。ある日の早朝にヴァセンダに行った。そして半分の20名を連れて上陸し、残りの20名に船を見張らせた。その時、オーラヴ王は高地ラウマリクのエイドにいた王がマティンから来た時にケテルはそこからやって来て、王は彼を快く迎えた。そしてケテルが王に会いに来たその重要な事柄を伝えた。
「む、小王たちがそんなことを考えているとは。家来達を集めるのだ。誰か馬を探して来い。」と王は家来達に命じた。家来達は農場に馬を求めて行き、船を捜しに水辺に行き、手配した。そして彼らは教会に行きミサを行わせ、その後に食事を取って、水辺に向かったのであった。そしてその夕方に出帆した。王には400〜480名の家来がいた。夕暮れにリングサケルに到着したのだが、見張りは近づくまでそのことに気がつかなかった。ケテルと彼の家来達は王たちが寝ている場所を正確に把握しており、王軍は館を包囲してねずみ一匹たりとも見逃さぬようにした。そして彼らは昼になるのを待った。王たちは抵抗できずに捕虜として捕らえられた。5人の小王達はオーラヴの目前に引き出された。レリク王は見識者で、厳しい人であったので、信用できないと思ったのでその両目をつぶした。ダーレ王のグドレドは舌を切り取られ、それ以外の3名の小王にはノルウェイ追放を命じたのであった。そしてオーラヴ王は5人の小王が所有していた領土を取り込み、小王たちに加担した地主、豪農から人質を取った。そして王はラウマリクへ行き、その後にハデランドに行った。
その冬にオーラヴ王の義理の父の「雌豚の」シグルド王がなくなった。そして王はリンゲリークに戻り、母アスタは葬儀の宴を盛大に行った。そして「大きな」オーラヴは全ノルウェイの王として宣言したのであった。
この宴にオーラヴがいた時のおもしろいエピソードがあります。王母アスタはオーラヴに3人の息子を合わせた。彼らはシグルド王とアスタの間に生まれた「大きな」オーラヴの義兄弟で、グソルム、ハールヴダン、ハーラルである。王は方膝にグソルムを乗せ、もう方膝にハールヴダンを乗せ、彼らを睨み付けた。目の鋭いオーラヴににらまれた彼らは怖がった。そしてそれからアスタは末っ子の3歳のハーラル(後のハーラル苛烈王)を連れて行った。オーラヴはハーラルをにらみつけたが、ハーラルは怖がることなくオーラヴをにらみかえしたのであった。それからオーラヴは弟の髪を引っ張ったが、弟は王の髭を引っ張り返したのであった。オーラヴは彼が見込みある若者であると思った。
次の日、王は王母アスタと村へ向かい、グソルムとハールヴダンの弟達が遊ぶ湖水に向かった。弟達は遊びでたくさんの羊や牛を作り、農場を作り、農場経営ごっこをしていた。そして湖水に沿って小道があり、そこはぬかるんだちょっとした小川があり、そこにハーラルがおり、彼は木片を浮かべて遊んでいた。王は末弟に何をしているか訊ねた。
「軍船だよ。」
「ほう、お前は軍船を指揮する者になるだろう。」とオーラヴ王は言った。
そして王はハールヴダンとグソルムを呼び寄せて訊ねた。
「グソルム、お前が最も手に入れたいものはなんだ?」
「土地。」
「どれぐらいの土地だ?」
「水辺までのここの全ての岬の土地が欲しい。夏にいつも種をそこにまくんだ。」
「それはそれはたくさんの穀物が育つのだろうな。」と王は言った。
そこには農場が10個あったからである。そして王は同じようにハールヴダンに尋ねた。
「牛。」とハールヴダンは答えた。
「何頭ぐらいなんだ?それは。」
「たくさん。この水辺を埋め尽くすほどの牛。」
「随分とたくさんだな。お前の父のシグルドのようだな。」と王は答えた。
そしてオーラヴが見込みありそうだと思っているハーラルに訊ねた。
「お前はどうなんだ?」
「フスカール、家臣さ。」と答えた。
「何人ぐらいかな?」
「ハールヴダンの牛を一度の食事に食べ尽くすほどの人数。」
さすがのオーラヴもこれには感心し声高らかに笑ったのであった。実に見事な弟であった。
「母上、あなたは確かに”王”を育てておられる!」
北海の巨星ハーラルのエピソードである。
スウェーデンでは2月中旬〜3月中旬までウプサラで血の供儀を行っており、いまだに古の神々を信仰していたのであった。そしてウプサラはスウェーデンでも最大の聖地で様々なところから供儀を行うために人々が集ったのであった。そしてその時、全スウェーデンのシングが行われ、市場も立ち、それは1週間続くのであった。キリスト教が到来してもなおそうであった。しかしスウェーデンが完全に改宗された時、玉座はウプサラから移され、市場はキャンドルマスに移された。そしてスウェーデンは様々な統治区、教区に分けられ、それらの区では独自の法が制定され、法律家が置かれていたのであった。
(01.05.06)
スウェーデンの州のチュンダランドにトルグニィという法律家がいた。彼の父はトルグニィ・トルグニィソンで、彼の先祖は先立つ時代のチュンダランドの法律家であった。トルグニィは老齢で、たくさんの親衛隊を抱え、スウェーデン随一の賢者であった。そして彼はヤールのラグンヴァルドの親族で養父であった。そしてそのラグンヴァルドのもとへ王女インゲゲルドとヒャルティが送り出した家来達が訪れた。彼らはヤールとその妻にその使命を伝え、ノルウェイとの和平をどのように考えているかを伝えた。そしてそれに対する否定的なスウェーデン王オーラヴの態度も伝えた。そしてそれが絶望的なことを知り、その旨、親友がせっせせっせと頑張っている一方こんなところでぼーっとしていたビョルンに伝えた。
「無理ですね。ノルウェイとスウェーデンの和平なんて。」とビョルンはヤールに言った。
「スウェーデン王オーラヴと直接話しをしましょう。王に謁見するまではここには戻らない。そして君も私と共に行くのだ。」とヤールはきっぱりと言った。
彼らはユール後に支度を整え、60人の家来と元帥のビョルンとビョルンの同志と共に出発した。スウェーデンの地を踏んだ時、ヤールは前もってウプサラの王女インゲゲルドとの謁見の許しを得るために家来を向かわせていた。会合の地は彼女が保有していた広大な地でウッララケルであった。そして彼女は家来の数が不十分ではあったが、それに戸惑わず出発した。そしてヒャルティは彼女のお供をすることを希望し、出発前にスウェーデン王に向かって言った。
「閣下、お別れです。私はこの地で受けた栄光を忘れはしないでしょう。そして私は今よりずっと閣下を褒め称えるでしょう。」と、ヒャルティがいった。
「どこへ行くのだ?」
「閣下のご息女と共にウッララケルへ馬で向かいます。」
「そうか、お別れだな。お前は、見識ある者で、礼儀正しく、分別をわきまえておる者であった。」と王は言った。
つくづく、なぜビョルンにほれ込んでいるのだろうか、疑問である。そして彼らは出発し、その地に着くとヤールのために盛大な宴の用意を整えた。ヤールは歓迎され、数日間、彼は彼女の世話になったのであった。そして彼らはノルウェイとスウェーデンの運命について深く話し合った。
「もし、ノルウェイ王オーラヴがあなたに求婚するとすれば、あなたはどうなさいますか?この和平を推し進めるにはそれが大切だと思われます。」とヤールは王女に訊ねた。
「私の夫は父王がお決めになることでしょう。その計画はあなたはどれぐらい有効だと考えておられるのでしょうか?」とインゲゲルドは言った。
そしてヤールはそのことを推し進めるために、彼女にノルウェイ王オーラヴのいいところをいいまくったのであった。彼が先日オプランドの5人の王達から王国を取り上げて自分のものにしたこと、それ以外のことでも誉めて誉めて褒めちぎったのであった。そしてしばらくしてヤールは支度を整えてあるところに向かい、ヒャルティも彼に従い出発したのでった。その場所とは法律家トルグニィであった。
ある日の夕方、ヤールのラグンヴァルドはすばらしい館に住み、たくさんの家来を抱えている法律家トルグニィのところへ到着した。彼は歓迎され館の中に通された。館の中にもたくさんの人がいた。トルグニィは立派な髭と携え、それは膝に達するほど長かった。
「ラグンヴァルド、好きなところに座るがよい。」とトルグニィが言った。
ヤールは高座に座る養父トルグニィの反対側の中央に席を取った。ヤールが心のうちを語るまで数日が過ぎたのであった。夕食の席でやっと彼は使命を伝えた。
「トルグニィ殿、私の手には余る問題です。賢者である貴殿の助言を頂きたい。」とヤールは言った。そして長くヤールはことの次第を語ったのであるが、彼の話が終わってもトルグニィは口を閉ざしたままであった。
「変じゃのう、ラグンヴァルドよ。お前はヤールの職についてから長い時間が経っただろう。どうやらお前はヤールの器ではないのだなあ。お前は今までどうやって問題を解決してきたのかな?不思議じゃのう。お前はスウェーデン王に会う度胸もないくせに、この旅についたんだなぁ、困ったことじゃ。この使命を名誉あることだと考える者もおろうに。ウプサラのシングに行こう。そこではたとえ王であろうとも発言の自由を剥奪することはできぬからなぁ。お前はそこで恐れずに王に伝えるのだ。」と大賢者のトルグニィは正論をヤールにたたきつけたのであった。そしてこの助言にヤールは感謝し、その後にウプサラのシングに向かったのであった。
(01.05.10)
彼らが到着すると、大群衆がそこにあり、すでにオーラヴ王が回りを親衛隊で固めていた。初日にシングが行われ、オーラヴ王は自らの席につき、その周りに親衛隊がつき、その反対側には親衛隊で囲まれているヤールのラグンヴァルドとトルグニィのフスカール達が席を取ったのであった。席の周りには地主達が背後、左右を取り囲んでいた。ある者たちは土手や丘に登りその動向を見守ろうとしたのであった。そしてシングは始まり、元帥のビョルンがヤールのそばに立って大声で言った。
「オーラヴ王はスウェーデン王と折り合いをつけたいと申し出ており、ノルウェイとスウェーデンの古からの境界線に同意して欲しいと申しております。」と王にはっきりと聞こえるように大きな声で言った。
しかしスウェーデン王オーラヴはぼーとしており、オーラヴという単語に自分の事が述べられていると勘違いしたが、すぐに不愉快な男のノルウェイ王オーラヴのことであると判ったのであった。そして立ち上がり、その話をさえぎるために大声で叫んだ。その後にヤールが立ち上がり、演説した。ヤールはスウェーデン王オーラヴへの「大きな」オーラヴからの言付けを伝え、西ガウト人はノルウェイとの平和を望んで彼に懇願していると伝えた。西ガウト人の厳しい境遇であるが、もしノルウェイ王が進軍してくるのであれば、毅然とした態度で戦うとも言っていると伝えた。そしてヤールはノルウェイ王オーラヴがスウェーデン王女インゲゲルドの助けを求めるために使者を送り出したとも語った。しかしながらヤールが演説を終えた時、スウェーデン王は立ち上がり、この平和についての話に熱くなって応え、ヤールの意見に反対した。ヤールは自らの王に対する背信行為によって追われる立場となろうということが判ったのであった。王は長い演説を終えて席についたのであった。
(01.07.16)
スウェーデン王オーラヴは長い演説を終えて着席し、最初のうちは沈黙していた。そしてそれからトルグニィが立ち上がり、彼が立ち上がると前に座っていた地主達も立ち上がり、皆彼の話に注目したのであった。人々がいる場所では身に付けている武器ががちゃがちゃと音を立てたのであった。そしてその音が止む前にトルグニィは口を開いた。
「スウェーデンの王達は以前に増して国のことを心にかけておられる。我が祖父のトルグニィはウプサラ王エリク・エムンドソンのことをよく知っており、王が最も活躍した時期の毎夏に軍隊を率いて多くの国々へ向かったと祖父から聞いたものだ。王はフィンランドのキリアラー(フィンランド北東部)、エストランド、クーラランド、東方の国々とたくさんの地を手中に納められ、王が建造された土塁やそれ以外の見事な功績というものは今も目にすることが出来る。王は人々と話し合いをする時、民衆の話に耳を傾けられ、決して高慢ではなかった。我が父のトルグニィはビョルン王と長い時を共に過ごし、王の振る舞いをよく知っていた。ビョルン王の時代は国力は強く、王は友人達に寛容で、それゆえ失うものは何もなかった。エリク常勝王の事を私はよく知っている。私は王と共に数多くの襲撃に出た。王はスウェーデンの国土を増やし、力でそれらを守ったのであった。我らは王に助言をする事は容易い事である。しかし王は自身が抱えるであろう1つの事柄を除いて、誰にも意見をさせはせぬだろう。王は背信行為のために自らの領地を手放した。それ以前のスウェーデン王は誰も欲さなかった事、支配下のノルウェイの領地を守りつづけ、その事は多くの者達に問題を与えることになった。今、我ら地主どもは閣下がノルウェイ王「大きな」オーラヴと和解し、王女インゲゲルドとの婚姻を認める事を望んでおります。もし閣下の御先祖様、親族様が所有したバルト海の国々をご自身のものに再び手中に納めるのであれば、我らは閣下に喜んで従いましょう。しかし閣下が我らの助言を受け入れないというのであれば、我らは閣下に剣を向け、首を取ります。閣下の不穏や無法にこれ以上我慢は致しませぬ。我らの先祖もこのような方法を取ってきたのだ。ムーラ・シングで、今、閣下が我らに行っているような高慢を行った5人の王達を泉に投げ入れて沈めた。閣下、すぐに決定を下していただきたい。」と、トルグニィは言った。
そして群集は武器をバンバンと打ち鳴らし、激しい音を立てた。それから王は立ち上がり、口を開いた。王は地主達が要求することを全て受け入れると言ったのであった。
「こんな風に全てのスウェーデンの王達は行ってきたのである。王達は地主達と対等に話をしてきたのである。」
それから地主達の叫びが収まり、その後に王やヤールといった統治者達とトルグニィは話し合い、そして彼らはノルウェイ王が前もって言っていた事柄について折り合いをつけ、スウェーデン王の振る舞いをおさめたのであった。このシングでノルウェイ王とスウェーデン王女の結婚が取り決められたのであった。王はヤールにこの婚約を整えさせ、この結婚にまつわる事柄の全ての準備を命じた。そしてシングはしばらく続き、その後に彼らは解散したのであった。そしてヤールが家路に就いた時に、王女インゲゲルドに会い、その事柄について話し合いをした。彼女はオーラヴ王に黄金で刺繍され絹で飾られた毛皮のマントを贈った。ヤールはガウトランドに戻り、ビョルンは彼と共に行った。ビョルンはそこにしばらく滞在し、それから従者と共にノルウェイに戻った。そして彼はオーラヴ王と会った時に、結果を伝え、王は彼に感謝し、ビョルンがこのような不穏の真っ只中でその使命を果たすことができた幸運をビョルンが持っていたと言ったのであった。確かにへたれビョルンは人に恵まれ幸運であった。
時は流れ春になった。オーラヴ王は海に出るために船の準備を整えさせ、家来を招集し、リンダンディネスほど遠くへヴィクに沿って船を進め、北のホルダランドに向かった。王はその地の者達に命を送り、権力者達を招集した。王は王女を花嫁として迎えに行くための準備をした。婚礼の宴は国境地帯(ヨータ川付近のノルウェイとスウェーデンの国境地帯)のそばの東のエルヴの近くで秋に催された。
オーラヴ王は盲目のレリク王をそばに置いていた。レリクの傷が治ったときに、オーラヴ王はレリク王に仕えるための2人の家来をつけ、オーラヴと共に高座にレリクを座らせた。レリクは以前と同じように酒を飲み、相応しい服をまとっていた。レリクは言葉少なく、話かけられた時は端的に応えていた。レリクは日中は常に自身の小間使い少年に命じて他の者達から離れて外に連れ出させていたのであった。ある日、レリクは召使少年をぶった。その少年は王のもとから去り、レリクはオーラヴに少年はもう仕えないだろうといった。それからオーラヴはレリクのために新しい召使と交代させたのだが、どの少年もレリクの振る舞いに耐えられなかった。そしてオーラヴはレリク王にスヴェンという者をつけた。この男はレリク王の親族で、以前は彼の家来であった。レリクはいつも不機嫌で、あいかわらず一人で時を過ごしていたのだが、レリク王がスヴェンと一緒にいた時は機嫌よくおしゃべりであった。レリク王は昔あった事柄や、自身が王であった時の事柄を覚えており、以前の権力、自らの運命、現在の囚われの状態を語った。
「お前や我が親族達は屈しておる。そして我ら血族に行われた恥に復讐するということはわしの責務じゃ。」と彼は言った。
このような危険な話を彼はしばしば口にした。スヴェンは、彼らには今はわずかな力しかなく、大きな力の差で戦わなくてはならないと賢明にも応えたのであった。
「なぜ恥じを傷を抱えて生き長らえなくてはならぬのだ。我らの幸運を試し、「大きな」オーラヴを殺害するのだ。やつは今は何も恐れておらぬ。どうだ1つの計画をたてようじゃないか。わしはどんな事も惜しまぬ。しかしわしは盲目ゆえ何も出来ぬ。お前はわしの代わりにやつに武器を向けることができるじゃろう。オーラヴが殺害されると、やつの領土はやつの敵どものものになろう。予言しよう。そしてわしが王に君臨し、お前はヤールになるのだ。」とレリクは言った。
おいおい何を世迷言を言っておるのだとスヴェンは当初思ったものの、あまりにレリクが熱弁するのでうっかりとこの愚かな計画に首を立てに振ってしまったのである。それから王がエヴェンソングに行った時、スヴェンは彼の前の外側のポーチでマントの下で引き抜いた剣を持って立つことが許された。しかし王がその教会にやって来た時に、彼はスヴェンが予想するよりはるかに早くやって来て、そして彼は王の顔を見た。それから彼は顔を青くして、死者のように白くなり、両手は垂れ下がった。王は彼のおびえに気がついた。
「スヴェンどうした?私に刃向かうというのか?」
スヴェンはマントを投げ捨て、剣を抜き、王の足元に落としてそして口を開いた。
「閣下に栄光あれ。」
王は家来達にスヴェンを捕らえるように命じ、そして彼は鎖に繋がれた。それから王は、以前はレリクは玉座に座っていたのであるが、レリクの席を玉座の反対側にある第二位の席に移し、スヴェンを許し、スヴェンはその地を去っていった。王はレリクに館を与えた。その館ではたくさんの親衛隊が寝たのであった。王はレリクに四六時中付き添うための家来を2人つけたのであった。この2名はオーラヴ王に長く仕え、オーラヴに忠実であった。レリク王はこのような状況下に置かれ、長らく沈黙を保ったので、彼が言葉を発するのを耳にしたものはいなかった。そして口にしたことは機嫌よく愉快なことばかりなので、皆は彼が愉快に過ごしていると思っていたのだが、口にしたことは忌まわしき事柄ばかりであった。彼は酒を勧め、彼のそばにいた者たちを泥酔させた。しかし彼はほとんど酒を口にしていなかったのである。レリクは蜂蜜酒の大樽をいくつか運ばせ、同居人に勧め、それゆえ彼は大変好かれたのであった。
(01.07.29)
オプランド出身のフィン人の「小さなフィン」という名の男がいた。彼は小柄であったが、どんな馬も追いつくことができぬほど非常に足が早かった。スキーと弓の腕前はぴか一であった。彼は長らくレリク王に仕えており、信頼されていた。彼はオプランドの様々な道を知っており、そしてその地の有力者達に知られていた。彼はできる限り監視下にあるレリク王のそばにおり、彼は王に話し掛けた。しかし王は一度にたくさんの会話はせず、回りには悪巧みをしていると思わせたのであった。春が過ぎ、彼らはヴィクに行き、フィンは数日間軍隊から抜けていた。それから彼は戻り、しばらく滞在した。そして軍隊では多くの脱落者がいたので、そのことを気にかける者はいなかった。
オーラヴ王はイースター(1018年4月6日)前にツンスベルグに行き、春をそこで過ごした。そしてその町にはサクソン人、デーン人のたくさんの商船、ヴィクの東部やそれ以外の場所からたくさんの人々がやって来ていた。非常に多くの人々がそこにいたのであった。季節もよく、たくさん酒宴が行われていた。ある夜遅くにレリク王は寝室に入った。彼は酔っ払っており、愉快にしていた。そこへ蜂蜜酒の大樽を持って「小さなフィン」が入ってきた。その酒はスパイスが効いており、非常に強い酒であった。王はそこにいた者たちにどんどん振るまい、そこにいた者は全て酒に酔って寝込んでしまった。その後にフィンは逃げ去ったが、部屋の光はともされたままであった。それからレリク王は彼の家来達を起こし、庭に出たいと言った。夜の帳も下り、火のついたランプを手に出たのであった。庭には入り口の扉まで階段のある大きな母屋があった。レリク王とその家来達が座っていた時に彼らは一人の男が叫ぶのを聞いた。
「バケモノを倒すのだ!」
その叫びの後に衝突音と何かが倒れたような音が耳に入った。
「酔っ払いが騒ぎを起こしておる。行って止めて来い。」とレリク王が命じた。
彼ら2人は走って行き、階段のところまで来た時に、後から来た者がまず攻撃を受け、両者は殺害された。レリク王の家来達がそれからそこにやって来た。しこには彼の軍旗持ちであった「打撃の」シグルドとそれ以外の11名、そしてフィンがいた。彼らは館と館の間に死体を引きずって行き、彼らは王と共に行き、彼らが用意していた小舟で逃げ去った。スカルドのシグヴァットはオーラヴ王の館で寝ていた。その晩に目がさめた彼と彼の召使の少年は大きな母屋に向かった。そして彼らが戻ってきて階段を下りたところ、シグヴァットは足を滑らせ膝を打った。彼は両手を下げた時、何かが下に垂れているのを感じた。
「やれやれ、誰だこんなところで粗相をするのは。だいぶ酒が多かったようだな。」と彼は笑った。
しかし彼らが火のともされた部屋に入った時、召使の少年が言った。
「ご主人、お体が血だらけです。」
「俺は怪我なんぞしておらん。これは悪い知らせだ。」と彼は答えた。
それから彼は仲間の軍旗持ちのトルド・フォラソンを起こし、ランプを手に外に出て、血溜まりを見た。その後すぐに死体を見つけ出した。彼らはすぐに少年をレリク王がいる場所に向かわせた。その館の者達は寝込んでいたが、王はそこにいなかった。彼はその館の者達を起こし、事の次第を伝えたが、だれもレリク王を追おうとしていなかった。
「トルドよ、お前はレリク王を追うか、オーラヴ王に事の次第を報告すべきじゃないのか?」とシグヴァットは言った。
「王を追う気はないな。俺がオーラヴ王に報告してくる。」とトルドが言った。
「朝までかなり時間がある。夜明けまでにレリクは身を隠す場所を見つけるだろう。それからだとレリクを見つけるのは困難だ。死体はまだ暖かい。やつらはまだ遠くに行っていないはずだ。こんな失態を王に報告できぬ。レリクの背信行為を王に伝えるな。お前は部屋でじっとしていろ。」
それからシグヴァットは教会に入り、鐘の打ち手を起こして命を落とした者たちのために鐘を鳴らすように言い、殺害された者達の名前を伝えた。鐘がなり、王がそれゆえに起きてしまった。王は早祷の時間かどうか尋ねた。
「悪い知らせです。レリク王が逃亡し、親衛隊の2名が殺害されました。」とトルドは言った。
そして報告を受け、王は親衛隊を呼び寄せた。そして海路、陸路とありとあらゆる道に派遣した。背高トーレは30名の部下を連れて快走船で行き、日が昇った時に2艘の小さな快速船が行くのを見た。レリク王が30名の部下と共にいた。そしてトーレの船が近づくとレリクは陸に向かって方向を転じ、岸に飛び降りた。しかし盲目の王は船尾に座っていた。その後にトーレの部下は岸に向かって漕ぎ出したが、「小さなフィン」は弓を引き、その矢はトーレの体の真中に突き刺さって絶命した。シグルドと彼の家来達は森の中に逃げた。トーレの家来達は主人の亡骸とレリク王を連れてツンスベルグに戻った。そしてさらに厳しい監視下にレリク王は置かれることになったのだ。
昇天日(1018年5月15日)にオーラヴ王が大ミサに向かった。司教は王を導きながら教会の周りを列を組んで進んだ。そして彼らが教会に戻って来た時に、司教は聖歌隊の北側の玉座に王を導いた。レリク王はいつものように王の隣に席を取り、彼の顔に布をかけた。オーラヴ王が座った時に、レリク王は肩に手を置いて、手探りして話し掛けた。
「随分と立派な布をお持ちのようだな、我が親族よ。」
「大地から天に主が昇天した大事な日だからな。」とオーラヴが答えた。
「お前はキリストに取り付かれているようだが、わしにはお前が言った奇跡の数々なんぞ信じられぬわ。」とレリクが答えた。
そしてミサが厳かに執り行われ、オーラヴ王が立ち上がり、頭上に両手を持ち上げて祭壇に向かってお辞儀をすると肩からマントが垂れ下がった。そしてレリク王はすぐに立ち上がり、ナイフでオーラヴに襲い掛かった。王は頭を下げていたので肩付近のマントにそれは突き刺さった。マントは大きく裂けたが王は怪我1つなかった。オーラヴ王がそのことに気づきひらりと身を返した。レリク王が2度目の攻撃をしたが、それは空を切った。
「「大きな」オーラヴよ。主は目のみえぬわしの前から逃げたか。」とレリクが言った。
オーラヴは家来達にレリク王を教会から連れ出すように命じた。この一件の後に、周りの者はレリク王を処刑することを薦めた。
「今こそレリク王の邪悪なる事に対して、閣下の幸運を確かめる時です。レリク王は閣下のお命を四六時中狙います。もしレリク王を自由にさせると軍隊を連れて閣下に向かうことでしょう。」
「お前の意見はもっともだ。レリクのために命を落とした者は少なくない。しかし私はオプランドの5人の王達を捕らえ、誰一人首を取ることなしに彼らの領土を手中に収めた。彼らは皆、私の親族だ。レリクの首を取ることが正しいことかどうか私は決めあぐねるのだ。」
レリクは話を聞いて、オーラヴ王の肩に手を置いた。なんてことはない、彼はオーラヴがブリニャ鎧を身に付けているかどうか確かめたかっただけであった。とことんこりないレリクであった。
(01.07.30)
そこにはアイスランド人でアイスランド北部のノースランド系のトラレン・ネヴィオルソンという男がいた。家柄はよくはなかったが、頭がよく、演説がうまく、王侯達と対等に話ができた。彼はすぐれた旅行者でもあり、長い間海外で過ごしていた。しかし彼の容姿は醜く、手足の形が悪く、特に足が醜かった。こんな状況下で彼はツンスベルグにいた。彼はオーラヴの知人であった。彼は商船を準備して、その夏にアイスランドに向かおうとしていた。オーラヴ王はトラレンを客人として迎え、彼と会話をした。トラレンは王の部屋で寝泊まりした。ある朝早くに王は目を覚ました時、トラレンの足が片方布団から出ているのを目にした。それから周りの者が目を覚ました。
「いやこれはまたすごいものを見た。この町で一番と思われるぐらい醜い足だ。」とオーラヴ王が言った。
そしてそのことが正しいかどうか回りの者に聞いたところ、周りの者達は同意した。
「これ以上に醜い足を知っております。」とトラレンが答えた。
「ほう、おもしろい。証明してみせよ。」とオーラヴ王が言った。
「これでございます。」とトラレンは言いながら、もう片方の彼の足を布団から突き出したのであった。
その足はやや醜く、つめ先がなかった。
「ほら閣下、こっちの足はつめ先がないのでずっと醜いでしょう。この賭けは私の勝ちですなぁ。」とトラレンが言った。
「どうかな。最初の足には醜い指が5本ついていた。だがこれには4本しかついておらぬ。」と王はまけじと言った。
「これはこれは閣下。では閣下は私から賭けの勝ちとして何をお望みでしょうか?」
「そうだな。レリク王をグリーンランドのレイフ・エリクソンの下へ連れて行くのだ。お前のようなすばらしい旅行者に相応しき仕事だ。」
「では閣下。私が勝った場合時の望みを話させていただきましょう。私は閣下の親衛隊に入りたかったのです。もしこの願いが叶うのであれば閣下の命に従いましょう。」
王はこのことに同意し、彼を親衛隊の一員に任命した。トラレンは旅の支度を整え、レリク王を迎えた。
「オーラヴ閣下。もしグリーンランドにたどり着くことが出来ず、アイスランド等に到着したのであれば、如何すれば宜しいのでしょうか?」
「アイスランドにたどり着いたのであれば、グドムンド・エヨルフソンか法律家のスカフティ、もしくはそれ以外の私の友情を受け入れるゴジ(首領)に彼を引き渡すのだ。もしそれより近い島にたどり着いたのであれば、決してレリク王がノルウェイに戻ることのないように確実に処理するのだ。」
トラレンは海に出て、陸地に向かわぬように細心の注意を払い、アイスランド南部を航行した。その後にグリーンランドへ向かい、嵐に遭遇した。夏の終わり頃に彼はアイスランドのブレイダフィヨルドに上陸した。彼らのもとに最初にトルギルス・アラソンというゴジがやって来た。トラレンはオーラヴ王の命を伝え、彼は受け入れた。その冬、レリク王はトルギルス・アラソンのもとで過ごした。レリクはそこにいることを快く思わず、トルギルスにグドムンドのところへ行きたいと伝えた。彼はメドルヴェッリルのグドムンドのもとへレリク王を連れてゆくために従者をつけた。レリクは彼に歓迎され、2度目の冬を彼のもとで過ごした。しかしまたまたわがままレリクはそこも快く思わなかったので、あまり人がいないカルヴスキンという場所に住まいを与えた。レリクは3度目の冬をそこで過ごした。彼が王位を失ってから最も彼が好きだった場所であったと言われている。次の夏に命に関わる病気に陥り、亡くなった。彼はアイスランドで永眠した唯一の王であると言われている。
トラレンがレリクを連れてアイスランドに行ったその夏に、ヒャルティ・スケッギャソンもアイスランドに向かった。同じ夏にエイヴィンド・ウラルホルンは西方に襲撃に行き、その秋にアイルランドのコノフォゴル王のもとへ向かった。アイルランド王とオークニーのヤールのエイナルはその秋にウルヴレクスフィヨルドで会戦し、それは激戦であった。コノフォゴル王はより多い武力であったので勝利し、ヤールのエリクはたった1隻で命かながら背走した。その秋に彼はオークニー諸島に戻ったが、彼は家来や勝利品の全てを失っていた。ヤールは心中穏やかでなく、アイルランド王に荷担したノルウェイ人を非難したのであった。
さて、やっとここいらで主人公であるオーラヴに話を戻すと、彼はスウェーデン王オーラヴの娘のインゲゲルドを妻に迎える旅につこうとしていた。えり抜きの家来を連れ、有力者、親族を同行させた。一行はコヌンガヘッラに向かった。しかし到着してみたものの、スウェーデン王の姿どころか代理人の姿もなかった。いわゆるすっぽぬかされたのであった。そしてことの詳細を知っているかどうかをヤールのラグンヴァルドに尋ねるために家来を派遣した。
「私はこのことは全く存じませぬ。しかしお望みであれば、お調べいたしましょう。」と彼は誠意を見せたのであった。
スウェーデン王オーラヴ・エリクソンは最初にヴェンドランドのヤールの娘のエドラを妻とした。彼女は以前は囚われの身分で王の女奴隷であった。彼らの子供は、エムンド、アストリド、ホルムフリドである。そしてその後に王は女王との間に1人の息子をもうけ、その子は聖ジェイムスの日に誕生した。その子供の洗礼の時に、司教は彼をヤコブと呼んだが、スウェーデン人はこの名を好まず、決してスウェーデン王はヤコブとは呼ばなかった。全ての王の子供達は容姿がよく、目立つ存在であった。女王は傲慢で、継子たちにつらくあたったのであった。王は息子のエムンドをヴェンドランドに送り出し、彼は母の血族の下で育てられ、キリスト教を守り通すことはなかった。王女アストリドは西ガウトランドのエギルという身分の高い者のもとで育った。彼女は美人で、お話上手で、謙虚で寛容であった。彼女は大きくなってからしばしば父王を尋ねたが、王は傲慢で冷たかった。彼はウプサラのシングで軍隊が王にたてついた時に、頭にきて、このことでヤールのラグンヴァルドを最も責め立てたのであった。彼はその冬のインゲゲルドの婚礼の旅に出る支度をせずにしていたところ、家来達がノルウェイ王との約束を守るのかどうか心配をした。しかしあえてこのことをスウェーデン王オーラヴに尋ねることができるほど勇気がある者はいなかった。そしてまた王女インゲゲルドは頭の痛い問題を抱えることになった。
ある日の早朝、王は自身の鷹と猟犬を連れて馬の背に乗り出かけた。鷹が放たれ、鷹は2羽の黒い鳥を一撃で仕留めた。そしてその後に再び急降下して3羽目を仕留めた。猟犬が走り寄り、地面に落ちた鳥を咥え上げた。王は猟犬に近寄り獲物を取り上げて、自慢気に言った。
「お前達はわしよりも早く獲物を仕留めることはできぬだろう。」
「もっともでございますぅ〜」と太鼓もちの家来達は王の意見に同意した。
王はご機嫌で家路についた。王女インゲゲルドは彼女の東屋から出て、王がガルズに入ってくるのを目にした。王は娘を笑って迎え、すぐに獲物を見せた。
「こんな短時間で獲物を仕留めることができる王が他におらんだろう。」
「ええ、父上が5羽の鳥を捕らえたすばらしき朝ですが、それ以上の偉業がありました。ノルウェイ王オーラヴはある朝に5人の小王を捕らえ、その領土を手に入れました。」と彼女はうっかり言ってしまった。
王はこれを聞いて当然激怒し、馬から飛び降り娘に向かっていった。
「インゲゲルド、お前がお前の望むようにはさせぬ。お前はわしと友情を持つやつ以外の者に嫁がせる。わが国を略奪し、この国を踏みにじったやつなどと友情は持たぬわ。」
こんな風に最悪の状態にことは進んでしまったのであった。
インゲゲルドはこのことを西ガウトランドのヤールのラグンヴァルドに伝えるために家来を遣わせた。そしてつらい中間管理職のヤールはこの事実を知り、最悪の事態が起こらぬように国中に言葉を送り出した。ヤールはまたこのことをノルウェイ王オーラヴに伝えるために家来を送り出した。つくづくついていないラグンヴァルドである。しかし彼の努力とは裏腹にノルウェイ王オーラヴはこのことに激怒して数日間誰も王に話し掛けることができなかった。その後に彼は家来達とフスシングを開催した。元帥のビョルンが最初に立ち上がり、折り合いをつけるためにスウェーデンに向かいたいと言った。彼はヤールのラグンヴァルドが以前に彼に行った好意を伝え、それと同時にその時、スウェーデン王オーラヴがどれほど機嫌が悪かったかも伝えた。
「スウェーデンのヤールのラグンヴァルドや法律家のトルグニィは協力を惜しまず、彼らの助けなしに折り合いをつけることはできませぬでした。同意を破ったのはスウェーデン王自身であります。ヤールを責めないでください。軍隊を率いて進軍するのはどうかと思います。」とビョルンは言った。
多くの者が彼に同意した。戦を望まず、彼らは家路に着く許しを得たのであるが、オーラヴ王は次の夏にノルウェイ全土から徴兵しスウェーデンに向かうと言った。この後に王は北のヴィクに戻り、その秋はボルグにとどまった。彼は冬の支度をさせ、多くの家来達と共にそこで冬を過ごした。
人々はヤールのラグンヴァルドについて様々な話をした。ある者は彼をオーラヴ王の真の友と言い、またある者はその逆であると言った。スカルドのシグヴァットはラグンヴァルドの友でオーラヴ王に彼の話をした。冬の始まりにシグヴァットは2名の男達と共に東のガウトランドに向かった。あれやこれやで途中、さんざんな目に会いやっと彼らはラグンヴァルドのもとにたどり着いた。ヤールは彼に金の環を与えた。その後にシグヴァットはスウェーデン王オーラヴのもとへ行った。その後でシグヴァットはヤールのラグンヴァルドのところへ戻り、しばらく機嫌よくしていた。それからヤールは王女インゲゲルドの言葉を聞いた。ホルムガルド(ノブゴロド)のヤリスレイヴ王からの使者がスウェーデン王のもとへやって来て、ヤリスレイヴ王の代理として王に王女を嫁がせるように要求した。スウェーデン王オーラヴはこの話を快く受け入れた。この時、オーラヴ王の娘のアストリドがヤールのラグンヴァルドの家族のもとへ来ていた。そこですばらしい宴が開催され、スカルドのシグヴァットはすぐにオーラヴ王の事を知った。彼女はまた彼と面識があり、彼の血族のオッタルのためにシグヴァットの姉妹の息子は長い間、スウェーデン王オーラヴと友好関係にあった。そこでたくさん話し合い、ヤールのラグンヴァルドはノルウェイ王オーラヴがアストリドと結婚するかどうかを尋ねた。
「もしノルウェイ王が承諾するのであれば、この結婚についてスウェーデン王に意見を求めることはなかろう。」と彼は今までの経験上賢明な答えをした。
王の娘のアストリドも同じ意見であった。この後にシグヴァットとその一行は岐路につき、ユール前にボルグのオーラヴ王の前に姿をあらわした。シグヴァットはことの次第を王に報告した。シグヴァットは王の娘のアストリドの容姿の美しさと性格を伝え、決して姉妹のインゲゲルドに劣らぬと言った。これは王の心を動かした。しかしこのことをどうスウェーデン王に納得させるかが頭の痛いところであった。
ユール後にスカルドのシグヴァットの女きょうだいの息子のトルド・スコタッコルとシグヴァットの召使少年は宮殿から隠密裏に東のガウトランドに向けて出発した。彼らはヤールの館に到着するとしるしを見せた。すぐにヤールは出発の準備を整え、王の娘のアストリドを従えて、親衛隊と優れた地主達の息子から選ばれた従者100(120)名と共に出発した。その隊列は武器、衣装、軍馬ともにすばらしいものであった。彼らは馬で北上してキャンドルマス(1019年2月2日)に到着した。
オーラヴ王は逸品の品々を用意させ、有力者達を呼び寄せた。ヤールは王に快く迎えられ、すばらしい宴が数日間始まることとなった。王とヤールとアストリドは話し合い、同意がなされた。婚礼の宴の後でヤールはオーラヴ王からたくさんの贈物を受け取り岐路についたのであった。
春が終わって新しい季節に入ろうとしていた時、東方よりヤリスレイヴ王の使者がインゲゲルドの用向きでやってきた。
「もし私がヤリスレイヴ王と結婚した場合、アイデイギャボルグとそれに伴うヤールの領土の権利をいただきたい。」とインゲゲルドが言った。
ホルムガルドの使者はこのことに王の代理として了承した。
「そして私が選んだ者を連れて行き、彼はかの地で栄光を持って迎えられるように望みます。」と彼女は続けた。
スウェーデン王はこれに承諾し、使者もそうした。
「その者は誰だ?」と王が尋ねた。
「親族のラグンヴァルド・ウルフソンです。」と彼女は答えた。
「やつはノルウェイ王に荷担し、わしに背信行為を行った。やつは娘のアストリドをノルウェイ王にさしだしよった。」と王はその意見に反対した。
彼女は王を説得した。ヤールのラグンヴァルドがスウェーデン王オーラヴの目の黒いうちはスウェーデンに入ってはならぬとの条件でそのことが承諾された。ヤールのラグンヴァルドはインゲゲルドがロシアで女王として君臨している時、頼りになる家来であった。それは彼女の救われたからの恩か、別のサガでは彼はロシアでのインゲゲルドの情夫であったと人々は言っていたという話もあったりします。それから彼らは夏にガルダリークに向かい、ヤリスレイヴ王とインゲゲルドは結婚をした。彼らの子供は、ヴァルデマール(ウラジミール)、ヴィッサヴァルド(ヴセヴォルド)、勇ましきホルテである。インゲゲルド女王はヤールのラグンヴァルドにアルデイギャボルグとそれに伴うヤールの領土を与えた。ヤールはそこに長く住むことになり、ヤールとその妻のインゲビェルグの子供はヤールのウルフ、ヤールのエイリヴである。
(01.08,16)
「禿頭の」エムンドという者がいた。西ガウトランドの法律家で、家柄もよく、金持ちであった。ヤールがいなくなった後の最高権力者であった。ヤールのラグンヴァルドがガウトランドから戻って来たその春にシングが行われ様々な問題が話し合われた。彼らがノルウェイ王と和平を結んだためにスウェーデン王が憤慨していることをヤールは知った。ある者はスウェーデンにたてついた時の戦力不足を指摘した。そして結局、ノルウェイ王に助けを求めるという取り決めがなされた。地主達はエムンドにこの使命を託し、彼は30名の家来達と共に西ガウトランドに向かった。そこには彼の親族や友がたくさんいたのであった。彼は事の次第を説明し、皆の同意を得た。その後も旅を続けウプサラに到着するまで同じようなことを行った。
ウプサラで彼は王と謁見した。そして彼は王に話し掛けた。
「ガウト人にまつわる話はこれと言ってございませぬが、ヴェルムランドのアッティがスキーを履き矢を持って森に入りました。彼は最高の狩人です。彼は山でたくさんのリスの毛皮を手に入れてそりを一杯にしました。そして彼は家路についたのですが、そこへ1匹のリスが姿をあらわしました。彼は矢を放ちましたが、それはリスから外れてしまいました。そして彼はどうしてもそのリスを仕留めたいと欲しそりを置いて追いました。リスは身を隠し、アッティはやみくもに矢を放ちましたが決してリスにはあたりませぬ出した。そして彼は暗くなるまでリスを探しましたが、結局捕らえることは出来ずその晩は吹き溜まりで寝ることにしました。次の日、そりへ戻ると、そりはなく、探しましたが見つかりませんでした。そして彼はそのままとぼとぼと家に戻りました。こんな話しかありませんが、如何でしょうか。」と彼は取りとめもない話をした。
「他に報告することはないのか?」と王が応えた。
「ないこともないのですが、ガウティ・トファソンが5隻の船で出帆し、エイケレイェルに停泊していたところ、そこへデーン人が5隻の船でやってまいりました。1隻の船は逃がしたものの4隻の商船とその積荷を手に入れました。ガウティは1隻の船で逃げた船を追いました。運悪く海が荒れ、デーンの船を取り逃がしました。そしてガウティは海が荒れたため座礁し、ほとんどの家来と積荷を失ったのです。後に残されていた彼の家来達は、そこに現れた15隻のデーン人の商船に襲われて全て奪われてしまいました。まぁ、なんと申しますか、欲張りの代償と申しますか・・・」とエムンドは言った。
「それは大変な話で、腹立たしい話だな。そしてお前の使命とやらを聞かせてもらおうか。」と王はむっとして答えた。
「ウプサラの法とわれらの法がどれほど違えるかを王に説明するという大変難しい使命でございます。」
「話してみろ。」と王がご機嫌斜めでエムンドに言った。
「同じような家柄の出で、財産と考えが異なる2人がいまして、彼らは領土について争いあい、互いに悪く言っております。そしてシングで判決が下されるまで一番の権力者であった彼は賠償を支払わなくてはならなかったのです。最初にガチョウへの代償としてガチョウの雛を、年老いた雌豚の代償として子豚を支払いました。焼けた黄金1マルクの代償には黄金半マルクを支払いましたが、もう半分は粘土と泥でございました。我が主、これをどう思われますか?」とエムンドは言った。
「判決に従うまでだ。もし1年以内に行わなければその者は追放され、土地の半分は王が没収し、もう半分は償うべき者への代償となろう。」と王が言った。
エムンドはこの王の言葉の証人としてその場にいた者たちになってもらい、ウプサラのシングで公示された。その後に彼は王のもとから立ち去った。しかしある者たちが王に不満を漏らした。王はエムンドがどこにいるかと訊ねた。
「エムンドを客人として連れて来い。」と王が言った。
そしてその後に食事と楽団が用意された。王は非常に機嫌がよく、その宴には有力者達もいた。次の日、王は賢者達を呼び寄せた。そして会議が行われ、助言を与えるべく12名の賢者が席についていた。
「昨日、エムンドがわしに話した話のことだ。やつは一体、なにを言わんとしていたのだ?恐らく、わしとオーラヴの事だろう。」
「まこと、その通りです。」と賢者達が言った。
「閣下はオーラヴに神々の子孫であられまする王女インゲゲルトとの婚姻を約束なされたが、今、彼は王の娘とは言え、ヴェンドの奴隷の出です。」と盲目のアルンヴィドが言った。
そこには3人の兄弟がいた。長男は盲目のアルンヴィドで、次男はどもりのトルヴィドで、三男は耳の遠いフレイヴィドであった。
「エムンドが言ったアッティは何を意味するのだ。」と王が訊ねた。
「アッティ、喧嘩好き、欲深い、悪い考え、愚か者、口がきけない。」とどもりのトルヴィドが答えた。
「なんだと。」と王が怒ったので耳の聴けないフレイヴィドが口を開いた。
「お許しあれば答えて差し上げましょう。閣下がノルウェイ王との約束を守らなかったということを示しております。最大の悪は閣下がウプサラのシングで下された判決に従わなかったということでございます。スウェーデンの強き軍隊が閣下に従う限り、なんら外国を恐れる必要はございません。しかし国民が閣下に刃向かえばどうなりましょうか?」
「その反乱軍の首領は誰だ?」と王が訊ねた。
「全てのスウェーデンの民は自らの法と権利を持つことになるでしょう。ここにいる首領の数なんぞたかが知れておりまする。それ以外の有力者達はすでに馬を駆っていることでしょう。」とフレイヴィドが言った。
「よき助言を与えよ。わしは全スウェーデンの民を敵に回す気はない。」と王が答えた。
「閣下がアロス(現ウプサラ)へ下り、船でレグリンへ向かうのです。そしてそこで人々を平和裏に集めるのです。」と盲目のアルンヴィドが言った。
「よしその通りにしよう。お前達は信頼が置ける、わしについて来るのだ。」
「自分、残る。ヤコブ、行く。ヤコブ、役に立つ。」とどもりのトルヴィドが言った。
そしてこの計画に従い、王は船に乗ってレグリンへ向かった。そしてそこでたくさんの家来を抱えることになった。そしてフレイヴィドとアルンヴィドはウッララケルに馬で向かい、彼らと共に王子ヤコブを連れて行ったが、彼らはその事を秘密にしていた。彼らは地主達が日中問わずシングを行っている場所へ向かった。そして彼らはその仲間に入ったのであるが、もはや民衆の心が王にないことを知ったのであった。事ははるかに悪い自体に進んでいたのであった。そして彼らはその地の首領達と会合を行った。
(01.09.08)
彼らはオーラヴ・エリクソン王を国から追い出すことで一致し、フレイヴィドとアルンヴィドがそのリーダーであった。そしてエムンドはこの計画を遂行した時にどうゆう結果がもたらされるかを考え理解した。その後に彼は兄弟達の下へ行き、話し合った。
「オーラヴ・エリクソン王の首を取った時、お前はどうするのだ?王がお前になにかしたのか?我ら奥スウェーデン人達は、我らのこの時代に古から続く王族をこの国から追い払おうという愚かな行いはしたくはないだろう。オーラヴ王には2人の王子がいる。その内の1人を王にすればよかろう。2人の王子は家柄が違う。一人は生まれがよいが、もう一人はヴェンドの女奴隷の子だ。」とフレイヴィドがエムンドに言った。
このことに同調した者達はヤコブを次期王に選出することに一致をした。この後にフレイヴィドとアルンヴィド兄弟はシングでヤコブを王に選出することを宣言したのであった。そしてその時10〜12才であった王子はアヌンドの名が与えられたのであった。この後、あれやこれやと執り行われ、オーラヴ王は生きている間は王の座を追われず、平和的に過ごすことを約束されることになった。今や王となったヤコブ王子改めアヌンド王も父王のように大きな領土を持ち、親衛隊も多く抱えることになったのだが、もし父王オーラヴが豪農達に不満を与えたならば、彼ら達と共に父王に向かっていかなくてはならないと取り決められた。そして全てのことが整えられた後に死者達はノルウェイ王オーラヴとの話し合いをするために北に向かった。ノルウェイ王オーラヴはこの知らせを聞いて、以前のようにスウェーデンと仲良くすることを約束した。そしてノルウェイ王オーラヴは義父のスウェーデン王と会うために出発し、シングが執り行われ、その平和を約束したのであった。賢者トルケルがヒシングという州の話をしだした。その州は時折、ノルウェイと行動を共にし、時折、ガウトランドとも行動を共にしていたと切り出した。そして王達はその州の所有はサイを両者がふり、より多い目を出したものが手に入れることを合意した。そしてスウェーデン王がまずサイを2つとって投げたところ、両方のサイは6の目を出したのであった。そしてノルウェイ王オーラヴがサイを投げようと2つのサイを手に入れて振っているとスウェーデン王は口を開いた。
「おぬしは投げる必要はない。我が神オーディンは我に勝利をもたらしたのだ。」
「我が主キリストの力を借りて6の目を2つ出すことはたわいもないことだ。」とノルウェイ王は切り替えした。
その後にノルウェイ王がサイを振ると、なんと2つとも6の目を出したのであった。そして勝負は持ち越され、再度スウェーデン王はサイを投げると、これまた6の目が2つ出た。その後ノルウェイ王がサイを投げると、これまた奇跡が起こり、2つのサイは6の目が出て、その上に1つのサイがかけ、そのかけらは1の目を出したのであった。そしてノルウェイ王のサイの目の合計は13になり、州を手に入れることになった。その後、すっかり丸め込まれたスウェーデン王とノルウェイ王は仲良く別れたのであった。
ノルウェイ王オーラヴはこのことの後に家来達を引き連れてヴィクに向かった。彼はツンスベルグに行き、しばらく滞在した後に北上し、秋にはとトロンヘイムに到着して冬を過ごした。オーラヴはハーラル美髪王が所有したノルウェイの領土を単独で所有し、平和裏にスウェーデン王が所有していた上述は土地は平和裏に手に入れたのだが、デンマーク王が所有していた場所は武力によって手に入れられ、他の土地と同様の統治が行われていた。その時、デンマークのクヌート王がイングランドとデンマークの両国を支配し、多くの時間をイングランドで過ごしていたのであった。クヌート王はデンマーク中に首領達を置いて統治させ、ノルウェイにはその支配権というものは及んでいなかった。
オークニー諸島はハーラル美髪王の時代に定住され、最初のヤールはエイステインの息子のシグルドで、彼にはメーレのヤールのラグンヴァルドという兄弟がいた。シグルドの後は息子のグソルムが1年間ヤールであった。その後はヤールのラグンヴァルドの息子のエイナルがヤールの領土を手に入れて長い間その場所を統治した。
(01.10.15)
ここから話はオークニー諸島に場面を移すのである。ハーラル美髪王の時代シグルドとう者がその島々のヤールとなって以来、ノルウェイ王とのいざこざが少なくない。「大きい」ヤールのシグルドはオーラヴ・トリュグヴァッソン前王に改宗のことで恨みがあった。彼はスコットランド王メルコム(マルコム・マックケネス1005年〜1034年)の娘と結婚し、トルフィンという息子をもうけた。それ以外の年長のヤールの子供達は
スマルリデ、ブルース、「曲がり口」エイナルである。オーラヴ・トリュグヴァッソンがスヴォルドで戦死したのを聞いてこれ幸いに、彼は数年後にアイルランドに向かい、その地を支配するために年長の息子達を置いたのである。トルフィンは母方祖父のスコットランド王のもとへ遣わせた。その旅でヤールのシグルドはブレインの戦(1014年4月23日のダブリン近郊のコロンタルフの有名な戦の北欧語の呼称)で命を落とした。父ヤールの死後、スマルリデ、ブルース、エイナルの3人で領土を3分割して納めた。ヤールの死がスコットランド王の耳に入り、王はトルフィンにカイスネスとスザーランドの地をヤールの称号と共に与え、家来も与えたのである。彼は心身ともに立派で武勇に優れてはいるものの、ブサイクで欲張りで狡賢い男と言われていた。
エイナルとブルースは正反対の正確であった。ブルースは穏やかで、賢明な者で、人を大切にした。エイナルは頑固で内気で不親切で欲張りであったが武には優れていた。スマルリデはブルースのような心の持ち主であった。年長の彼は短命で、藁の死を向かえた。その後にトルフィンがオークニー諸島での自身に割り当てられる領土を主張した。エイナルは父ヤールのシグルドが所有していたカイスネスとスザーランドを与え、エイナルはオークニー諸島の3分の1以上の分け前を要求したが、トルフィンと折り合いがつかなかった。そしてブルースが権利放棄することになり、エイナルが島々の3分の2を手に入れることになったのである。彼は力を付け、その夏にはヴァイキングに行き、たくさんの戦利品を手に入れた。それに従った農民達は精根尽きたのであるが、ヤールのエイナルはそんなこともお構いなし、ますますの重荷を課して苦しめた。その後に飢饉が起こったが、農民達はそれに大きな犠牲を払うことになった。一方、ブルースの領土では豊作で皆が幸福であった。
ラウパンダネスのサンドヴィクのロッセイ島(オークニー諸島最大の島)にアムンドという有力者がいた。その息子はトルケルで勇気有る者であった。アムンドは見識者で身分も高かった。ある春にヤールのエイナルが農民達を招集した。その場のあちこちで不平不満が現れ、アムンドにぶつくさとぶーたれたのである。
「ヤールはああゆうお方だ。我らの言葉に耳を貸すとは思われぬ。私がヤールとぶつかることは避けたいのだ。」
そうやって彼に断られた農民達は次にトルケルに相談した。彼らは執拗に食い下がったので、嫌々ながら彼は承諾したのである。次のヤールが招集したシングでトルケルは農民達に代わって演説をした。
「もう少し農民達を気遣ってもらえぬでしょうか?貴殿は私の話に同意すべきだ。」
農民達は拍手喝采、トルケルに感謝してのである。ヤールはヴァイキングに行き、その秋に戻ってきた。春が過ぎ、習慣に従いシングを開催し、農民達に招集をかけた。その時もトルケルは農民達に負担をかけぬようにエイナルに申し出た。するとヤールは怒涛のように怒りだし、収拾がつかぬ間にシングは閉会した。アムンドはこの事情をしるやいなやトルケルに逃げるように言った。彼はヤールのトルフィンのもとへ行き、彼に仕え、トルケルの養父と呼ばれるようになった。ヤールのエイナルのせいでオークニー諸島の者達は先祖伝来のオダルの地を捨てなくてはならぬものたちが少なくなかった。そのほどんどがトルフィンのもとへ逃れてきた。ヤールのトルフィンが成人すると、ヤールのエイナルにオークニー島々の3分の1の領土を要求した。もちろんエイナルは了承せず、トルフィンは派兵することになった。エイナルはそれを聞き知ると徴兵したものの、両者互いに戦なしに話し合いでトルフィンの要求通りに決着した。しかし結局、エイナルはブルースの領土を取り込んでエイナルが単独支配権を握ることになった。どちらか一方の長生きした方が最終的にその領土の所有者となるということで決着したかのように思えた。しかしブルースにはラグンヴァルドという息子がおり、エイナルには息子がいなかったので、不公平な取り決めであった。ヤールのトルフィンは領土を統治させるために家来を置き、自分はもっぱらケイスネスで過ごした。ヤールのエイナルは夏はアイルランド、スコットランド、ウェールズでヴァイキング行きを決行し、荒らし巻くって悪行三昧を行っていた。ある夏、アイルランドを襲撃した時に、アイルランドのコノフォゴル王とウルヴレクスフィヨルドで戦い、大敗をきし、多くの家来を失った。その夏が過ぎ、エイヴィンド・ウラルホルンという者がアイルランドがからノルウェイに向かった。しかし悪天候に見舞われ、あらがう波に難儀し、オスモンドウォールに停泊を余儀なくさせられていた。そしてこの事をしるやいなやエイナルは軍を引き連れ出帆し、エイヴィンドを捕らえて殺害した。エイヴィンドに従った家来達は罷免され、秋にオーラヴ王のいるノルウェイに向かった。彼らは王に主人の死を知らせた。王は多くを語らなかったが、その損害は大きなものであった。ヤールのトルフィンは養父トルケルを徴収のために島々に送り出した。エイナルはトルケルに非難をし、彼はすぐにケイスネスに向かった。
ヤールは困り果て、トルケルをオーラヴ王の下へ遣わせた。その早春に王はヤールのトルフィンにノルウェイに来るようにとの命を持たせて、1艘の船を派遣したのである。ヤールはその言葉に友情の下に従い、遅れることはなかった。
ノルウェイに到着するとヤールはとても快く向かえられ、夏を過ごしたのである。そして再び故郷に戻る時、王は彼に見事なロングシップを与えた。ヤールのトルフィンは秋には故郷に戻った。エイナルがこれを聞き知り、多くの兵を集め、船に乗り込ませ待機させた。ヤールのブルースはこれに折り合いをつけ、誓いでその約束を固めたのである。養父トルケルもヤールのエイナルに音便に事を運び、互いに祝宴を開き招待しあうということで折り合いをつけた。ヤールはまずサンドウィッチのトルケルを訊ね、酒がどんどん振る舞われたのにもかからわず、ヤールは不機嫌であった。ヤールの出発日にトルケルは開いての祝宴に向かおうとしていた。トルケルは偵察隊を送り出し、彼はは戻ってきて報告した。
「この先に3人の伏兵がおりました。間違いなく彼は背信行為を行うでしょう。」
トルケルは報告を受け、出発を遅らせた。屋内のいろりでは火が焚かれていた。トルケルが館内に入り、その後に東フィヨルド出身のアイスランド人のハルヴァルドがやってきた。彼は扉に鍵をかけてヤールに近づいた。
「準備は整ったのか?トルケルよ。」とヤールは言った。
「準備は整いました。」とトルケルが答えるやいなや、彼はヤールの頭を強打し、ヤールは床に崩れ落ちた。
彼はヤールの首に斧を振り下ろし、そしてベンチに引き吊り上げた。トルケルとその家来達は反対側の扉から外にでた。エイナルの家来達が館内でヤールの死に気付いたのだが、皆が気落ちしていたので誰も血讐の言葉を口にしなかった。トルケルはその者達にも信望があったという幸運もあった。彼はオーラヴ王の下に行き、王に誉められ、冬を王のもとで過ごしたのである。
ヤールのエイナルの死後、ヤールのブルースはエイナルの領土を手に入れた。トルフィンは彼と島々を当分することを望んだが、ブルースが3分の2を治めていた。翌春、トルフィンがブルースにその旨要求した。ブルースはトルフィンの母方祖父のスコットランドの後ろ盾もあって、この状態で対立する気にもなれなかった。ブルースはオーラヴ王のもとへ行き、10才の息子のラグンヴァルドをお供させた。王は彼を歓迎し、王にことの次第を相談した。あれやこれやで「オークニー諸島は伝来ノルウェイ王の持ち物で、ヤールは単に置かれているにすぎない。」とオーラヴ王にいいくるめられ、王の家来になり身の安全を保証された代わりに彼が先祖伝来所有してきたオダルの土地を王に献上する運びとなったのである。
ヤールのトルフィンは兄のブルースがオーラヴ王の助けを求めてノルウェイに行った事を聞き知った。しかし彼は以前にノルウェイ王オーラヴと友情を交わしており、問題ないと考えた。トルフィンもまたオーラヴのもとへ行ったが、上記のように話は終結しており、彼が到着した時には彼が思っても見ない方向にすすんでいた。彼はブルースが王に権利委譲したことを知った。
「私は王との間に友情があることを心得ております。しかし私は今やスコットランド王のヤールであり、貴殿に服従する気はございませぬ。」と彼は強い口調で言った。
それを聞いたオーラヴ王は、
「そうか、お前が我が家来とならぬのであれば、オークニー諸島に私の息のかかった者をおかなくてはならぬな。そしてお前はその領土を求めず、私に刃を向けぬと誓うのだ。」
ヤールはこの件について来夏までしばらく考えさせてくれと要求した。王はそれを了承した。養父トルケルはオーラヴ王のもとに留まることになり、ヤールのトルフィンには1人の密偵を送り出した。ヤールはこの時は自身の勝利を疑わなかった。しかし結局、彼はブルースのように王の家来になることに承諾したのである。王は彼の承諾を鵜呑みにせず、彼を疑ったのである。
オーラヴ王は熟考し、シングを行い、ヤールを召還した。
「私とオークニー諸島のヤール達とで取り決められたことを公言しよう。彼らは我が要求を受け、私の家来となり、領土の権利を譲渡した。ブルースには3分の1を、トルフィンには3分の2の封土を与えよう。だがエイナルが所有していたものは我が相談役であり親友であったエイヴィンド・ウラルホルンの殺害の代価として私のものだ。」と王が言った。
そしてそれら全てにヤール達は同意し、終結した。オーラヴ王は3名の借地権保持者にエイナルの死の多くの代償を課した。その3分の1は彼の罪のために放棄されたのであった。それからヤールのトルフィンは王に暇乞いをし、承諾を得ると準備を素早く行った。ヤールの準備が整い、彼が船で酒を飲んでいた時、トルケル・アルネソンが突然彼の前に姿を現し、ヤールの膝に頭を置いた。ヤールはこの行為の理由を聞いた。
「我らは王の判断に従い、誓いを立てた。立つのだ、トルケル。」
「私とブルースの事柄においては王に従いましょう。しかし主と私の間にある事柄についてはお主が決めるのだ。たとえ王が私の所有とオークニー諸島に住む権利を与えたとしても、ヤール、お前の許しなしに島にいることは適当ではないとお前が思っていることは承知している。たとえ王が許しても決して私は島には近づきませぬ。」とトルケルが言った。
「もしトルケル、お前が王ではなく私に従うのであれば、お前は私と共にオークニー諸島に行き、私のそばにいるのだ。私の承諾なしに私のもとを去ってはならぬ。我ら両者が生有る限り我が領土を守り、我に従うのだ。」と彼は言った。
「お主に従いましょう。命有る限り。」とトルケルが誓った。
彼らは出発し、再びオーラヴ王と会いまみえることはなかった。ヤールのブルースはその後も滞在し、彼の出発前に会合が行われた。
「ヤールよ。私は海の向こうにお前という信頼できる者を置けることを誇りに思う。お前の身を保証しよう。だがお前の息子のラグンヴァルドは私の下で奉公をさせるのだ。」と王が言った。
もちろんこれは人質というわけである。こうやってブルースは領土の3分の2を手に入れた代わりに大きな拘束を強いられたのである。オーラヴ王の下に留まったラグンヴァルドは容姿端麗で、絹のような金色の髪を持ち、背も高く、若く強く、知恵に長け、慎み深く、非の打ち所がなかった。この後、彼は色男にムッとするブサイクとまでいかないが男前とは決して言えないオーラヴに長く仕えることとなった。
トルフィンとブルースの兄弟はオークニー諸島に戻り、統治した。トルフィンはあいかわらずケイスネスかスコットランドにいたので、家来を置いた。ノルウェイ人やデーン人のオークニー諸島でのヴァイキング行為を行った。ブルースはトルフィンがオークニー諸島やシェトランド諸島に軍を配せず、そのくせ手に入れるものだけはきっちり手に入れていたので不平不満を言った。そうするとトルフィンが領土の鳥分を入れ替えて3分の2の権利を譲れば、軍を配して領土を護ると提案した。この申し出はすぐには認められなかったが、結局その通りとなったのである。その時期は丁度、クヌート王がノルウェイからオーラヴ王を追い出してノルウェイを手に入れたのと同じ時期だと言われている。トルフィンは有力者となり、スコットランドとアイルランドにも大きな領土を持ち、偉大な戦士の1人となったのである。彼は5才の時にヤールの領土を手に入れてから、60年以上もの間、統治をし、ハラルド・シグルソン(苛烈王)の治世の終わり頃に息を引き取ったと言われている(1064年死亡)。一方、ブルースはオーラヴ・ハラルソン(聖オーラヴ)の死後、しばらくしてクヌート北海大王の時代に亡くなったと言われている。
(02.03.26)
さてそろそろ当サガの主人公に話を戻すと、オーラヴ・ハラルソンノルウェイ王はスウェーデン王オーラヴと和解をしてその夏にトロンヘイムに向かった。その後、彼が玉座に5年間座っていた。その秋、冬とニダロスで過ごした。その時、王はどのようにこの国でキリスト教を押し進めていくか考えた。キリスト教は一度は北のハロガランドに達したものの、護られて居らず、ナウムスダーレと内トロンヘイムで厳守されていたのもわずかの間であった。「スカルド詩をまき散らす者」エイヴィンドの息子のハレクという者がいた。彼はハロガランドのティヨッタ島に住んでいた。彼は金持ちではないが、血筋はよく、勇敢であった。ティヨッタには数件の小規模な農場があった。ハレクはまずこじんまりした農場を手に入れて住んだのである。しかし数年の間に彼は以前にいた農民達を追い出し、大きな家を建てた。そして彼は豊かになった。ハレクはそうゆうことで今やその地の首領達の中で主要な地位にいると思っていた。彼の父方祖母のグンヒルドはヤールのハールヴダンとハーラル美髪王の娘のインゲビョルグの娘であった。ハレクは壮年であったが有力者で、フィン人の交易において独占権を保持していた。時として単独で権利を所有し、時として他者と共有した。彼はオーラヴ王のもとへ出向いたことはないが、使者は行き交い、上手くいっていた。オーラヴ王は翌夏に領土の最北端のかの地に向かおうと思ったのであるが、ハロガランド人立ちはこれについて顔を曇らせていたのである。
春になるとオーラヴ王は5艘の船と300(360)名の家来と共に出帆した。ナウマダーレ州に到着するとシングを招集し、キリスト教を強く後押しする宣言をしたのである。そして従わぬ者には罰を与えると取り決めたのである。こうして同時に王権も確たるものへとしていったのである。その後にハロガランド中をくまなく行き、ハレクは王のために祝宴を整えた。その宴はすばらしく、それからハレクはその州の首領になったのである。王は彼に歴代の王がしていたように、彼に借地権を与えたのである。
やや年老いた金持ちの農民のグランケルという者がいた。彼は若い頃、ヴァイキング行きで活躍し、武勇にすぐれ、優秀な戦士であった。その息子アスムンドも父に引けを取らぬ者であった。彼はノルウェイにおいて容姿、強さ、才能のある者の3指に入るといわれていた。後の2指は、いわずもがなアセルスタン王の養い子ハーコンとオーラヴ・トリュグヴァッソンである。グランケルはオーラヴ王を最高の祝宴でもてなした。グランケルはかずかすの名品を王に贈り、そして見送った。王はアスムンドに親衛隊に入るように言うと、彼はその言葉に従うことになった。オーラヴ王は夏のほとんどをハロガランドで過ごし、シングというシングに出席し、熱心に民衆を洗礼したのである。その当時「犬の」トーレはビャルケイ(トロムソのヒッネイ州の北部)に住んでいた。彼はその地の最高権力者で、その州のオーラヴ王の首領になった。多くの豪農の息子達は王の親衛隊に入ることとなった。夏の終わりに王は南下し、ニダロスに向けて出帆した。その冬に養父トルケルがヤールの「ゆがんだ口」エイナルの殺害後にオークニー諸島からやって来た。その秋にトロンヘイムでは飢饉が起こった。北に行くほどそれは酷くなる一方であった。しかし東方のオプランド等では豊作であった。トロンヘイムも古穀物を貯蔵していたので大した不足もなく過ごすことができたのである。
その秋にオーラヴ王の耳に内トロンヘイムの農民達が冬の供犠祭を行ったとの情報が舞い込んできた。そこでは古き神々がいまだ信奉され大いなる供犠が行われた。それは豊作祈願のために行われたのである。ハロガランドではキリスト教に改宗したために古き神々の怒りで飢饉が起こったと信じられていたからである。王は家来を内トロンヘイムに送り出し、適当と思われる者達を呼びつけた。その中には「卵の」エルヴィルがいた。彼は血筋も良く、有力者で農民達の代表であった。王は彼に農民達の背信行為について問いただした時、エルヴィルは答えた。
「わが地では結婚の宴や、友情のための宴以外は行われておりませぬ。酔っぱらいの戯れ言ではござりませぬか?」と堂々と王に言った。
こうして彼は農民達を擁護したが、王はそのしるしが必要だと応え、彼に信仰がまもられているという証人をその地から連れてくるように命じた。彼はその命を携え、帰路についた。
その後の冬に内トロンド人立ちはメーレンでシングを開催し、穏やかな冬を祈願して供犠祭を行うと取り決め、王に伝えた。王はその事実を知るやいなや家来を遣わし、農民達に招集をかけた。農民達はまたもやこの厄介事をエルヴィルに頼み、彼は王のもとへ出向いた。王は当然のように古の悪習の責任を追求した。
「確かに我らはユール祭を行いましたが、王の名の下に酒を飲み交わしたのです。この飢饉で農民達は十分に準備もできず、料理が残ったということはございません。閣下、メーレンでは祭はなによりの楽しみなのです。」とエルヴィルは言った。
王の口は重く、立腹は見て取れた。そしてゆっくりと口を開いた。
「このままで済むと思うな。」
彼らは王がいかほどに怒っているかを知り、故郷に帰ってそれを皆に伝えたのである。
オーラヴ王はイースター(1021年4月2日)を盛大に行い、同様に農民達、町人達にもそれを行うように命じた。その後に船団の準備を整えた。イースターの後に王はヴェルダーレに家来を遣わし、そこには家令のトラルドがいた。彼はハウグ(ヴェルダルセラとスティクレスタドの間の西ヴェルダーレ)の王の土地を所轄していた。王は彼にすぐに来るように命じ、トラルドはそれに従い、使者達と共に出発した。王は彼を部屋に呼びつけ、内トロンド人の悪習について事実かとうか訊ねた。
「キリスト教徒はいるものの、内トロンヘイムはほとんどが古の神々を信奉しております。昔の習慣の通り、収穫の供犠、冬至の供犠、夏至の供犠の3祭が行われています。夏至の供犠で夏を迎え、祭にはエイネルの民、スパルビャッゲルの民、ヴェルデレルの民、スネイネルの民がいます。供犠を行う担い手が12名がこの春にその任を受けるのです。祭の準備を行い、運ぶ手筈です。」とトラルドが応えた。
王は事の次第をしるやいなや、準備を整え、船団を派遣した。王は舵手、漕ぎ手、指揮官を指名した。王は5艘の船で300(360)名を引き連れ曳航した。良風に恵まれ予想を遥かに上回る早さでメーレンに到着したのである。その後に上陸し、館の回りを取り囲み、エルヴィルを捕らえた。たくさんの者達はその時、殺害された。祭のための品々は戦利品として没収された。そして王は民衆達を再び正しき信仰へ導き、教会を建てさせた。そうしてエルヴィルの補償もせず、ニダロスに戻っていった。
「首吊り台の」トルステインの娘のソーラと結婚したアルネ・アルモドソンという男がいた。その子供はカレヴ、フィン、トルベルグ、アムンド、コルビョルン、アルンビョルン、アルネ、テョッタのハレクと結婚したラグンヴァルドである。アルネは地主で身分も高く、オーラヴ王の友情を受けていた。カレヴ、フィンの息子達h亜オーラヴ王の親衛隊に身を置いていた。「卵の」エルヴィルの妻は若くて美人で血筋も良く金持ちであった。彼らには2人の幼い息子達がいた。カルヴ・アルネソンはエルヴィルの妻と王が結婚するように提案し、それによってエルヴィルの権利を守り、地主とさせ、内トロンドの管理を手に入れたのである。カルヴはいまや大首領となり、非常に頭の回る男であった。
オーラヴ王は7年間ノルウェイで過ごし、夏にオークニー諸島のトルフィンとブルースが訊ねてきた。その夏にオーラヴ王は北部南部の両メーレをくまなく行き、秋にラウムスダーレに行った。そこで上陸してオプランドに向かい、レスヤルに行き、そこでキリストを讃えるか、死や国外追放のどちらかの選択を迫ったのである。キリスト教を受け入れた者も王に人質として息子を差し出さなくてはならなかった。レスヤルのボラレに王は聖職者を置いた。この後にオルケダーレ、リャルダーレ、スタヴァブレッカに向かった。谷を抜けてオッタ川が曲がりくねり、その両側に美しいロアル州があった。
「あのような美しい地が焼かれるのは悲しいことだ。」と王が言った。
そして王は谷に下りて行き、その晩は岬ですごした。そこで5夜過ごし、シングを招集した。ここでも王は先の選択を迫ったのである。
ダーレのグドブランドという者がおり、ダーレの王のように振る舞っていたが、その位はヘルシル(軍区の首領)であった。スカルドのシグヴァットは権力と財力においてはエルリング・スキャルグソンと同じくらいであった。
グドブランドには息子が1人いた。オーラヴ王がロアルに来てキリスト教を強いているとの話を聞いた時、彼は戦の矢を放ち、フンドトロプに集まるように招集をかけた。レグルという水辺あたりに皆がやってきて、それは大群衆に膨れ上がった。
「オーラヴは我らの神々を凌駕する1人の神がいると唱える。我らはトール雷神の神殿を護り、トールがやつを打ちのめすと声高らかにここで言おう。」とグドブランドはシングで述べた。
そして大きな雄叫びが起こった。その後に北のブレイダ(セル州)の様子をうかがうために800(960)名の家来を選抜し、この軍勢の指揮官はグドブランドの18才になる息子であった。軍団がホヴというガルズに到着した。そこにオーラヴ王のキリスト教を強いるシングの決定から逃げてきた者が次々と集まってきた。しかしオーラヴ王とシグルド司教はロアルとヴァガに聖職者を配していた。彼らはウルゴレストを行き、ウサにやってきた。そこで彼らは大軍勢を目にした。ブレイダの農民達もその大軍勢に加わるべく準備を整えた。王は鎧を着け、出帆した。そして岸に着くと馬に乗り換え大軍勢に向かい、農民達にキリスト教を受け入れるように命じた。話し合いは折り合わず、雄叫びが起こり、盾を武器でうちならして戦意を示した。王軍が投槍を行うと、農民達は敗走し、そこに留まったのはわずかであった。そうしてグドブランドの息子は捕虜となったが、オーラヴ王は彼を助命し、そばに留めたのである。
「王が出向くとそなたの父に伝えるよい。」と王が言った。
そうして彼は家路につき、戦や様々な出来事を父に伝えた。父は難問に頭を悩ませることになった。グドブランドはその晩、夢を見た。畏怖の念を抱かせる立派な男が彼に会いに来て話しかけた。
「お前の息子は王に勝つことはできなかった。お前は王に刃向かうのであれば、それはよい結果をもたらしせぬ。お前の軍隊は散り散りになり、狼どもはお前の腸を引きずり出し、鴉どもはお前の死体を引きちぎるだろう。」とその男は語った。
グドブランドはこの夢を恐れ、ダーレの首領のトルドに相談を持ちかけた。
「実はな、わしも同じ夢を見たのじゃ。」と彼は言った。
その朝にシングを行い、グドブランドの息子に言った。
「王と折り合いを付ける。そのためにお前は12名の者達と共に行くのだ。」
王にそれが伝えられると、王はそれを受け入れ、シングを行うために向かった。その日は土砂降りであった。王は立ち上がり、レスヤルとロアルとヴァガの民衆にキリストを受け入れ、古の神々の神殿を破壊するように命じた。
「我らはキリストが誰か知りませぬ。しかし古の神々は我らのすぐそばにおる。我らはそれを肌で感じています。だが、どうでしょう、王の神キリストとやらはここにはいませんようですな。それはこの天候が示しておりまする。どうでしょう、閣下、明日はそのキリストとやらにお願いして晴天とは申しませぬ、せめて曇りにでもして頂けたら我らはそのキリストとやらを感じることができましょう。」とグドブランドが言った。
それから王は人質のグドブランドの息子を引き連れて仮住まいに戻っていった。王もその代わりとなる人質を農民達に差し出していたのである。その晩、王はグドブランドの息子に古の神々について訊ねた。
「トールは大きく、手に槌を持っているのですぐに判ります。トールの木像の内部はくり貫かれています。銀がふんだんに施された木像は神殿の外に出された時は台の上に鎮座します。それには4個のパンと肉が備えられます。」と言った。
その晩、王は祈りを行っていた。日が昇り、王は朝の祈祷を済ませ、食事を取った後にシングに向かった。天候はグドブランドが望んだようになっていた。それから司教が祈祷のケープをまとい、司教冠を被り、手に杖を携えて立っていた。彼は農民達に教えを行い、神のなせる技を語り、語りは見事なものであった。それから「大きな獣の胃の」トルドが応えた。
「角の生えたお前さんは羊の角みたいな杖を持ってよくおしゃべりした。しかし残念なことに神の印とやらはどうなったんだ?お前の神とやらにお天道様が燦々と輝くようにてもらわんことにはわしらは納得せんぞ。さぁ、わしらに従うか戦のどちらかを選ぶんだな。」と言った。
そして解散したのである。
フィヨルド出身の「強い」コルベインは王の親衛隊の一員であった。いつも腰に大剣を帯び、手には棍棒が握りしめられていた。王はコルベインに朝は隣にいるように命じ、その後に家来達に言った。
「夜に農民達の船という船に穴を開けるのだ。そして奴らの馬を遠くに連れて行くのだ。」
王はその夜は夜通し祈っていた。シングの日はやってきた。王が到着すると、数名の農民がいるだけであった。そしてそれからシングに来る農民達の軍勢が目には言ってきた。群衆は金銀が施された輝く人のような姿のものを運んでいた。もちろんそれはトールの木像である。農民達はそれを鎮座させ、その前で頭をたれてトールに挨拶をした。その後にシングの中央にトールの木像が置かれたのである。農民達が片側に席を取り、反対側には王の家来達が座った。
「閣下、キリストとやらは姿を現さぬようですな。今日は角の生えた男もいないようですな。しかしどうでしょう、我らの神であるトールはここにおりまする。キリストとやらはトールに恐れをなしたのでしょうかな。閣下、さあ古の神々を受け入れるのですな。」
農民達は怒号を上げた。その時、王はコルベインに耳打ちした。
「奴らが目を離した時にあの木像を棍棒で打ち壊すのだ。」
そうして王は群衆に向かって口を開いた。
「貴殿の話は終わったのですかな。貴殿はキリストが目に見えぬゆえ信じられぬという。主は自らの意志ですぐに参られる。お前達の神とやらは運ばれなくてはならんようだな。目が見えず、耳も聞こえず、不敏なものだな。ぼら、神は参られた。東を見よ、光かが焼く神が参られた。」
太陽が昇り、農民達は皆、太陽の方を見た。その隙をついてコルベインがトールの像を棍棒で力の限りたたきつけた。像は粉々に飛びちり、中からは猫ほどの大きさがあろうかという鼠、毒蛇、長虫が飛び出てきた。それに驚愕した農民達は我先に逃げ出した。ある者は船に飛び乗ったが、穴が開けられていたのでずぶずぶと無惨にも水の中に消えていったのである。そして馬を求めた者達は馬を見つけだすことができなかった。そして王は農民達に戻るように命じたのである。シングは再び開催され、王が立ち上がって演説を始めた。
「大変な大騒動だな。お前達は金銀をまとった者から鼠や毒蛇や長虫がうようよでてきたのを目にしたはずだ。飛び散った金銀は持ち帰って生活の足しにしろ。だが2度とそのようなものを奉るのではないぞ。キリストを受け入れるか、戦を行うか、どちらかを選べ。」と王が言った。
「閣下は我らの神々に冒涜を行ったのであるが、我らはキリストを選ぶ以外に道はないとみえる。」とグドブランドが言った。
そうして同意の下に洗礼が施されたのである。そこには数名の聖職者が置かれ、グドブランドはダーレに教会を建てたのである。
(02.03.27)
オーラヴ王はヘデマルクに向かい布教した。以前に王達を捕らえた時にきちんとしていなかったためにまだまだ不十分で布教の必要があったからである。この後にトーテ、ハデランド、リンゲリクにまで布教活動を行った。そしてこのラウマリク人達は旗揚げし、戦うためにニッティヤ川に向かった。ラウマリクの農民達は大損害を被り、キリスト教を受け入れた。その後も王は布教活動を熱心に行った。王は東のソレルに向かい、洗礼を施した。「黒の」オッタルという男が王を訪れ、王に従うと申し出た。その年の冬が訪れる前にスウェーデン王オーラヴが崩御し、アヌンド・オーラフソンが玉座についた。そしてオーラヴは冬の終わりにラウマリクに戻り、シングを招集した。王は前オプランド人達にそのシングへの出席を命じた。そして春になると船でツンスベルグに向かい、春はそこで過ごした。ツンスベルグはよそからの襲撃が絶えない場所であった。ヴィクでは作物はよく育ったが、はやり北部はまだ食糧が不足する自体に陥っていたのである。
春にオーラヴ王はヴィクから穀物やモルトや肉類の持ち出しを禁じた。夏はヴィクで過ごし、そして東の国境地帯に向かった。
「太鼓腹振り」エイナルは義兄弟ヤールのスヴェンが死んでからというもの、スウェーデン王のもとに身を置いていた。彼は今はスウェーデン王の家来となっていたが、王が代わった今、「大きな」オーラヴとの和解を望み、春には使者を派遣した。そしてエルヴに滞在中のオーラヴを彼は訪ね、話し合った。エイナルがトロンヘイムに戻り、全財産、ベルグリッドの持参金の土地を保持は薬草された。エイナルは北に向かい、王はヴィクに滞在し続け、秋から冬にかけてボルグで過ごした。
エルリング・スキャルグソンは土地をたくさん持ち、遠く東のエリンダンディネスまでその力が及んでいた。しかし以前の王達から受けていた借地権より今は少なくなっている。そこには有力者で家柄も良いアスラク・ファティヤルスカッリという者がおり、エルリングの身内であった。アスラクはオーラヴ王の共で、王からたくさんの借地権を受けており、エルリングに対抗するように命じられていたので南ホルダランドに住居を構えていた。アスラクはエルリングとの自州におけるごたごたを相談しに行った。王はエルリングを春に呼びつけた。
「お前のせいで土地を保持できないと苦情が出ている。」と王が咎めた。
「私めはアスケルを始め、何方とももめておりません。」と彼は答えた。
その後に問題解決したものの、彼は息子のスキャルグを人質として王に預けたのである。
シグルド・トレソンはビャルケイの「犬の」トーレの兄弟である。シグルドはエルリングのきょうだいのシグリッドが妻で、息子はアスビオルンと言った。アスビオルンは将来有望ですくすくと育った。シグルドはアムドのトロンデネスに住まい、大金持ちであった。彼は王には仕えていないが、兄弟達は借地権保有者であった。彼は州内で古き神々を信仰し、毎冬に3度の供犠祭を行った。彼は洗礼後も同じように続けていた。秋に仲間達と供犠祭を行い、冬にはユール供犠祭を行い、そしてイースターで多くの人々を集めた。アスビオルンの18才の時に、シグルドは床で息を引き取り、そして彼は財産を引き継いだ。彼も父のように3度の供犠祭を行ったのである。しかし寒くなるとどんどんと食糧事情は悪くなった。彼は供犠祭を行うために必要な食糧や酒の確保ができず、貯蔵品で代用した。しかし2年目はそうもいかず、シグルドは宴を躊躇したものの、アスビオルンは求めたのである。彼は秋に友人に会いに行き、食糧を購入して必死で手に入れた。その冬は彼が全ての祭を取り仕切ることになっていた。しかし次の春には誰も種を買い入れることができなかったので、種蒔きができなかった。1人2人とフスカール(家来)が彼のもとを去っていった。オーラヴ王の穀物などの北部への輸出を禁じた対策が重くのしかかっていた。アスビオルンは20人の家来を引き連れ交易船で南に向かった。カルムト島を少し過ぎた所に家令のトーレ・セルの管理する王のガルズのアグヴァルスネスという大きな館があった。トーレの家柄はよくないが、自身の力で今の地位にまで上り詰めた。彼は優秀な事業家で、演説に長け、風貌もよく、力持ちで強い首領であった。アスビオルンとその従者達はその晩はそこに停泊した。朝にトーレは家来達を引き連れてその船に向かった。彼はしっかりと装備された見事な商船の指揮官が誰か、その目的を訊ねた。
「北では不作続きで、たくさんの人々が飢えで死んだ。こちらの農場は立派だ。どうか食糧を売って下さらんか。」とアスビオルンが言った。
「それは大変な旅ですな。王は北の者達に食糧を売ってはならぬとの令を発しているので、これ以上進まれても貴殿は食糧を手に入れることはできないでしょう。戻られた方が賢明ではないのでしょうかな。」とトーレが答えた。
「このままではエルリングを迎えられぬ。」
「貴殿はエルリングとはどのぐらい濃い血の間柄なのですかな。」とトーレが訊ねた。
「我が母はエルリングのきょうだいなのだ。」
「ロガランド王の甥と知っていれば、用心はしませんでしたのに。またこちらへおいで下さい。」
その後にトーレは彼に旅の安全を祈ったのである。それから彼らは帰路につき、夕方にヤダルに到着した。アスビオルンは半分の家来を連れて船を下り、残り半分は船を見張っていた。アスビオルンが館に到着した時、エルリングは彼を歓迎した。エルリングは隣の席に彼を勧め、色々と話しかけた。アスビオルンは旅の困難さを語った。
「王の禁止令はかなりのものだな。友情だけではわが身を守るのは困難とみうけられる。」
「我が母の血筋は全て自由民だ。ソーラのエルリングは身内の中で最も身分が高い。だが今はどうだ。食べ物もままならず、奴隷以下だと皆が噂している。」とアスビオルンが言った。
エルリングはその事を声を立てて笑い飛ばし、酒を勧めた。
次の日、エルリングはアスビオルンに訊ねた。
「その穀物は誰から購入したのだ。」
「正当に手に入れたものなれば、購入者など大事ではない。」とアスビオルンがきっぱり言った。
「我が奴隷達は穀物を貯蔵していると思われる。奴隷の身分なれば法には縛られぬ。彼らから手に入れるがよい。」と彼は言った。
アスビオルンはこの申し出を受け、奴隷達から穀物、モルト等を購入して船に積み込んだ。そして出発の時にエルリングは彼にたくさんの贈り物を持たせた。アスビオルンは良風を受け、夕方にはカルムトスンドのアグヴァルスネスそばに船を留めて夜を過ごした。トーレは夜に60命の家来達を呼び寄せた。世が明けてすぐにアスビオルンを訊ねるために船に乗り込んだ。アスビオルンは彼を歓迎した。トーレはアスビオルンの船荷について訊ねた。
「穀物とモルトだ。エルリングは王にささやかな抵抗をしてくれた。」と彼は言った。
トーレはしばらく熱く語った。アスビオルンはエルリングの奴隷が穀物を所有していた事を言った。
「人目に付くとやっかいだ。陸路で行くか、もしくはこの船を下りていただこうか。」とトーレが言った。
アスビオルンはトーレと戦うほどの武力が自身にはないと判り、陸に上がった。トーレは船から荷物を降ろした。
「古い船を取ってこい。彼らに与えるのだ。それで家に帰れるだろう。」
それゆえに帆が取り払われ、陸に沿って北上し、冬にさしかかった頃に家に到着した。アスビオルンはその冬の祭事にまつわる事柄から免れた。トーレはアスビオルンと彼の母に連れてこれるだけの家来達と共にユールの宴にくるように言ったのであるが、アスビオルンはそれを受けずに家から離れなかった。トーレはアスビオルンが彼の言葉を軽んじたと重い、トーレはアスビオルンの旅を馬鹿にしたのである。この事がアスビオルンの耳に入り、彼も気を悪くした。彼は冬は家から離れず、どこの宴の招待も受けなかった。
アスビオルンは20漕手席のロングシップを保持していた。キャンドルマス(1023年2月2日)後に装備を整えて出帆した。彼は90名の武装した家来を引き連れ、陸に沿って南下した。彼らはカルムト外れにイースター(1023年4月18日)の5日後の夕方に到着した。そこは大きな島で、主な航路から外れていた。たくさんの住人がいたのだが海岸付近に点在して済んでいた。アスビオルンと家来達は人里離れた場所に到着したのである。彼らは天幕を張り終えた後にアスビオルンは島を探索してくるので船で待っていろと家来達に言った。アスビオルンは粗末な服、背の低い帽子を着け、手にはフォークを持っていた。服の下には剣を隠し持っていた。彼がアグヴァルスメスから見おろしていると、たくさんの人達がアグデルに向かって歩いているのを目にした。彼の目には奇妙に映った。彼は食事の用意をしている召使い達のもとへ行き、オーラヴ王が宴の接待を受けるためにここに来ている事を知ったのである。アスビオルンは館に入り、控えの間に入った時に2人の男とすれ違ったのだが、誰も彼のことを気にもとめなかった。館の扉は開けっ放しで、ソーレ・セルが高座のそばの食卓についているのを見た。日も暮れ始め、アスビオルンは人々がトーレにアスビオルンとの先の出会いについて語っているのを目にした。
「その時のアスビオルンの顔を見たかったな。さぞかし悔しがっていただろう。」
「彼は私が船と取り上げた時、我慢しておったが、帆を取り上げた時、涙を浮かべおったぞ。」とトーレが言った。
アスビオルンはこの侮辱に対し、剣を抜きトーレの首にたたきつけた。首が飛び、その首は王の前の食卓に落ちた、その体はその場で崩れ落ちた。食卓は血の海であった。王はすぐにアスビオルンを捕らえるように命じ、広間まら連れ出された。トーレの死体、血で汚れたものは取り払われて片づけられた。王はたいへん怒っており、剣に手をかけていた。彼の従兄弟のスキャルグ・エリクソンは前に出て言った。
「閣下、この者の事は私に負かせて頂けませんでしょうか。」
「その者はイースターを血で汚した。この者をただで済ましてどうするのだ。」と激怒して言った。
「閣下のお怒りがいかほどが理解しております。この者は閣下を狙ったわけではございませんし、この者を許すことは閣下の名声を上げることに繋がります。」とスキャルグが答えた。
「私はこの事を許しはせん。」とオーラヴが言った。
スキャルグは12名の家来と共に部屋を出て、それ以外の多くの者達も外に出た。スキャルグはトラレン・ネヴォルヴソンに話しかけた。
「もしお前が私との友情に殉ずるのであれば、この者アスビオルンは日曜日までに処刑されることはないだろう。」
この後にスキャルグと家来達は外に出ていった。彼らはスキャルグの手漕ぎ舟でヤダルに向かい、夜明けまでに到着するように急いで漕いだ。彼らはすぐにエルリングが就寝している屋根裏に行き、スキャルグは扉に突進した。その時、エルリング他、中にいた者達は飛び起き、素早く盾と剣を手にして扉に向かった。
「誰だ。」と彼は叫んだ。
「父上、スキャルグです。扉を開けて下さい。」
「なるほど、お前ならこんなばかげたことをするだろうな。大人数で来ているのか?」と彼は言い、扉を開けた。
「大変です。アスビオルンがアグヴァルスネスの北で鎖でつながれております。彼を助けなくてはなりません。たとえ私が乱暴にここに来たと思われても、それは彼を助けるための勇敢なる行為でしょう。」と言った。
親子は話し合い、スキャルグはエルリングにトーレ・セルの殺害について全てを語ったのである。
オーラヴ王はなに不自由ない館の高座に座り、激怒していた。彼は殺害者の扱いを訊ねた。
「なぜ処刑せんのだ。明朝に処刑するのだ。」
アスビオルンは鎖につながれ、監視されていた。次の日、王は早祷に向かい、大ミサまでそこにおり、ミサに行った時にトラレンに訊ねた。
「十分に日は昇っておる。アスビオルンを処刑したのか。」
「閣下、先週の金曜日に司教殿は閣下に大いなる試練に耐えねばならぬとおっしゃりました。平日の明日までしばしお待ちを。」とトラレンが答えた。
「なるほど本日は処刑に相応しからぬ日だ。お前はやつが逃げぬように見張らなくてはならぬ。取り逃がせばお前はただでは済まぬと思え。」
それから王は出ていった。トラレンはアスビオルンの所へ行き、鎖を解き、食事させるために小部屋へ案内した。
「私は貴殿を見張るように命じられた。貴殿が逃げると私の命はない。」
「その心配はない。」とアスビオルンは言った。
トラレンは長い間彼のそばで見張り、そこで寝床を取った。土曜日に王は早祷に行った。たくさんの農民達が不平不満を言っていたので、その会合に向かった。彼は長い間そこにおり、王が食卓についた後の大ミサに多少遅れていった。王が食事を終え、食卓が片づけられている間に王は酒を飲んでいた。トラレンは教会の聖職者を訪ね、王が食卓を離れるとすぐに聖なる日のために鐘を慣らすようにと銀貨2マルク渡した。王は十分に酒を飲み、食卓が片づけられ、処刑の時が来たと言った。その時、聖なる日のための鐘が鳴り、トラレンは王の前に出て言った。
「たとえ彼が罪人だとしても、聖なる日は彼を罰せません。」
「やつが逃げぬように見張っておれ。」と王が言った。
それから王は午後のミサ(9時課)のために教会に向かい、トラレンは聖なる日にアスビオルンと共に座っていた。土曜日に司教がアスビオルンをたずね、大ミサを聞くことを許し、彼の懺悔を聞いた。そしてトラレンは王のもとへ行き、殺害者を見張る家来をさしむけるように頼んだ。
「私は彼にもうかまいませぬ。」
王は彼の言葉を有り難く思い、アスビオルンを見張らせるために家来を送り出した。アスビオルンは鎖に再びつながれて大ミサに向かった。王と集まった人々がミサを聞いている間、外には2人の見張りが立っていた。
一方、エルリングと息子のスキャルグは戦の矢を放ち、人々を集めた。1500(1800)人の戦士が集まった。日曜日にカルムトのアグヴァルスネスに到着し、福音が読まれている時にその場に現れた。アスビオルンを助け出し、鎖を壊し立ち去った。騒がしく、がちゃがちゃという音が教会中に鳴り響き、人々はきょろきょろと見回した。しかし王は動かず、目もくれなかった。エルリングは教会から大講堂への通路の両側に軍隊を引き出した。ミサが終わると王はすぐに教会の外へ出た。エルリングが扉の前に行き、王に頭を下げて挨拶をした。王は返事をし、主に彼を救済するように祈った。それからエルリングが口を開いた。
「甥のアスビオルンが大きな過ちをしたと聞きました。閣下、そのことを閣下が不愉快に思われておられるのであればゆゆしき問題です。それゆえ私は彼の命に価する賠償を申し出るために御前に現れました。」
「エルリング、なぜお前はやつの賠償を申し出るのだ。こんな大軍隊を引き連れて不自然なことだ。」と王が言った。
「閣下が判断を下されるのです。平和的に別れるのが得策だと思いますが。」とエルリングが言った。
「えらく強気だな。大人数でおしかけているからか。」と王が言った。
「それは違います。」
「言葉通りに受けたとしても、どうやらお前の言葉に従わなくてはならぬようだな。」
「閣下は今まで私が少数の家来しか連れてこなかったので気にとめる必要はなかった。でも今は違います。しかし平和に終わることを私は望みます。」とエルリングが赤い顔をして言った。
「どうです閣下。神に免じて彼の言葉通りに折り合いをつけてはみませんかな。」とシグルド司教が前に出て言った。
「お前が決めろ。」と王が言った。
「ではエルリング、王ば相応しいと思われる程の賠償をするのだ。アスビオルンの命は保証された。」と司教が言った。
エルリングは賠償金を渡し、王は受け取った。アスビオルンは釈放され、王の両手にキスをした。するとすぐに家来達の方に向き、その時、別れの挨拶はなかった。この後に王はアスビオルンと共に大講堂に入り、アスビオルンに言った。
「アスビオルン、王の奴隷(家令)を殺害した者は、王が望めば同じ奉公につかなくてはならぬ。お前はトーレ・セルの後を継いでアグヴァルスネスの王の農場を経営するのだ。」と王が言った。
「従いましょう。その前に家に戻ってわが家の整理をしてきたいのです。」
王はこれに同意し、準備が整った宴に向かった。アスビオルンは家来達と共に出発した。彼はその後、「奴隷殺しの」アスビオルンというあだ名がつけられた。彼が家にもどったしばらくの間に、身内のトーレと会った。トーレは今までの出来事と訊ね、アスビオルンは全てを語った。
「この秋の侮辱の復讐をしたな。」とトーレが言った。
「その通りだ。トーレ、何が言いたい。」
「お前のこの前の旅は屈辱的であったが、その復讐ができた。しかしお前が王の奴隷(家令)になって、奴隷のトーレ・セルと同じ境遇に身をやつすというのであれば、血族達にはつらいことだ。お前を助けたい。」とトーレが言った。
アスビオルンとトーレは話し合い、アスビオルンが館に留まることが取り決められたのである。
(02.03.28)
オーラヴ王とエルリング・スキャルグソンの中は悪くなる一方であった。オーラヴ王はホルダランドで宴の接待を受けていたが、人々がキリスト教を遵守していないと耳にしたのでヴォスに向かった。そこで武装した農民達をシングを行い、一触即発の自体ではあったが、結局農民達が王軍に恐れ王に従うことになった。その後も王は北のソグンで接待を受け、秋には古の神々を信奉するヴァルデルに向かった。王軍は湖に向かい、そこで農民達と会戦し、船を手に入れて出帆した。その後にシングを招集し、武装した農民達が集まった。王はキリスト教を享受するように言ったが、農民隊は反対し、武器を内鳴らした。王は農民達と話続けた所、キリスト教に反対している者達の間でも不和があることに気がついた。ヴァルデルの人々は王軍が来ていることを知ると、戦の矢をきり、相当な数の農民達が招集に従ったので離れた地ではほとんど人がいないような状態になったのだ。王はこれを知ると船を走らせ進んだ。そして家来達に人がいなくなった農場に火を付け、破壊し、略奪するように命じたのである。翌日、彼らは岬から岬へと至る所に火を放った。シングで終結していた農民達は自分達の農場を焼く炎を煙を見たとき、彼らは動揺し散会し家路についたのである。王軍は両岸に火を放ちどんどんと進んでいった。落胆を隠せない農民達は王に許しを乞い、王に従う代わりに、王は彼らの今までの動産の権利を保証し、身の保証をしたのである。王はその秋にその地域で長らく過ごし、船を2つの湖の地峡に引き上げた。王は農民達に気を許してはいなかったので遠くにはいかなかった。王は教会を立てさせ、聖職者を置いた。その地を取り仕切ると陸路でトーテに足を向けた。山を越え谷を越え、北上し、トロンヘイム、ニダロスに行き、そこで冬を過ごしたのである。これは丁度彼が王になって10年目のことである。
昨夏に「太鼓腹振りの」エイナルはまずイングランドに向かい、義兄弟のヤールのハーコンに会った。その後にエイナルはクヌート王に謁見し、贈り物を受け取った。それから彼はローマにまで南に行き、翌夏に戻ってきた。故郷に帰ってきたが王には会わずにいた。
王の奴隷女のアルヴヒルドという女性がいた。彼女の血筋はよく、美しく、王の宮廷に身を置いていた。その夏にアルヴヒルドは王の子供を妊娠した。ある晩に彼女の具合が悪くなり、女性、聖職者、スカルドのシグヴァットといった数名の者達しかいなかった。アルヴヒルドはたいそう苦しみ、息も絶え絶えであったがなんとか男の子を産み落とした。赤子は息があるのかないのかも判りにくい状態であったが、非常に弱いものの息をしていることが判り、聖職者はシグヴァットに王に報告するように言った。
「王は目が覚めるまで眠りを妨げることを禁じている。あえて起こすこともなかろう。」と彼は答えた。
「赤子を洗礼するのは大事なことだ。この子が生き延びれるとはとても思えぬ。」と聖職者は答えた。
「王を起こすことより、まずその子を洗礼するのが先ではないのか。私がこの子の名付け親となろう。後で責任は取る。」とシグヴァットは言った。
そしてその通りにし、洗礼が施され、マグヌスと名付けられたのである。王の目が覚め仕度ができ終わった時にこの事を伝えた。
「お前もたいそうなやつだな。私が知る前に名前を与えるとはどうゆう了見だ。」と王が言った。
「1つの魂を悪魔にくれてやるより、神に2つの魂を送り出すのがよいと思われましたゆえでございます。息も絶え絶えで洗礼前に命を落とせばそれは邪な魂になります。しかし今や御子は神の子です。罰は我が命で償いましょう。私は死して神のそばに行くことを望みます。」とシグヴァットが言った。
「なぜお前はマグヌスと名付けたのだ。我が一族にはその名はない。」と王が言った。
「カールマグヌス(カロロス・マグヌス(シャルルマーニュ)皇帝)にちなんで名付けました。私は彼がこの世で最も高き者であると存じております。」とシグヴァットが答えた。
「シグヴァット、お前は強運の持ち主だ。」と王は答えた。
それから王はとても喜び、赤子はすくすくと育ち、将来有望な少年であった。
その春にオーラヴ王はアスムンド・グランケルソンにハロガランド内の1州を与えた。それはティョッタのハレクと共有していたものの半分であった。アレ句は一部を借地、一部を所有地として昔は全地を所有していた。アスムンドは30人の武装した家来達と共に船で行き、ハレクに会いに行った。アスムンドはその州における王の権力のほどを訊ねた。
「先の王達はこの地で生まれた家柄のよい我らから権利を削り取ったり、他の農民達にその権利を認めたりはしなかった。しかし王に従わざるをえん。」とハレクは抵抗することがままならぬことを悟り、アスムンドに答えた。
アスムンドはいったん父のもとへ戻ったが、すぐにハロガランドの手に入れた州に向かった。彼は金持ちで優秀なグンステインとカッリという兄弟の済むランゲイに行った。グンステインは長男で経営の実権を握り、カールは容姿も良くファッションセンスは大したものであった。両者とも武勇にすぐれていた。アスムンドは快く迎え入れられた。彼は手に入れられる限りの税をかき集めた。カッリはアスムンドと共にオーラヴ王を訊ね、親衛隊に入れて貰おうと提案した。カッリはアスムンドの従者の一員になった。アスムンドは「奴隷殺しの」アスビオルンが南のヴァガのシングに行っており、おおよそ20人の家来達をのせた商船で北を目指そうとしていると耳にした。アスムンドは家来を引き連れて南下し、ヴァガで数隻の船を見つけた。彼らが航行していた時に、商船がやってくるのを目にした。その船は白と赤で塗られ、両側が明るい色で、縞状の帆で目立っていた。
「青のキルトを着けて「奴隷殺し」が舵取りをしている。」とカッリが言った。
「そうか、ではやつに赤いキルトを着せてやろうぜ。」とアスムンドが言った。
それからアスムンドが「奴隷殺し」のアスビオルンに槍を投げつけ、それは彼の体の真ん中を射抜き、一番上の舷に深々と突き刺さったのである。アスビオルンの手から舵が外れ、体は崩れ落ちた。彼らはアスビオルンの亡骸をトロンデネスに運んだ。それからシグリッドは「犬の」トーレに伝言を伝え、習慣に従いアスビオルンの亡骸が置かれている場所にやって来た。そして彼らが立ち去る時にシグリッドは友人達に贈り物を選んだ。彼女は船までトーレを見送り、別れ際に言った。
「トーレ、私の息子のアスビオルンはあなたの助言に耳を傾けました。そのせいで長生きはできなかった。報いを受けるべき者達がいます。あなたにこれらの物を差し上げましょう。うまく使っていただけるように願います。」と彼女はトーレに槍を渡し、血讐を要求したのである。
「この槍はアスビオルンは貫いたもの。あの子の血がまだ染み着いています。あなたの甥のアスビオルンの事を忘れさせないでしょう。もし「大きな」オーラヴにこれを突きつけることができたのであれば、あなたはとても誉れある人であることが明かされるでしょう。もし血讐が行われなかったら、あなたは臆病者と蔑まれることになるでしょう。」と彼女は言った。
彼女は立ち去った。トーレは言葉も口にできるほど彼女の言葉に怒っていたのである。彼の手から槍が滑り落ちたが、そのことを気にすることもなく船に乗り込んだのである。トーレと家来達はビャルケイの家に戻った。アスムンドの従者達はオーラヴ王のいるトロンヘイムに行き、この旅で起こった出来事を王に報告した。カッリは王の親衛隊に入った。しかしこれらの事が王のそばにいた者達の耳に入り、「犬の」トーレの知ることとなった。
春も終わりにさしかかった頃、オーラヴ王は仕度を整え出帆した。南下し、農民達とシングを開催し、法を制定した。王は国中を査察に行く時に借地料も集めた。その秋に東の国境達に向かい、キリスト教を布教し、法を制定した。王はオークニー諸島、アイスランド、グリーンランド、フェロー諸島に使者を送り出して主権を確立していった。王はアイスランドに教会を建てるための木材を運ばせ、全島会議アルシンギが行われるシングヴォルドに教会を建てさせ、鐘も送り出した。オーラヴ王にとって役に立った優秀なアイスランド人達がいた。トルケル・エイオルフソン、トルレイク・ボッラソン、トルド・コルベイソン、トルド・バルクソン、トルゲイル・ホワルドソン・トルモド・コルブルナルスカルドである。オーラヴ王はアイスランドの首領達にたくさんの贈り物をした。しかしこれは後で明らかになるように、裏があってのことであった。
この夏にオーラヴ王はトラレン・ネヴォルソンをアイスランドに向けて派遣した。彼は順風を受けて4日でエイラルに到着した。すぐにアルシングに行き、法の朗読が行われた後に言った。
「王はこの地の首領達、一般民達、老若男女を問わず全ての者達に祝福の言葉を贈られた。皆が王の民となり、友となるのであれば彼はよき主となろうと申しておられる。王はエイヤルフィヨルド以外にある島や岩礁の権利を王に北部の者達が譲渡し、グリムセイと称するようにと言っておられる。この見返りに多くの品々が王から贈られるであろう。そしてメドルヴェッリルの最高支配者のグドムンドに手助けしてもらうようにと要望されておられる。」
「オーラヴ王は友情を望んでおられるとみうけられる。それは島や岩礁以上の価値があろう。この島の恩恵を受けている者達とこのことについて話し合いを行いませんか。」とグドムンドが答えた。
それから仮小屋に向かい、北部の人々と話し合った。グドムンドはあれやこれやと頭をひねりながら得策を考えたが、エイナルは口を閉ざしたままであった。人々は彼がなぜ意見を述べなのか訊ねた。
「誰も私に意見を求めなかったから言わなかっただけだ。あえて口にすれば、オーラヴ王の要求やノルウェイの民が強いられた事柄に従わぬことがこの地の民にとって都合よかろう。しかし今の自由が損失されることになれば、それは孫の世代まで代々奴隷の身分に身をやつさなくてはならぬだろう。しかし王から贈られるであろう馬、鷹、船具、その他の品々は貴重なものだ。しかし北部の民が島や岩礁から生活の糧を得ているのも事実だ。」とエイナルは語った。
エイナルの意見を聞き、良策と思われた事柄に同意がなされた。
トラレンは次の日にシングに向かい、演説をした。
「オーラヴ王は友情の証として数名の者達を招待する。グドムンド・エヨルフソン、ゴジのスノッレ、トルケル・エイオルフソン、法律家のスカフティ、トルステイン・ハッラソンを招待します。」
彼らはこれに了承し、王の招待に感謝した。そして首領達が話し合い、自身の心の内を語った。ゴジのスノリとスカフティはこれらの有力者達をノルウェイに送り出すことに不安を感じていた。グドムンドとトルケル・エイオルフソンはこれに従い招待を受けることは栄誉あることだと言った。そしてその後も話し合いが行われ、彼ら自身は島を出ず、1人の代理の者達がノルウェイに向かうことが決定された。それから夏にトラレンは戻り、秋にオーラヴ王に報告しに行った。
その夏に法律家のギッリ、レイフ・アッスルソン、ディムンのトラルヴ、そして多くの農民達の息子達がフェロー諸島に発せられたオーラヴ王の命に従い、ノルウェイにやって来た。ガタのトランドは準備を整えたが体調は万全でなく、重い病気にかかった。彼らがノルウェイに到着し、王を招き入れた。話合いが行われ、フェロー諸島がスコット税を王に差し出し、王の法に従うことが要求された。フェロー諸島の者達は王の言葉に激怒していた。しかし抵抗もままならず、王に従うことになった。そしてレイフ、ギッリ、トラルヴは親衛隊に入った。この後に彼らは島に戻ってスコットを徴収するために派遣された。しかし彼らはフェロー諸島には行かず、彼ら以外にはスコットを徴収するものもなく、決してノルウェイには税が運ばれることはなかったのであった。
オーラヴ王はその秋にヴィクに雪、オプランド人達に接待を命じた。王はオプランドに向かい、冬の間接待を受けることに明け暮れていた。ただ酒をくらっていたわけではなく、キリスト教を確かなものにするためにも力が注がれた。王がヘデマルクにいた時にリンガネスの「子牛の」ケテが「雌豚の」シグルドとアスタの娘のグンヒルドに求婚し、訪ねたとの話が伝わった。グンヒルドはオーラヴ王のきょうだいで、王はこれに判断を下さなくてはならなかった。王はケテルの血筋もよく、金持ちで賢く優れた首領であったのでそれに異存はなかった。彼はまたオーラヴ王の長年の友でもあった。王はこの婚姻を了承した。その祝宴が行われ、オーラヴ王が出席していた。オーラヴ王はそれから北のグドブランド谷に行き、接待を受けていた。トルド・グソルムソンという者がステイグに住んでいた。トルドはダーレの北部における最高有力者であった。そして彼と王が出会った時、トルドはオーラヴ王の母の姪のイスリッドに求婚した。王はこの件についても判断を下さねばならなかった。そして同意がなされた。その後にトーレ、ヘデランド、リンゲリクと南に進み、ヴィクに到着した。その春にはツンスベルグに向かった。ツンスベルグは大きな市が行われ、様々な商品がたくさん集まる場所であった。そこで長らく滞在した。
「大」クヌートとも呼ばれる「強者」クヌートはその当時イングランドとデンマークに君臨していた。彼はハーラル・ゴルムソン(青歯王)の息子のスヴェン二叉髭王の息子で、正当なるデンマーク王家の血筋である。ハーラル・ゴルムソンはグンヒルド皇后の息子のハーラルが死した後にノルウェイを手に入れた。彼はスコット税を手に入れ、ヤールのハーコンにその地を管理させた。ハーラルの息子のスヴェン王もまたノルウェイを統治し、ヤールのエリク・ハーコンソンを管理させるために任命した。彼と兄弟のスヴェン・ハーコンソンは、ヤールのエリクが義兄弟の「強者」クヌートの命でイングランドに向かうまでその領土を統治した。彼は自身の息子で、「強者」クヌートの姉妹の息子のハーコンに後をまかせた。「大きな」オーラヴがノルウェイにやって来て、まずヤールのハーコンを捕らえて追放した。ハーコンはおじのクヌートに助けを求めた。「強者」クヌートは武力でイングランドを手に入れていたので、戦いと闘争でその地の民衆を服従させた。彼は代々支配してきたノルウェイ全土の支配権は自らにあると考えていたのだが、おいのハーコンはいくらかノルウェイの支配権を所有していると考え、それはいまや屈辱を受けて喪失されたと思っていたのである。オーラヴ・ハーラルソンが最初にノルウェイに踏み入れた時、全ての民衆達が彼のもとに集まり、オーラヴを王として認めたため、彼らはノルウェイの支配権を主張できずにいたのである。しかしその後、オーラヴの圧政のために多くの人々がその領土から逃げ出していた。多くの有力者達や豪農達の息子はクヌート王を慕い、訪ねた。彼らはクヌートの豪華絢爛な宮廷で大いなる栄誉を受けていた。「強者」クヌートは北部の領土の最も豊かな地域からスコット税とそれ以外の税を徴収していた。その取り分というものは他の王が徴収する量よりずっと多く、そしてクヌートは他の王達が支払うお給金よりずっと多くの量を彼らに与えたのであった。彼の王国全てはとても平穏で、それを打ち壊そうとする動きもなく、地主は平穏に過ごしており、自身の先祖伝来の土地の所有権を保持できていたのである。こんなわけでクヌート王を慕い、仕える者達が多かったのである。ノルウェイからやってきた者達は自由の喪失の不平不満をヤールのハーコンに訴え、ある者達はクヌート王とヤールに従うと誓ったのである。これはヤールの心に強く響いた。ヤールはクヌート王に、もしノルウェイからオーラヴ王を追放したれば、ノルウェイの領土の一部の所有権をを認めるように要求したのである。
「強者の」クヌートはイングランドからノルウェイに素晴らしい船で使者たちを送り出した。その春にオーラヴがいるツンスベルグに到着した。王は使者達の存在を知ると激怒し、快く思っていなかった。数日後やっとのことで使者達が王に謁見することが許され、クヌート王の手紙を王に渡して伝言を伝えた。
「クヌート閣下は正当な権利としてノルウェイ全土を要求しておられます。閣下は平和的に事を勧めたいと考えておられ、ノルウェイが承諾するのであれば戦の盾を掲げて上陸はしないとおっしゃっておられます。そしてオーラヴ殿がノルウェイ王でありたいと思われるのであれば、クヌート閣下に謁見し、閣下の家来となり、閣下が許し与えた領土で税を支払うようにとおっしゃっておられます。」と家来が言った。
「デンマーク王ゴルムは優れた部族王であったのは知っておる。彼はデンマークだけを支配していた。しかしそれ以後の王達はそれに満足していなかったようだ。クヌートはデンマークとイングランドを手に入れ、スコットランドの大部分を手に入れた。どうやら彼は私が相続したものを要求しているようだが、このノルウェイを愚かにも単独で遅配しようとしているのか。やつはイングランドのキャベツを独り占めして平らげようというのか。我が首が地に着かぬ限り誰にも屈服する気はない。やつに伝えろ、我は槍と剣で生有る限りこの国から誰にもスコット税を支払う気はないとは。」とオーラヴが言った。
クヌート王の使者たちは顔色も暗く、イングランドにそそくさと帰っていった。
スカルドのシグヴァットはクヌート王のもとに身を寄せており、王から半マルクの重さの黄金の環を贈られていた。ベルシ・スカルトルフソンもまたクヌート王のもとに身を寄せており、半マルクの重さの金の環を2個贈られていた。そしてその上に彼は黄金で打ち出しされた飾りのある剣をもらい受けていた。シグヴァットはクヌート王の使者達の不成功な使命を聞き知った。
「どうしたものか。しかし問題はなかろう。閣下は温厚な性格ゆえ、もし首領達が閣下に刃向かってきてもすぐに許し、服従の申し出があれば認めなされるであろうからな。ほら昔、スコットランドから2名の王が来た事があっただろう。彼らの対応はのろのろとしたもので、非常に悪かったので閣下は一度は激怒されたが、結局は彼らの全領土の権利を認め、別れ際にはたくさんの贈り物を渡したことがあったろ。」とシグヴァットが言った。
この後にクヌート王の使者達は良風を受けて帰国し、クヌート王に報告した。
「オーラヴが私がイングランドの全てのキャベツを平らげようとしていると思っているのであれば愚かな事だ。我が胸の内にはキャベツはなく、オーラヴへの冷淡なる策が秘められているとやつは知ることになるだろう。」とクヌートが言った。
その夏にヤルダルのエルリングの息子達、アスラクとスキャルグがノルウェイからクヌート王を訪ねてきた。アスラクはヤールのスヴェン・ハーコンソンの娘のシグリドの夫であったので、大歓迎された。彼女とヤールのハーコン・エリクソンは従兄弟であった。クヌート王はアスラクとスキャルグの兄弟に立派な借地を与えた。
オーラヴ王は地主を招集した。「強者の」クヌートがノルウェイに進軍してくると聞き知ったのでたくさんの民衆を集めた。西から来た商人達からクヌート王が大軍隊を結成していると聞き知ったのである。オーラヴ王はその夏はヴィクにおり、クヌート王がデンマークにやってくるのかどうかを調べるために偵察隊を送り出した。その秋にオーラヴ王は義兄弟のスウェーデンのアヌンド王にそれまでの経緯ともしクヌートがノルウェイを手に入れたのであれば、スウェーデンも危うくなるとの旨を伝えるために使者を送り出した。アヌンド王は事の重大さを認識し、両者が互いに助け合うとの約束を交わしたのである。次の冬にアヌンド王は西ガウトランド抜けてオーラヴ王とサルプボルグでその冬を過ごすために出発の準備を整えた。「強者の」クヌートはその秋にデンマーク入りし、ノルウェイとスウェーデンの動きを知った。その冬にクヌート王はスウェーデン王アヌンドのもとにたくさんの贈り物を持たせて家来達を派遣した。
「閣下はスウェーデンの平和を乱すことはいたしません。ただノルウェイの正当なる権利を主張されているだけです。」と使者達が言った。
そして使者達は王にたくさんの贈り物と友情を引き渡したのである。しかしアヌンド王は使者達の話を好意的に受け取らず、使者達もアヌンドの意志はオーラヴ王と共にあると知れたのである。
(02.03.31)
その冬はオーラヴ王はサルプボルグに親衛隊と共に過ごしていた。王はハロガランド人のカッリに、まずオプランド、ニダロス、ビャルマランドで徴収しに行くように命じられた。徴収物は王と等分することが取り決められ、装備が整った船が与えられた。早春に準備が整った。彼の兄弟のグンステインが25名の従者を引き連れてカッリとの交易の旅に出るためにやって来た。彼らはすぐにフィンマルクに向かった。「犬の」トーレはこれを知ると夏にビャルマランドに行くことを望み、その旨彼らに伝えた。カッリとグンステインはトーレに彼らと同数の25名の家来を連れ、徴収は別として襲撃で手に入れたものは等分するとの取り決めがされた。しかしトーレは装備が整った軍船で、その上に80名のフスカールをのせてやってきたのである。サンドスヴェルの北でカッリと合流した。グンステインはトーレの武力について兄弟のカッリに話しかけた。
「戻った方がよさそうだ。やつは信用できぬ。やつに我々の武力の指揮権を委ねる気はない。」
「引き返す気はない。トーレが大きな武力を持っているのだからたくさんの物が手に入るだろう。」とカッリが言った。
しかし約束以上の家来を連れてきた理由を兄弟は訊ねた。 「この船は大きいのでな、たくさんの漕ぎ手が必要だ。この先、危険な旅だ。役に立つだろう。」と彼は答えた。
その夏は風任せに北上した。風が止んだ時、漕ぎ手の多いカッリの船はさっさと走り去ったのであるが、風の強い日にトーレの船が追いついた。彼らはほどんと別々に航路を進めていた。しかし互いの船に注意を払っていた。ビャルマランドに到着し、彼らは市場のある町の方に停泊した。市場が開かれ、様々な商品が集まっていた。トーレはたくさんの毛皮、ビーバー、黒貂を手に入れ、たくさんの革を購入し、それ以外の様々な商品も手に入れたのである。そして市場が終了すると、彼らはヴィナ川に沿って航行した。その時に彼らが大人しくしていたのもここまでである。彼らは海上で会合を行った。トーレは皆に上陸し略奪したいと望んでいるか訊ねた。
「陸に上がって略奪すればたくさんの品々を手に入れられるだろうよ。運が良ければな。」とトーレが言った。
「しかし危険も伴う。」と家来達は答えた。 しかし彼らは一か八かを試したいと望んだ。
「この地ではな、古くから豊かな者が死ねば残された財産は死者と相続人達で分けられるということだ。死者には半分から3分の1ぐらいの量が割り当てられ、お宝は森、もしくは塚に埋められる。たまにその上に祠が立っているという話だ。」とトーレが家来達に言った。
彼らはその晩に準備を整えた。 「さっさと船から下りろ。誰も逃げるんじゃない。誰も船に残るんじゃないぞ。」と舵取り達が命じた。
一行は上陸した。まずは平地であった。それから大きな森が広がっていた。トーレは先陣を切り、カッリとグンステインの兄弟はしんがりを勤めた。トーレは家来達に音を立てないように命じ、帰り道が判るように木々から皮を剥ぎ印をつけるように命じた。大きな開墾地に出た。そこには閉じられている正面扉のある大きなガルズがあった。どうやら6人が2人づつ交互に見張る仕組みであった。トーレ達が到着した時、見張りの交代時で誰もいなかった。トーレは囲いに斧を振り下ろし、ひっぺがした。戸口のそばの囲いを乗り越えた。カッリももう片側を飛び越え、2人で閂を引き抜いた。その後に従者達が流れ込んできた。
「お前達はお宝が埋められている塚に行け。そこにはヨマレというビャルミア人達の神が立っている。その像には手出しをするな。」とトーレが言った。
それから家来達は塚に向かい、泥まみれの持てるだけのお宝を布にくるんで持ち運んだ。
「さっさとずらかるんだ。カッリとグンステインは先頭を行け。私は最後に行く。」とトーレが言った。
彼らは全員、門に向かい、トーレはヨマレのある所へ戻り、ヨマレの膝の上においてある銀製の鉢を手にとった。その鉢には銀貨が一杯入っていた。彼は銀貨をマントに流し込むと、鉢の取手に腕を入れて走り出した。皆、ガルズを後にし、彼らはトーレが背後にいることに気付いた。カッリは彼を迎えに行き、その時、戸口のそばで銀の鉢を持っているトーレを見つけた。カッリはヨマレの方に戻り、ヨマレの首に太い首輪がかけられているのを見ると、彼は斧を振り下ろし、首の後ろで首輪を留めていた綱を切り裂いた。その一撃は強烈だったので、ヨマレの首が吹き飛んだ。大きな音がしたので皆がそれを耳にした。カッリは首輪を手に取るとそそくさと逃げ去った。しかし大きな音に気がついた見張りの者達は角笛を吹き鳴らした。彼らは四方八方から角笛が吹き荒れるのを耳にした。彼らは森へ急いで逃げ込んだが、背後の開墾地で悲鳴が上がったのを耳にした。ビャルミア人達は音のする方へ急いだ。「犬の」トーレは最後尾であった。彼の前を大袋を手にしてた2人の男が走っていた、その中には灰のようなものが入っていた。トーレはそれを手にすると追手にむけてばらまいたのである。こうして彼らは森から野原へ抜けた。ビャルミア人達の軍隊が雄叫びをあげ、彼らの後を追撃していた。彼らの両側の森から追いかけてきた。しかし十分な場所がなかったのでビャルミア人達の攻撃できなかった。どうやら彼らが見えてなかったようである。前を行くカッリとグンステインは乗船したが、最後尾のトーレはまだ走っていた。カッリとその家来達が船に乗り込むと天幕をひっぺがし、帆を引き上げ素早く海にでた。しかし船は思うように動いてくれなかった。後をゆくトーレとその家来達には時はよりゆっくりと流れたように感じていた。海上に出た時にはカッリは見えなくなっていたのである。両者はガンドヴィク(白海)を航行した。沈まぬ太陽、白夜であったため明るかった。カッリはある晩に島に到着するまで夜も昼も航行した。目の前に大きな渦がまいていたので、彼らは流れが変わるのを待つために帆を下げて碇を降ろした。トーレがやっと追いつき、彼らもまた碇を下ろした。それから彼らは小舟を下ろし、トーレと数名の者達が乗り込み、カッリの船に向かって漕いでいった。兄弟達は彼に友好的に挨拶をした。トーレはカッリに首輪を渡すように言った。
「命があったのはわれらのお陰ではないのか。あれぐらい我らが頂いても罰はあたらんだろう。しかしカッリ、お前さんは我々を危険な目によくも遭わしてくらたもんだな。」
「オーラヴ王にはこの旅で手に入れた物半分の所有権がある。王はその首輪を取るだろう。それを王に差し出すのだ。もし王がいらぬと言えばそれはお前のものになるんだぞ。」とカッリが言った。
「どうだ、戦利品を分け合うために島に上陸しようじゃないか。」とトーレが言った。
潮の流れが変わり、碇を引き上げた。トーレは兄弟の船を後にして小舟に再び乗り込み、自分の船に戻った。カッリの家来達は帆を揚げ、トーレの家来達が船を走らせる前に出帆したのである。そしてカッリはいつも前を行き、トーレも遅れまいとしたため2艘はどんどんと海の上を走っていったのである。こうして彼らはゲイルスヴェルの突堤に到着した。トーレは内側の港に停泊したが、カッリは港の外側で待機した。そしてトーレはたくさんの家来を引き連れて陸に上がった。兄弟達はトーレに陸に来るように叫ばれたので、数名の家来と共に上陸した。トーレは戦利品を分配するために持ってくるように命じた。兄弟達は国に戻るまでその必要はないと断った。そして話し合いも決裂し、トーレは立ち去ったが家来達に耳打ちした。
「カッリよ、お前さんと話がしたい。」とトーレが叫んだ。 カッリは彼の言葉を受けて彼のそばに言った。するとトーレは体のど真ん中に槍を打ち込んだ。
「カッリ、お前は1人のビャルケイの男を知っているだろう。その槍は奴隷の仇をなすものといわれているのだ。」とトーレが言った。
こうして「犬の」トーレは密地のアスビオルンの仇を打ち、その母のシグリドの言葉に応えたのである。
トーレと家来達は船に戻った。グンステインと家来達はカッリの亡骸を船に運んで直ぐに天幕をたたみ船に向かった。トーレとその家来達もこれを目にするとすぐに天幕をはぎ取って準備を整えた。しかし彼らが帆を引き上げた時、マストが折れ、帆が甲板に落ちてきた。トーレが再び出帆できるようになるまでしばらく時間がかかった。そしてグンステインの船はどんどんを先を進んだのである。トーレの家来達は風を受けて進んだり、風のない時には漕いで進んだ。グンステインも同じようにしており、両船とも昼も夜も波を切り続けたのである。海峡が近づき、航路が難しくなるとトーレの船はグンステインに容易く近づけるようになった。ゆっくりと近づき、トーレの船が追いついた。グンステインの家来達はレンギュヴィグを過ぎた頃、陸に方向を転じて陸に逃げた。その後にトーレの家来達も陸に乗り上げて攻撃をしかけた。その時、1人の婦人がグンステインを匿ったのである。彼女は妖術使いであった。トーレの家来達は船に戻り、グンステインの船から財宝を根こそぎ奪い取り、その変わりに石を運び込んでフィヨルドの中程まで船を運ぶと船に穴を開けて沈めたのである。トーレと家来達はそれからビャルケイに戻っていった。グンステインとその家来達は見つからないようにこそこそと先を急いだ。彼らは小舟に乗って進み、夜目にまぎれて行動した。こうして彼らはビャルケイを無難に通り過ぎてトーレの州をなんとか後にすることができた。グンステインはまずランゲイの家に向かい、そこでしばらく身を寄せた。再び出発してトロンヘイムのオーラヴ王に会うとビャルマランド行きの事の次第を報告したのである。
オーラヴ王は「強者の」クヌートがデンマークにいた冬にはサルプスボルグにいた。スウェーデン王アヌンドはこの冬に300(360)人以上の家来を引き連れて西ガウトランドを馬で抜けた。使者たちがせわしなく行き交い、翌春にコヌンガヘッラでの会合を合意したのである。しかしクヌート王の同行を詳しく知る必要があったので会合は少し遅らされた。春も過ぎようとしている頃にクヌート王はイングランドに向かう準備をしていた。彼はデンマークに息子のハルデクヌートをスプラカレッグのトルギルスの息子のヤールのウルフを後に残した。ウルフはスヴェン王の娘で「強者の」クヌート王のしまいのアストリドと結婚していた。彼らの息子は後のデンマーク王のスヴェンである。「強者の」クヌートはイングランドに向かった。そしてオーラヴ王とアヌンド王がこれを知り、会合を行うためにコヌンガヘッラ近くのエルヴで会合した。別れ際に贈り物を交わし、アヌンド王はガウトランドに向かい、オーラヴ王はヴィクを抜けてアグデル、そこから海岸に沿って北上した。長い間、彼は風を待ってエイクンダスンドで停泊していた。オーラヴはエルリング・スキャルグソンとヤルダル人達が大人数で集結していると報告を受けた。ある日、王は家来達に風について相談をしていた。しかしこの風では航行は不可能であった。
「もしエルリング・スキャルグソンがソーレで我らを接待するために宴の準備をしているのであれば、閣下はイェデレンに沿って航行するにはまずまずの天気だと思われているとお見受けします。」とハルドール・ブリニュルヴソンが答えた。
それからオーラヴ王は出帆を命じ、その日、彼らはイェデレンを抜けた。その夕方にはフヴィティングセイに到着して上陸し、王はホルダランドへ宴に向かったのである。
(02.04.01)
オーラヴ王の命を受けて1隻の船がファレイ諸島に向かった。その命とは親衛隊のレイフ・アッスルソン、「法律家の」ギッリ、ティムンのトラルヴの呼び出しであった。先の事件もあって、島々の人々は呼び出しの理由をあれやこれやと相談した。そしてトラルヴが呼び出しに応じ、商船に10(12)名の家来達をのせ良風を待っていた。ある晴れた日、トランドはエステレイのガタのトランドの館の一室に入っていった。長椅子には甥のシグルドとトルドと親族の「赤の」カウトが寝ていた。トランドの養い子達は皆、勇敢であった。シグルドは最年長で決定権を持っていた。トルドは「卑怯な」トルドと呼ばれていたが、背は高く勇敢で力持ちであった。
「すっかり世の中かわっちまった。わしの若い頃は晴れた日に若者が家でごろごろとなんざしていなかった。船小屋にある商船は古くてタールの下の木材は腐っているだろうよ。羊毛は倉庫に一杯あるってのに売りにもいかん。わしが若い頃はこんなことはなかったぞ。」とトランドがぶつくさ言った。
シグルドは飛び起きてガウトとトルドを呼び、トランドにばかにされたことに頭がきていた。彼らはフスカールを呼び、船を水上に押し出した。彼らは船に荷物を積み込んだ。船上には10(12)名の者達が乗っていた。彼らとトラルヴは同じように出帆し、互いの船が見える範囲で航行した。ある夕方にヘルマルに上陸した。両船はそう遠くないところに停泊した。暗くなってトラルヴが床の準備をしていたところ、トラルヴともう1人のものが利用できそうな陸地を見つけて上陸した。そして彼らが再び船に戻ろうとしたところ、トラルヴの頭に一枚の布が被せられた。付き添っていた者は持ち上げられて連れ去られた。大きな音がしたかと思うと海の中に投げ込まれた。どうにかこうにか岸まで泳ぎ着き、トラルヴと別れた場所に向かった。そこでトラルヴの無惨な姿を発見した。彼は両肩に引き裂かれていた。彼の家来達はその亡骸を船に運んだ。その時、オーラヴ王はレイラグで接待を受けており、この事が王に報告された。矢の命とシングの命が伝えられ、行われた。ファレイ諸島の者達が呼び出された。
「この様な事が起こり痛感の極みだ。彼は優秀な戦士であった。その損失は大きい。何か言いたいことがあるか。誰も口をひらかんようだな。恐らくシグルド・トラックソンが殺害したんだろう。「法律家の」トルドがもう1人の者を海中に投げ入れたんだろう。私の今までの疑念は全てお前達に向けられておる。どうだ。」と王が言った。
「何も話すことなどありません。王が私に好意的でないのは百も承知。我々が彼に敵対していたとお思われのようですが、私が大切なトラルヴにそんなことをしますでしょうか。よければ鉄の試練を試してみますが。」とシグルド・トラックソンが答えた。
そして鉄の試練を受けさせることが取り決められた。次の日にレイグラに行き、そこで司教がその試練を執行するというものであった。この後に王はレイグラに戻った。シグルドとその家来達は船に戻った。
「どうやら我らは大きな問題に直面しているようだ。王はずるく不誠実だ。きっと王がトラルヴを殺害したんだろう。そしてその罪を私に着せようとしている。そして鉄の試練が決まったが、それを王が誤用する可能性も捨てられない。帆を揚げて出帆しよう。風が我らを後押している。トランドはまた夏に羊毛を売りにこれるだろう。だが私はノルウェイの地は2度と踏まぬ。」とシグルドが家来達に言った。
彼らはファレイ諸島に向かった。トランドの旅は不幸なものであった。彼らは彼に上手く説明できなかったが、彼らは同じや肩で過ごしていた。
オーラヴ王はシグルドとその家来達が立ち去った事を聞き知った。オーラヴ王はそのことについてあまり口にしなかったが全てを理解していたようであった。王は出発し、宴の接待を受けに行った。オーラヴ王はアイスランド出身の者達と会合するために招集した。トロッド・スノッラソン、ゲッリ・ソルケルソン、ステイン・スキャフタソン、エギル・ハッルソンが呼び出しを受けた。
「お前達はこの夏にアイスランドに戻るのだろう。ゲッリ、お前が我が使命を引き受けるのであればアイスランドに戻らせてやってもいいが、引き受けないというのであれば誰の帰郷も認めん。」と王が言った。
彼らは引き受けざるを得ないと心得た。その夏にゲッリがアイスランドに戻った。彼は次の夏のシングで公表する法を携えていた。それはアイスランド人がノルウェイで制定された法を受け入れ、罰金(王の臣民の殺害の補償)と人頭税である。手織1エルにつき10の税金。これに同意するものには保証を与え、逆らう者には罰則をもって厳しくあたるとの旨である。この事態に人々は頭を悩ませたが、結局は王に従わないことで一致した。その夏にゲッリは秋にヴィクの東で会うことになっていた王のいるノルウェイに戻った。それはガウトランドから彼が出てきた時の事である。秋が過ぎ、オーラヴ王はトロンヘイム、ニダロスに向かうために軍隊を引き連れて出帆した。そこには冬を越すための館が用意されていた。冬も終わり、オーラヴ王はカウパングに滞在した。それは彼の13年目の統治である。
トロンヘイムのスパラブのヤールのアヌンドの息子のケティル・ヤムーテという者がいた。彼はエイステン・イッルラーデ王のせいで東のキェルに逃げていた。彼は森を開墾してイェムートランドという地に住んでいた。エイステイン王がトロンド人に税を課し、サウルという王の犬を王として玉座に座らせたので、その圧政に耐えられずトロンヘイムから多くの人々がそこから東に逃げ去ったのである。ケテルの孫はヘルシング人のトーレであった。彼が定住したヘルシングランドは彼にちなんで名付けられた。そしてハーラル美髪王の統治時にもトロンド人、ナウマダーレ人といった者達がその地から逃げ去り、イェムートランドの東で新たな生活を始めたのである。何人かのこれらの者達が海岸に沿ってヘルシングランドに行き、スウェーデン王に従っていた。そしてアセルスタンの養い子のハーコンがノルウェイ王であった当時は平和で、トロンヘイムとイェムートランドで交易が行われていた。王が友好的であったのでイェムートランド人達は王と慕い、忠義を約束し、スコット税を支払った。王は彼らの土地の権利を約束した。彼らは元々、ノルウェイの民であるがゆえスウェーデン王に従うよりはノルウェイ王に従いたいと欲していたのである。ヘルシング人達の家系は、山々が続きその様がまるで船をひっくりかえしたようであるのでケェル(キール、竜骨)と呼ばれる辺境の地で国境の地の北部の出で、彼らは「大きな」オーラヴとスウェーデン王オーラヴが国境を争うまでそこに長らく安住していたのである。それからイェムート人達とヘルシング人達はスウェーデン王に従い、エイダスコッグが東の国境で、後にフィンマルクを控えるケェルが国境となったのである。スウェーデン王はそれからヘルシンゲランドと同様にイェムートランドからスコット税を徴収していた。しかしオーラヴ王がスウェーデン王に協定させたことにより、イェムートランドのスコット税はノルウェイの取り分としようとしたが、イェムートランド人達は長らくスウェーデン王にスコット税を支払い、州長官はスウェーデン王が派遣していた。いくら身内でもこれらの事は問題となり、オーラヴ王はイェムートランド人にノルウェイに従うように要求したが、彼らはスウェーデン王への忠義を示していたのである。
(02.04.02)
トロッド・スノッラソンとステイン・スキャフタソンは助言できなかったことを悔やんだ。ステイン・スキャフタソンは男前で、武勇に優れ、詩の腕前も大したもので、伊達男であった。父のスカフティはオーラヴ王に詩を作り、息子に王に伝えるためにそれを教えた。ある日のこと、ステイン・スキャフタソンは王に訊ねた。
「閣下、我が父が作りし歌をお聞きになりますか。」
「まずお前が私のために作詩し、歌うのが筋だろう。」とオーラヴ王が言った。
「残念ならが私は詩人ではございません。私めが閣下のためにお歌をおつくりしてもそれはなんの価値もございません。」とステインが答えた。
ステインはそう言って立ち上がった。その時、王のそばにオルケダーレの王のガルズの家令のトルゲイルがいた。トルゲイルはしばらく経ってから家路についた。ある晩のこと、ステインが靴下人を連れてガルズから走り出た。彼らはガウララスを越えてオルケダーレに向かった。ある夕方に彼らはトルゲイルの王のガルズに到着した。トルゲイルは宿を提供し、旅の目的を訊ねた。その時、穀物が馬ゾリで運び込まれていた。そして彼はステインに馬とソリを連れてくるように言った。
「貴殿の旅の目的、王の許可があるのかないのか私には判らぬ。先日、貴殿と王は不仲に思えたが。」とトルゲイルが言った。
「たとえ私が王の目前で明確な答えを出すことができぬとしても、奴隷のようなことはせぬ。」と彼は言い剣を鞘から抜いて奴隷の家令を殺害した。ステインは馬を手にして下人に背に乗るように命じ、自分はソリに座った。それからすぐにガルズを後にして夜通し進んでメーレのシルナダーレに到着した。その後に彼らはフィヨルドを船で越えたのである。彼らは王の家来であると言っていたのでどこででも援助が得られた。ある日の夕方に彼らはトルベルグ・アルネソンのギスケの農場に到着した。トルベルグは留守だったが妻のエルリング・スキャルグソンの娘のラグンヒルドがおり、習知の中であったので彼らは大歓迎されたのである。昔、ステインが自身の船でアイスランドからやって来た時にギスケ近くで上陸した。その時、ラグンヒルドは身重で陣痛に苦しんでいたのだが、その島には司祭もいなかった。それから家の者達が彼らの船にやって来て、司祭がいるかどうか訊ねた。西フィヨルド出身のバルドという司祭がいたものの、彼は修行中の身であった。家の者達は司祭に家に来るように頼んだが、修行中の身を案じて断った。その時、ステインが司祭に行くように言った。
「もし貴殿が着いてきてくれるのであれば、よき助言を私は受けることができ、安心できます。」と見習い司祭が言った。
ステインはすぐにラグンヒルドのいる農場に向かった。しばらくして彼女は1人の弱々しい女の子を出産した。そして司祭が赤子に洗礼を施し、ステインが聖水盤の上で赤子を抱えた。その子にはソーラという名前が与えられた。ステインは赤子に黄金のリングを与えた。ラグンヒルドは彼に感謝し、いつか恩返しをしたいと申し出た。その後に彼は立ち去ったのである。今度は彼の方が助けを求めてきた。彼女は夫のトルベルグに会うように言った。彼女は彼に12才の息子のエイステン・オッレの隣に席を勧めた。トルベルグは彼のいままでの旅の話を聞いたが、快く思わなかった。
「王は家令トルゲイル殺害の件で戦のシングを呼びかけ、ステインは追放、王は激怒していると聞いておる。お前さんを受け入れると私の身が危うくなる。」とトルベルグが言った。
「お共しますわ。」とラグンヒルドが申し出た。
「もし貴女が私について来たとしてもすぐに引き返すことになる。」
「僕もお母さんが行くのであれば、お供します。」と息子のエイステン・オッレが言った。
トルベルグは彼女達がかたくなになっているので折れて言った。
「やれやれお前は頑固なおっかさんにそっくりだ。私の言葉なんぞ耳に入らぬかもしれんが、一つだけ言っておく。オーラヴ王を軽く見ぬ事だ。」
「もしステインをここで匿うのがいやだというのであれば、あなたが父のエルリングのところへ彼を連れて行くか、彼に従者を与えてちょうだい。」とラグンヒルドが言った。
トルベルグは首を振って言った。
「エルリングに迷惑をかけるわけにいかん。」
それからステインは冬の間そこで過ごした。ユールの後に王からトルベルグに中レントの王のもとにくるように命じられた。トルベルグは友人に相談した。皆はステインを送り出して、その後に王に謁見するように言った。しかしトルベルグは一刻も早く王を訊ねたいと望んだ。少ししてトルベルグは兄弟のフィンを訊ねて、同行するように頼んだ。
「お前さんが嫁の言葉に従って王に背くそいうのであれば、女の風上にもおけぬやつだな。王に逆らってもしょうがあるまい。」と彼は言った。
彼らは怒りのまま別れた。それからトルベルグが兄弟のアルネ・アルネソンを訊ねて助言を頼んだ。
「お前は賢明な男ではなかったか。なぜあえて王に逆らおうとする。もしお前が身内や乳兄弟のために王に背くのであればまだしも、どこの馬の骨かわからん外国人のアイスランド人のために背くとは愚か者のすることだ。」とアルネが言った。
「「どの家族にも1人のはみだし者がいる」のことわざがある。息子達を授かっても家族に似ず、活躍しないやつを最後に生み出した父は不幸なんだろうよ。母を侮辱していると思わんのだろうよ。お前らが兄弟だということが悲しいよ。」とトルベルグが言った。
その後に彼はぷんぷんしながら家に戻った。この後に兄弟のカルヴのいるトロンヘイムに便りを出し、彼に会いに来るように伝えた。そして使者達がカルヴを訪れた時、彼はアグデネス行きを約束した。ラグンヒルドは父のエルリングのいるイェデレンに家来達を送り出した。そしてエルリングの息子達のシグルドとトーレがやって来た。彼らそれぞれは20漕手席のある船に90人の家来を乗せてやってきた。トルベルグは感謝感激で旅支度を整え、彼の20漕手席のある船で共に北に舳先を向けたのである。彼らがトロンヘイムのミンネに到着した時、トルベルグの兄弟のフィンとアルネは2艘の20漕手席のある船を停泊させた。トルベルグは友情をもって兄弟達を歓迎した。それから彼らはトロンヘイムに全軍を向かわせた。ステインは彼らと共にその旅路にいた。そしてアグデネスに到着した時、カルヴ・アルネソンは碇を下ろした。この軍団を引き連れてニダルホルムに向かい、翌朝に会合を行った。カルヴとエルリングの息子達は軍隊を引き連れて入町した。しかしトルベルグは騒動を起こす事を案じ、同意の上でフィンとアルネの両者がわずかな家来だけを連れてオーラヴ王に謁見することになった。王はそれからこの軍団のことを聞き知り、いささか不機嫌であった。フィンはトルベルグとステインの件を許してもらうように申し出た。彼は王に補償をする代わりにトルベルグの所有地の権利、借地権の承諾、彼の身の安全を申し出た。
「ずいぶんと大胆なことを言う。大軍隊で私を脅すのか。補償など信用できんわ。」と王が言った。
「軍隊は王に不穏を与えるために連れてきたのではありません。むしろ我らは奉公したいと思っております。もし閣下がこれを拒み、トルベルグを罰するというのであれば、我らは「強者の」クヌートに奉公を申し出るしかありません。」とフィンが言った。
「もしお前達が王の許しなしに行動せず、信頼のおける事をするのであればお前達兄弟と折り合いをつけようではないか。」と王が言った。
それからフィンは兄弟のもとに行き、結果を報告した。
「結果はこうだ。しかしお前さんが最終的な判断を下すんだな。」
「私の土地から離れる気もなければ、外国の王に仕える気もない。我が運命はオーラヴ王と共にある。」とトルベルグが言った。
「王に誓う気はないが、私の身の安全と財産の保証のある限り王を友としておこう。そしてだ、私の望みはお前達全てがそうすることだが。」とカルヴが言った。
「もしトルベルグ、お前が王に刃を向けるというのであれば、お前と共に行動しよう。お前とフィンに従い、お前とは運命を共にするつもりだ。」
その後にトルベルグ、フィン、アルネの3兄弟は船に乗り込んで、町に向かって漕ぎだして、王に会いに言った。そして彼らは王に誓いを立てた。トルベルグはステインのために王と折り合いをつけた。その後にそれぞれの道を進んだ。カルヴはエッゲに、フィンは王のもとに、トルベルグとその家来達は南の屋敷に戻った。ステインはエルリングの息子達と共に南に向かい、早春にイングランドに向かった。彼は「強者の」クヌートのもとに身を寄せた。
フィン・アルネソンがオーラヴ王のもとで短い滞在をしていた時のある日、会合が行われた。
「この事を皆に話すのは初めてだ。この春に私は全土から軍隊を招集し、ノルウェイを要求する「強者の」クヌートと戦う。フィン・アルネソン、お前達は北のハロガランドに行くのだ。そして兵を集め、船を集め。アグデネスで私と合流するのだ。」と王が決意して言った。
それから使者達がせわしなく全土を駆け抜けた。フィンは30名の家来を乗せて船をハロガランドに向けた。それから彼は農民達とシングを開催して王の言葉を伝えた。この地では農民達はとても豊かで大きな船を所有しており、すぐさま準備を整えた。そしてフィンはハロガランド中をどんどんと進んで行き、シングを開催した。「犬の」トーレのいるビャルケイに家来達を送り出して王の言葉を伝えた。彼はすぐさま準備を整え、昨夏にビャルマランドで手に入れた船にフスカール達を乗せて出帆した。フィンはヴァガルで北の全ホルダランド人を招集した。それは大軍隊になった。「犬の」トーレもそこで合流した。フィンが到着した時に全戦士でもってフスシングを開催し、武器の確認、点呼が行われ、スキプレーデ法に従って船の数、戦士の数が数えられた。
「「犬の」トーレよ、王の親衛隊のカッリの殺害、レングジュヴィクの北で王の所有物を盗んだ事へどう王へ報いるのだ。王はこの一件を私にお任せになった。お前の意志がすぐに知りたい。」
トーレは回りを見回した。完全武装した戦士達に囲まれていた。そして彼はグンステインとたくさんのカッリの身内がいることに気がついた。
「悪くなると思えんな。お前に一任する。」とトーレが言った。
「お前にとっていは辛いだろうが、お前が大人しくしているのであれば折り合いをつけよう。王に黄金10マルクの罰金を支払うのだ。グンステインとその家族に10マルク、強盗した物に対して10マルクだ。すぐに支払うのだ」とフィンが答えた。
「これはまた大罰金ですな。」とトーレが言った。
「これがいやだというのであれば、この話はなかったことにする。」とフィンが強くでた。
「やれやれ、少し時間をくれんか。友人達に借金をお願いせねばならぬ。」とトーレがいった。
「時間稼ぎは認めん。すぐに支払え。そしてお前はカッリの首飾りを盗んだだろう。それも返すのだ。」とフィンが言った。
「首飾りぃ。知らんなぁ。」とトーレがとぼけた。
「カッリは確かに首飾りをしていた。我々がカッリの亡骸を見つけた時にはそれは無かった。やつと最後に別れた時には首に着けていたんだ。」とグンステインが前に躍りでて言った。
「そうだなぁ、もし我々のうちの誰かがそれを手に入れていたとすればビャルケイの屋敷にあるんだろう、多分なぁ。」とトーレが再びとぼけた。
ししてフィンはトーレの胸ぐらを掴み、槍を押し当てて言った。
「なんなら私がお前の胸ぐらから首飾りを引き出してやろうか。」
トーレは仕方なく首から首飾りを取ってフィンへ引き渡した。それからトーレは船に戻り、フィンもたくさんの家来達を引き連れて行った。フィンは船上を熊のようにうろうろしていた。船は家来達で溢れていた。そして帆柱の根本に奇妙な2つの大樽がおいてあるのを見おろした。
「あの中には何が入っている。」とフィンが訊ねた。
「なにを訊ねたかと思うと。酒樽には酒が入っているのに決まっておろう。」とトーレが言った。
「なえお前はこれほどたくさんの酒を持っていながら振る舞わぬのだ。」とフィンが言った。
それからトーレは家来の1人に大樽から鉢に酒を入れるように命じた。それをフィンが飲んだ。美酒であった。それからフィンはトーレに支払いを命じた。トーレは船首から船尾に歩いて行き、あっちこっちで話しかけた。
「何をしている。さっさとしろ。」とフィンがせかした。
「岸で待っててくれんか。」とトーレが言った。
そしてトーレはフィン達が待つ岸に行き、支払った。一つの袋からおおよそ10マルクが出てきた。それから彼はたくさんの財布を出してきた。それらのいくつかにはおおよそ1マルクが入っており、それ以外のものにもおよそ半マルクか数エレ(1マルク=8エレ)が入っていた。
「私は今は手持ちがない。これは借金したものだ。これでおしまいだ。」とトーレが言った。
そして彼はあっちこっちの船に乗り込んできては借金をして少しづつ支払っていった。その日も暮れ、シングが終わると人々は船で出ていった。ほとんどの船が立ち去ると、フィンも出発の準備を整えた。
「トーレよ、お前の支払いとはなんとゆっくりだ。そして王への賠償はまだだぞ。」とフィンが言った。
「もう遅い。誰に借金しろというのだ。私には支払う意志がある。王にとってもお前さんにとっても悪いようにはせん。」とトーレが言った。
それからフィンは船に戻って出帆した。トーレが碇を引き上げさせるのが遅くなり、帆が張られた時には彼らは西フィヨルドを航行し、そこから海に出て陸沿いに南下した。彼はイングランドに到着するまで船に波を切らせた。そしてイングランドに到着した。それからクヌート王に謁見して大歓迎を受けた。そしてトーレはカッリと共にビャルマランドで手に入れた品々を船に隠していたので彼は大金持ちであった。大樽は2重構造になっており、その中にビーバー、黒貂の毛皮がいっぱい詰め込まれていた。彼は自らの財産を減らすことなくノルウェイをまんまと脱出したのである。それからトーレはクヌート王のもとに身を寄せ、それに対しフィン・アルネソンはオーラヴ王のもとにいた。オーラヴ王は全てを理解し、トーレがいまや「強者の」クヌートと共にあることを確信した。
「やつは我らに大いなる恥を行いました。」
「いや、よかったかもしれん。やつをそばに置いておくよりは遠く離れた場所においていた方が賢明だ。」とオーラヴ王が言った。
アスムンド・グランケルソンはその冬は父のグランケルと共にハロガランドで過ごしていた。岸にはアザラシや海鳥がたくさんいて、魚にもこと欠かず、農場は自ら所有するものであった。しかしティョッタのハレクは数年間、違法にこれらの漁場で獲物を捕っていた。アスムンドは合法的に解決しようと王に助けを求めた。その春に親子はハレクを訊ねて王のしるしを見せて漁場を荒らさないように言った。これにハレクは激怒した。
「真の所有者はわしだ。アスムンド、たとえ王の助けがあったとしてもだ、お前には手に余る場所だ。お前は私よりずっと家柄が悪いんだぞ。」とハレクが言った。
「たとえハレク、お前が家柄がいいとしても、度を過ぎている。ここで無法を働くよりは新天地を求めた方がよかろう。」とアスムンドが答えた。
それから親子は立ち去った。ハレクは大きな漁船で10(12)名のフスカールを送り出して、漁場を荒らしまくった。その時、アスムンド・グランケルソンが30人の家来をつれてやってきた。捕獲物を引き渡すように言ったが、ハレクのフスカールの反応は鈍かった。数名のハレクのフスカールは攻撃を受けて負傷し、ある者は海に投げ出された。そして捕獲物はアスムンドとその家来達が運んでいった。この報告を受けたハレクは激怒して、アスムンドに仕返しすることを決心した。その春にハレクは20漕手席のある船にフスカールを乗せてオーラヴ王に謁見しに行った。その場にアスムンド・グランケルソンもいたのである。それから王はアスムンドとハレクを交えて会合を行い、グランケルに漁業権が与えられた。
いつも監視下に置かれていたトロッド・スノッラソンは不満がつのる一方であった。彼は飼い殺しにされているぐらいなら危険なイェムートランドに行く方がましだと思い希望した。トロッドは11名の仲間を引き連れて出た。まず彼らはイェムートランドの法律家のトラルを訪問した。そして賢明なる彼にその使命を伝えた。彼はシングを開催する必要があると助言し、それが行われた。トラルはシングに向かったが、王の使者達は彼の館に留まった。彼はシングで事の次第を語ったが、誰もノルウェイ王にスコット税を支払う気はないと言った。過激な者達は使者達を吊し上げて供犠にすべきだと言ったが、スウェーデン王の州長官が来るまで保留にすべきだと同意された。トロッドはトラルの館でもう1人の使者と共に過ごして、ユールの宴の接待を受けていた。その村にはたくさんの農夫がおり、彼らもそこにいたのであった。少し離れた場所に有力者トラルの義兄弟が住んでいた。身内同志互いにユールの期間中、お互いの屋敷を訪問して接待を受けたり、行ったりしていた。まずトラルの屋敷で行われた。トロッドは農夫の息子達と酒を酌み交わした。ノルウェイ人、スウェーデン人と無礼講に飲まれていた。
「ノルウェイ王がこれ以上の民衆の首を取れば、スウェーデン王の州長官はユール後に12人の命に見合うだけのものを鶏に繰るでしょう。」と農夫の息子が言った。
トロッドはその言葉に引っかかったが、ほとんどが失笑した。次の日、トロッドと従者達が服と武器を身につけた。次の晩の草木も眠る丑三つ時に彼らは森に入りった。翌朝、イエムートランド人達が彼らの逃亡を知り、ブラッドハウンドに跡を追わせた。犬はふんふんと彼らをかぎつけたので彼らは囚われ、小屋の中に連れて行かれた。その中には深い穴が掘られており、そこに突き落とされた。そしてユール祭も半ばに達した頃、トラルと彼の仲間達がトラルの義兄弟を訪れて、接待を受けていた。トラルの奴隷達は使者達を見張っていた。彼らはすでに泥酔していた。トロッドは歌を歌って奴隷達をからかった。奴隷達は穴の中を確認するために蝋燭に火をともした。すると穴の中にいたはずの者達がすっかり消えていたのである。皆、酒をくらいいい気分になっていたのですっかり油断しきっていたのである。トロッドともう1人がマントを帯状に切り裂いて結わえて綱を作った。片側に輪を作って床に放り投げると椅子の足にからみついてぴんと張った。トロッドの肩を使って1人の男がはいあがった。回りを見回すと綱はたくさんあった。それを柱を利用してつるべを作り、トロッドを持つあげた。小屋にはひづめのついたトナカイの皮がおいてあった。そこからひづめを切り落として靴の下に後ろ前に縛り付けた。そして彼らは小屋に火を付けて闇にまぎれて逃げた。その火はまたまくまに大火となった。トロッドともう1人の男は夜通し駆け続けた。次の朝、農場から追っ手が放たれた。道という道にはブラッドハウンドを連れた者が彼らを捜索した。ブラッドハウンドはトナカイの足跡をふんふんと追ったが、彼らがひずめを後ろ前につけていたため、全く逆方向に犬は向かってしまい、結局農場に帰ってきた。まんまと犬をだましたのである。そして犬達の集中力も無くなってどの犬も跡を追うことはしなかった。トロッドともう1人の男はどんどんと駆け抜けて夕方に小さな農場にたどり着いた。一組の男女がいろりのそばに座っていた。男はトーレと名乗り、女を妻だと言った。彼は別宅を持っているので、彼らにそこに宿を提供した。
「うちには人をあやめてしもた者がいる。それでこうやって隠れて生活しておる。」とその男がいった。
トロッドと従者はいろりのそばで食事を取り、長椅子で寝ようとしていたが、いろりの火はまだくすぶっていた。その時、トロッドは他の建物に出入りする1人の男を目にした。それは今まで見たこともないように大男であったが、黄金のベルトで留められた緋色の服を身につけていた。その姿は畏怖堂々としていた。
「ばかか、蓄えもないのに、客人を泊めてどうする。」とその男が咎めた。
「兄さん、怒らないで。めったにないでしょう。こんなことは兄さんの方がすべきじゃないの。」と主婦が言った。
トロッドは話の内容から、その男がアルンリョットという名で、追い剥ぎで大罪人であることが判った。しかしトロッドは疲れていたので、そのまま寝てしまった。夜がこれからいよいよ更けようという頃にアルンリョットがやってきて、彼らに出ていくように言った。トロッドともう1人の男は身支度を整えて朝食を取った。それからトーレは彼らそれぞれにスキーを与えた。そしてスキーを着けたアルンリョットか彼らの先を行った。彼は振り返ると彼のスキーの跡についてくるように言った。トロッドは彼の横に立ってアルンリョットのベルトを握り、トロッドの従者は彼を掴んだ。アルンリョットの滑りは力強く1人で滑っているかのようであった。夕暮れに晩御飯の仕度をしている路肩の家にたどり着き、そこで食事を取った。
「骨やかすを地面に捨てるなよ。」とアルンリョットが言った。
アルンリョットは下着の下から銀製の鉢を取り出してその中に食べ物を入れた。食事が終わると残り物を隠した。彼らは横になるために準備をした。その家の片側には屋根裏があり、そこに3人が上って横になった。アルンリョットは黄金で象眼された軸受けのある大きな槍を手にしていた。彼の腰には剣が着けられていた。
「静かにしていろ。」とアルンリョットが言った。
少しして12人の男達が家の中に入ってきた。彼らはイェムートランドに向かう商人であった。商人達は家の中で暖をとって食事をして騒いでいた。彼らは行儀悪く食事をして、骨やかすを地面に落としていた。そして食事も終わるといろりのそばの長椅子に横になった。彼らが深い眠りにつくのにそうたいした時間は必要ではなかった。しばらくすると大きな女妖魔が家の中に入ってきた。妖魔は骨やかすを食べて口にどんどん入れた。そして近くにいた商人をつかんだと思うと引き裂き火中に投じた。もの音に気付き他の者達が飛び起きた。しかし妖魔は次々と引き裂いて殺していき、残すはあと1人となった。彼は屋根裏に気付き、そこに誰かいないかと叫んだ。アルンリョットは体を半分ぶら下げてその男を両手でむんずと掴んだかと思うと屋根裏に引き上げた。妖魔の気は獲物に向けられており、焼き上がった人間を食らい続けた。アルンリョットは立ち上がって槍を握ったかと思うと背中から旨を貫いた。妖魔は咆哮し、外に飛び出た。アルンリョットの手から槍が離れたので妖魔は槍を引き抜いた。アルンリョットは出て行き、死体を片づけた。妖魔は扉を壊しながら出ていったので、それも建て直した。彼らは再び眠りについた。朝の朝食時にアルンリョットが言った。
「ここでお別れだ。お前達は昨日の商人達がつけた馬ゾリの跡を辿って人里に行け。俺は槍を探しに行く。それとこいつらの商品は全て俺が貰うぞ、いいな。トロッド、オーラヴ王に会ったら伝えてくれ。王に一度会ってみたいと。だが、俺は王の歓待などちっともうれしくないがな。」とトロッドは言って、胸元から銀の鉢を取り出して、布で磨くと彼らに与えた。
「ほら、これを王に渡せ。これが俺の王への挨拶だ。」
それから彼らは別々の道を進んだ。トロッドと連れ合いはとぼとぼと商人達が来た道を進んでゆき、交易の町にいるオーラヴ王のもとへたどり着いた。彼は旅の全てを語った。王は会いに来なかったアルンリョットを非難する一方、トロッドの苦労をねぎらった。その冬は彼は王のもとで身を寄せていたが、夏に彼は待望のアイスランドに戻ることができた。彼は王と親友として友好的に別れたのである。
その春にオーラヴ王はニダロスを後にする準備を整えた。徴兵も万端でたくさんの戦士が集結していた。準備が整うと南のメーレに向かい、また徴兵し、ラウムスダーレにも行った。王は家来達と合流するために長らくヘレイ諸島で待っていた。たびたび様々な事柄が報告され、フスシングが開催された。
「ファレイ諸島の民はスコット税を差し出すといったのに、いまだに何も出さぬ。再度、スコット税徴収に彼かをだそう。誰ぞこの大役を買ってみんか。」と王が言った。
しかし誰も勘弁して欲しいと言った。そうしていると体躯も立派な血の気の多い男が立ち上がった。彼は赤のキルトを着けて兜を被り、手に大きな槍を持ち、腰に剣をぶら下げていた。
「いまここに様々な部族がいる。あんたはいい王さんかもしれんが、部下は大したことないのう。こやつらはあんたからたくさんのお宝を貰っているんじゃないのか。それなのにこの腰抜けどもは。俺はあんたの友ではない。しかし敵は同じだ。のう王さんよ、よければ俺がその大役を買ってやろうか。」とその者が大胆に言った。
「ほう、お前は随分な自信家のようだな。ここにいる腰抜けどもとは大きな違いだ。だがお前は誰だ。初めて見る顔だ。」と王が言った。
「ならばお答えしましょう。すでにご承知だと思いますが、我が名はカール・「メーリ州人の」。」と彼は答えた。
「なるほどその名は聞いたことがある。カール、こちらへ来い。お前は今日の我が客人となるのだ。さらにこの事について語り合おうじゃないか。」と王が言った。
カール・「メーリ州人の」はヴァイキング行為を行い、大盗賊であった。王は彼の首を取ろうと追手を出したが無駄であった。彼の血筋はよく、大胆で武勇に優れていた。王は今までの罪を水に流し、友情を示した。旅の仕度が整うと彼は船に20人の仲間を乗せた。王はレイフ・アッスルソンと「法律家の」ギッリ、ファレイ諸島の者達にカールの援助をするように言い、王はそのしるしを送り出した。カールは準備が整うとすぐさま出発した。彼らはファレイ諸島最大の島のストレメイ島のトルスハヴンあたりに停泊した。シングが行われ、大軍隊を引き連れてガタのトランドがやってきた。レイフとギッリも大軍隊を連れてやって来た。天幕を設置した時、彼らはカール・「メーリ州人の」に会いに行った。カールはオーラヴ王の言葉としるしを明らかにした。彼らは援助を約束した。少ししてトランドがやってきて援助を約束した。この冬の宿の提供を申し出た。しかしカールはレイフのもとへ行く約束をしていると言った。しかしトランドは再度それを申し出た。カールはもしトランドが東部の島々、北部の島々のスコット税を集めてくれれば、それは大いに役に立つと答えた。トランドはその約束をした。こうしてシングは終了した。カールはレイフ・アッスルソンの接待を受けに行き、冬を過ごした。レイフはストレメイと南部でスコット税を徴収した。次の春にトランドは病に陥り、両目に痛みを訴えた。しかし彼はいつものようにシングに行く準備をした。彼はシングで天幕を張ってその中に入ると、内側に黒い布を張っていたので光がほとんど届かなかった。そしてシングが数日過ぎた時に、レイフとカールはたくさんの従者を連れてトランドの天幕に向かい、トランドに外に出てくるように言ったが、目が痛く外に出れないと答えた。レイフは天幕の中に入った。彼は従者達に人混みに近づきすぎないよう用心を呼びかけた。まずレイフが入り、次にカールとその従者達が入った。緊張がほとばしった。レイフはさらに黒い布を押し上げて奥に進んだ。彼は中にいたトランドに北部のスコット税を徴収したかどうか訊ねた。トランドはレイフに銀がいっぱい詰め込まれた袋を渡した。レイフは光の届くところまでそれを持ってゆき、盾の上にそれご流し込んだ。
「どう思う。」とカールが言った。
「北部の粗悪な銀貨にしかみえんが。」とレイフが答えた。
トランドはそれを聞いて言った。
「レイフ、お前にはこれが粗悪なものというのか。」
その通りだとレイフが答えた。
「わしの一族はうそつきばかりじゃ。わしがこの春に彼らを送りだした。正当な税を受け取る代わりにこんなものを受け取ってきおった。彼らはきっと賄賂を貰っているはずだ。」とトランドが嘆いた。
レイフはこの袋を持って入り、これ以外の袋を持って出てカールに渡した。この袋の金も調べたところ、やはり粗悪な金であった。しかしこれ以外の支払いはないのでこれで十分であると言った。しかし彼は王には提出できないとも言った。そしてそれらの事柄を長椅子に横になって見ていた1人の男が頭に被ってきた皮のマントを投げて言った。
「やれやれとんだ狸じじいだ。」と言った。
それは「赤の」ガウトであった。トランドはガウトの言葉に怒りを露にした。
「この春、わしの小作人が納めたものだ。これは当てになるだろう。」と長椅子に横になっていた人が肘を立てて上半身をあげて言った。それは「低い」トルドであった。
「これ以上は舌もでんよ。」とも言った。
レイフはその袋を手にとってカールに渡した。それは今までの中で一番いい代物であった。そして彼らは計量のために人をよこすと言った。天幕からやや離れたところでカールは兜を取って計量の済んだ銀を入れた。彼らは1人の男が通り過ぎるのを見た。片手に槍斧を持ち、片手に帽子を持ち、緑のマントを着けていた。彼は裸足で、足の回りに紐でしばりつけたズボンを掃いていた。彼は槍斧を地面に突き刺して言葉を吐いて立ち去った。
「カール・「メーリ州人の」、なぁに、これはお前さんに怪我させるもんじゃないさ。」
しばらくすると1人の男が走り込んできた。レイフ・アッスルソンに向かって叫んだ。
「「法律家の」ギッリに天幕に向かってくれ。シグルド・トラックソンが襲いかかり、誰かを殺害した。」
レイフと彼の家来達は急いでギッリに会いに向かった。しかしカールは座ったままで、彼の回りにはノルウェイ人が立っていた。「赤の」ガウトは切り込んできた。手斧を振り回した。しかしカールの傷は致命的ではなかった。「低い」トルドは地面に突き刺さっていた槍斧を手にして攻撃した。彼は斧を打ちつけたので、それはカールの脳天に落ちていった。時同じくして群衆はトランドの天幕に走り込んできた。トランドはこの行為に不快感を覚え、身内の者達に賠償を命じた。レイフとギッリは殺人の事例を持ち出して、罰金は受け取られなかった。シグルドはギッリの天幕にいた者を負傷させたので追放された。ノルウェイ人達は王のもとへ報告に戻った。王は激怒したのだが、今ノルウェイが置かれている状況を思慮してトランドや彼の血族達への血讐は不可能であると理解した。そしてついにオーラヴ王のフェロー諸島からのスコット税徴収の野望は費えたのである。しかし後にカール・「メーリ州人の」殺害の一件でフェロー諸島で大波乱があるのも事実である。
オーラヴ王は軍隊を引き連れて徴兵していた話に戻そう。「太鼓腹振りの」エイナルに北部の地主達は従った。彼がその地に腰を据え、王に従わなくなって以来、彼は平穏に過ごしていた。エイナルは王の借地権を持っていなかった。オーラヴ王はスタッド付近へと船で軍隊を引き連れて出帆した。それからオーラヴ王は先の冬に用意していた大船「野牛」号を受け取った。舳先は黄金で鍍金された野牛の首がついていた。そして王は南のホルダランドに向かい、エルリング・スキャルグソンが4、5艘に軍隊を満杯して出帆したことを知った。エルリングは大きな船を所有し、息子達は20漕手席の3艘の軍船を所有していた。彼らの目指すはイングランドのクヌート王であった。オーラヴ王も東に向かい軍隊を大きくしていった。しかし勇敢な戦士達はじっと待機しておくことをよしとせずデンマークにこちらから攻撃しにいこうと持ち出した。オーラヴ王は優秀な戦士を選び抜き、残りは古里に戻る許しを与えた。その選抜された軍隊にはほとんどの地主が含まれていた。
オーラヴ王がユトランド半島に達し、そこで略奪をし始めた。そしてアヌンド王は同じ頃、武力をかき集め、スカニアに沿って大軍で進み、略奪をしていた。アヌンド王は義兄弟オーラヴ王と合流するまで進んだ。今やデンマークは彼らの手に落ちた。
西方イングランドではクヌート王がオーラヴ王がノルウェイを出たことをしるやいなや、軍隊をデンマークへ向かわす用意を始め、同時にデンマークの民が恐怖に打ちひしがれていることを知ったのである。ヤールのハーコンは第二軍隊の指揮官であった。この夏にスカルドのシグヴァットはベルグという男とヴァッランドのロウェンからイングランドに向かった。そしてイングランドに到着するとすぐさまクヌート王に謁見し、ノルウェイ行きの許可を要求した。しかしクヌート王は軍隊の準備が整うまであらゆる交易船の出入りを禁じた。シグヴァットはもう一度、許可をもらうためにクヌート王を訊ねた。しかしクヌート王の部屋の扉は固く閉ざされていたが、謁見を許され、その時、クヌート王の決心を知り、どれほどの軍隊が集まり、どれほどの軍船が集結しているかを知った。
「強者の」クヌートの船は60漕手席のある黄金で飾られた船首を持つ巨船であった。ヤールのハーコンの船は40漕手席で金鍍金の施された船首のある船であった。両船の帆は青と赤と緑の縞模様であった。船は喫水面以上の側面に色が塗られ、索具は一級品であった。両者の持つ私軍の船もまた大きく装備万端のものであった。今や舳先はデンマークに向けられ、1艘たりとも傷つくことなくリムフィヨルドに停泊した。そしてそこでも戦士達が彼らに合流するために来たのである。
その前の夏の事である。すでにご承知のようにヤールのウルフ・スプラカッレグソンはクヌートがイングランドに向かった時、デンマークを守るために任命された。また彼はクヌートの息子のハルデクヌートの養父でもある。そして出発の時、ヤールはクヌート王にハルデクヌートをデンマークの王とするように頼んだ。
「デンマークに王不在という事実はデーンの民の気が休まりません。」とヤールは言った。
クヌート王は承諾し、王が後押ししていることを示す言葉としるしを彼に与えた。そして有力者達もこれに協力し、ハルデクヌートがデンマーク王として宣言するシングを開催した。この計画を遂行したのはエンマ女王(ノルマンディ公リチャード2世の姉妹)であった。彼女まんまと王の手紙としるしを手に王に気付かれることなく入れたのである。
そして話は戻る。ヤールのウルフはノルウェイ軍の報告を受けた。すぐさま戦の矢を放ち、軍隊を集結させた。しかしスウェーデン軍のことも報告を受けた。デンマークには両軍に対する力はないと判ると、軍隊を待機させ両軍を偵察させた。全軍はリムフィヨルドで待機し、クヌート王の到着を待った。彼らはエンマ女王に使者を送り出した。彼女は息子のハルデクヌートに夫のクヌート王を撃破させようと企んでいた。しかし息子の不甲斐なさを知った。大クヌートのデンマーク出兵を知ったデーンの民は大クヌートに協力したいと願った。今やヤールとハルデクヌートには2つの選択しかなかった。大クヌート王の権力かに敷かれるか、逃げ去るかである。しかし相談を受けた首領達はハルデクヌートに大クヌートの支配下に身を置くことを勧めた。彼はその言葉に従った。クヌート王が到着し、息子が会いに行った。クヌート王は息子の手を取って彼が以前に座っていた玉座に彼を導いた。ヤールのウルフは王に息子のスヴェンを預けた。句う゛ぇんはクヌート王の姉妹の息子であった。スヴェンは父の身の安全を保証してもらう代わりに自身が人質となって親衛隊を勤めると言った。スヴェンとハルデクヌートは同じ年であった。そしてヤールとクヌート王に折り合いがついたのである。
オーラヴ王とアヌンド王はクヌート王の軍隊の規模と進む方向を知った。彼らはスカニアに沿って航行して略奪をしていた。しかしその地の民達がクヌート王の存在を知ると誰もこれらの王達に手助けをしようとする者はいなかった。それから彼らは聖川を航行し、しばらくそこで待機した。そしてクヌート王がこちらに向かってくるとの報告を受けるとオーラヴ王が数名の家来達と共に森を抜けて聖川を源流とする水辺に行くことが決められた。そこに彼らは大きなダムを作り水の流れを止めた。その上に横に大きな堀を掘って水をたくさん集めて激しい流れにした。その一方で川床には木を沈めたのである。これを数日間に渡って実行した。クヌート王はデンマークの損失を知った。彼は聖川に向かった。クヌート王の軍隊はいまやノルウェイ・スウェーデン連合軍の2倍の数になっていた。
ある日の太陽が沈みかけた頃、アヌンド王の偵察隊がクヌート王の船の帆を見つけた。アヌンド王は戦の笛を吹き鳴らした。それから天幕は取り払われ臨戦態勢が取られた。船を集結させた。オーラヴ王のもとへこの事を伝えるために使者が送り出された。オーラヴ王はダムを打ち壊してもとの流れに川の水を流した。その晩に彼は船に戻った。クヌート王は港の外にまでやって来ていた。しかし船々はばらばらで海の外にまで広がっておりヴァイキング特有の海戦の陣を整える余裕はその日には残されていなかった。そしてノルウェイ・スウェーデン連合軍は港から移動して停泊書を譲った。その停泊所にデンマーク軍はおし進んだ。次の日の朝、彼らは余裕があったのでのんきに上陸して浮かれていた。そして聖川の上流でしかけれれた事が彼らに襲いかかった。激流が川床に沈められた木々を突撃させた。その水の量たるや牧草地まで覆い尽くすほどのものであった。陸で浮かれていた者達を始め、木材が激突した船上にいた者達は皆水中に消えた。なんとか難を逃れた船はつなぎ止めていた綱を切り落として、再び向かい合った。クヌート王がいた「龍」号は流されていた。その流れはなまはんかなものではなく櫂で方向を帰ることは容易くなかったので、その船はアヌンド王とオーラヴ王の方に向かって押し流されたのである。そして両王がクヌート王の船を認識すると、その回りを取り囲んだ。しかし容易く攻撃できなかった。船は城のように強化され、舷牆が高く、完全武装の精鋭隊がいたからであった。しかもヤールのウルフが合流するのに大した時間は必要とされなかった。戦が始まると、四方八方からクヌート軍が押し寄せた。そしてノルウェイ・スウェーデン連合軍は現在できる限り戦った後に、デンマーク軍を引き離した。そうして艦隊が離れていった。この戦はクヌート王の予定外のことであったのでこれ以上の深入りはせず、追跡は行われなかった。そして連合軍はデンマーク軍が追跡してこないことを知ると帆柱を立てて帆を張った。
連合軍は岸に沿って航行した。夕方に彼らはバルヴィクで上陸して夜を過ごした。そしてその時、スウェーデン人達がふるさとに帰ることを望んでいた。夜の内にスウェーデンの故郷に戻った者も多くいた。アヌンド王はこれを知ってフスシングを開催した。
「この夏デンマークを襲撃して様々な物を手に入れた。私は350(420)艘の艦隊を持っていたが、今は100(120)艘を残すのみとなった。これ以上の勝利はない。たとえオーラヴ、貴殿がこの夏に持っていた60艘を保持していてもだ。この冬を過ごすために貴殿は私と共に行くがよい。歓迎と接待をいたす。春にまた考えればよかろう。もし貴殿がノルウェイに戻りたいというのであれば、スウェーデンを抜けて陸路で向かえばよい。」とアヌンド王が言った。
オーラヴ王はその好意的な申し出に感謝した。
「しかし私の考えは違う。残った軍隊を解散せずにおくことだ。私は60艘の船で来たが、350艘の船がある。そして残された貴殿の兵と船は最良の状態で優秀な者達ばかりだ。クヌート王の艦隊の数は聖川に停留し続けるのには多すぎる。必ず我らを追ってくる。そして我らはユトランドとスカニアの両方を荒らした。デンマーク軍の中にも家に戻って様子を見たいという者も少なくないはずだ。デンマーク軍も離散する。デンマーク軍を省察するために使者を送り出すことを提案する。」とオーラヴが言った。
聖川で停泊中のクヌート王は連合軍が東に向かった事を知った。偵察隊を陸路で送り出した。クヌート王のもとには毎日報告が運び込まれた。そして軍隊が解散していないことを知ると、ユトランドに戻った。全軍は海峡に配した。ミカエル祭の前日にクヌート王はヤールのウルフの招待を受けてロスキレに軍隊を連れて馬で行った。ヤールは王のごきげんを取ろうとしたが、王の機嫌は直らず、むすっとしていた。ヤールは王に将棋を持ちかけた。王は受けた。王の駒運びは悪く、ヤールが王のナイトを取った。王は待ったをかけたがヤールは怒って板を投げつけた。そして立ち去った。
「逃げ足だけは早いな「臆病者の」ウルフ。」と王が言った。
ヤールのウルフは頭もよく武勇に優れ、自身のサガを持つほどの男である。王に次ぐ舷力社で姉妹はヤールのグディネ・ウルヴナドソン(ウェセックスのゴドウィン伯。ハロルド・ゴドウィンソンの父)と結婚したギューダである。その子供は後のハーラル苛烈王のサガの中で大活躍するイングランドの誉れハロルド王、トスティ卿、ヴァルトュヴ卿(ワルセオフ卿)、ヤールのスヴェン、イングランド王の「善人の」ヤトヴァルド(エドワード懺悔王)の妻のギューダである。そんな侮辱に黙っている筈もない。
「スウェーデン軍にやられて王がキャンキャン鳴いていたところへ私が駆けつけた時、「臆病者の」ウルフとは言わなかったんじゃなかったか。」とヤールは言ってから寝床に向かった。
次の日、王が身支度を整えていた時に王が靴奴隷に言った。
「ヤールのウルフを殺害してこい。」
使用人はすぐに向かったが、しばらくして戻ってきた。
「できませんでした。ヤールは聖ルーク教会にいました。」と使用人が言った。
そこにはノルウェイ出身の親衛隊の一員の「白の」イヴォルが王の館で寝ていた。
「ヤールの首を取ってこい。」と王が命じた。
イヴォルは教会に向かって聖歌隊の中に押し入ってヤールを剣で突き刺した。血塗られた剣を手にして主のもとへ戻った。
「たった今、ヤールは絶命しました。」と言った。
王はその報告に満足し、船に向かい、秋は軍隊と共に過ごしたのである。
オーラヴ王とアヌンド王はクヌート王が軍隊と共に停泊していることを聞き知った時、彼らはフスシングを行った。オーラヴ王はクヌート王と戦うことを勧めようとした。しかしスウェーデン人達はふるさとに帰ることを希望した。海が凍ることもあるこの海のことを熟知するスウェーデン人達はここにこれ以上とどまりなくなかったからであった。こうしてノルウェイ軍はここに留まることになったが、アヌンド王率いるスウェーデン軍はくにに帰っていったのである。
オーラヴ王はしばしば話し合いの場を持った。ある晩にエギル・ハッルソンと西ガウトランド出身のトヴィ・ヴァルガウトソンと王の船の番をしていた。彼らは座って見張りをしていた。捕虜は夜の間は岸で拘束されていた。捕虜達がいるところからすすりなきや嘆きがいつも起こっていた。トヴィはその声を聞きたくないので、エギルに綱を解いて捕虜を逃がすように言った。彼らは綱を切って逃がした。このことは王の怒りに触れた。そしてその御、エギルが病の床についた時、たくさんの者達が見舞いに行った。王は回りの者達からしつこく言われたのでやっと随分と経ってから見舞いにいったのであった。色々あったが王は彼を許した。そしてここからが聖オーラヴたる所以の事柄、オーラヴ王は患部に両手を当てて祈りを捧げるとまたたく間に痛みが消えてゆき、彼は全快したのである。その後にトヴィも王と折り合いをつけに来た。オーラヴ王は父を寄こすことを求めた。父のヴァルガウトはいまだ熱狂的に古き神々を信奉していたが、王の言葉でキリスト教徒になり洗礼が施された後にすぐに亡くなったのである。
オーラヴ王が度々行った会合では話はまとまりがなかった。そうしている間にもクヌート王の偵察者はいつも彼らの軍隊の中にうろうろして、クヌート王の代わりに友情と贈り物をした。こうしてたくさんの者達が買収されたのである。クヌート王はだれかれ隔たりなくこういった事を行ったのである。
オーラヴ王は度々話し合いを持ったが、様々な意見が出て、とうとう彼は疑念を抱くまでになってしまった。多くの者達はノルウェイに帰ることを希望していた。彼らはたとえ武力の数が違えどもデンマーク軍は襲ってこないいだろうといった。それは昔オーラヴ・トリュグヴァッソンがわずかな軍隊で行動していた時、デンマーク軍は恐れて攻撃しなかったからであった。しかしデンマーク軍にたくさんのノルウェイ人がいたのも事実である。王はノルウェイ行きを勧める者達は実はクヌート王に買収されているのではないかとの疑念を抱いた。それから奥ガウトランドを抜けてノルウェイに陸路で戻ることが決められた。運べない戦利品である荷物はスウェーデン王に預けるために送り出されたのである。
ティヨッタのハレクはオーラヴ王の演説に答えていった。年老いているために陸路で行くことは無理であると言ったが。王は共に行くことを望み、歩けぬのであればおんぶしてでも連れて行くと言った。しかしハレクは船の面倒を見ると言った。オーラヴ王は仕度を整え、荷馬に大切なものを乗せた。そして東のカルマルに船を運ぶ者達が出発した。ハレクは良風を待ってスカニアを越えてホラネに到着するまで航行した。そして夕方に背後から強風が吹きつけた。帆柱、風見を取って灰色の天幕で喫水線から上の船全体を覆った。船首と船尾では舵と櫂が取られたがほとんどの家来達は低い天井の下でうずくまっていた。クヌート王の見張り部隊がこの船を見つけた。彼らはほとんど漕いでいない事から潮か鰊を運んでいるのだろうと判断した。船は灰色でタールが塗られており、その太陽がつけたあぶくが水中に没しているのをみて、重い荷物を運んでいることが知れたのである。しかしハレクがクヌート軍を通り過ぎて入江に入った途端、帆柱を立てて帆をあげ、金鍍金した風見を設置したのであった。帆は真っ白な地に赤と青の縞模様があった。そしてクヌート軍はそれを見てそこにはオーラヴ王が間違いなくいると判断した。
「違うな。オーラヴ王がたった1艘でこのデンマーク軍の中を抜けて行くほど馬鹿ではない。恐らくティヨッタのハレクか、同等の者だ。」とクヌート王が言った。
そしてクヌート王の家来達はクヌート王とハレクの間には折り合いがついていた事に気がついたのである。後にクヌート王とハレクの友情はよく知られた事実となった。ハレクはティョッタの自身の農場にたどり着くまでハロガランドへ進んでいったのである。
オーラヴ王は旅を続けた。まずスマランドを抜け、西ガウトランド、ヴィク、サルプスボルグにたどり着くまでどんどん進んだ。そこで冬を越す準備をした。王は軍隊に帰郷の許しを与えた。そして彼が望んだ地主達はそばにまだいたのである。その中にはたくさんの栄誉を受けたアルネ・アルモドソンの息子達がいた。
スカルドのシグヴァットは長らくオーラヴ王のそばにいたので、王からたくさんの栄光を受け元帥の称号を得た。スカルドのシグヴァットはヴァッランドの交易の旅路についており、その旅でイングランドに向かい、「強者の」クヌートにノルウェイ行きの許しを受けたのは前述の通りである。そして彼がノルウェイに到着するとすぐにボルグのオーラヴ王を訪ねた。シグヴァットは王に挨拶したが王は口を開かなかった。オーラヴ王はシグヴァットがクヌート王と接触していたことを知っていたのである。
「お前は我が元帥か。はたまたクヌートの家来なのか。」とオーラヴ王が言った。
この後にシグヴァットはクヌート王をたたえしも自らの王は今まででたった1人と歌い上げた。それからオーラヴ王はシグヴァットに以前の彼の席に戻るように言ったのである。
エルリング・スキャルグソンの息子達はヤールのハーコンの従者としてその夏、クヌート王の軍隊の中にいた。「犬の」トーレもそこにいた。クヌート王はオーラヴ王がノルウェイに陸路で到着したことを聞き知ると、騎馬隊を解散して暇を許した。いまやデンマークには強力な外国人部隊があった。イングランド人、ノルウェイ人、それ以外の国々から集ってきた。その秋にエルリング・スキャルグソンはノルウェイに家来を連れて向かった。別れの時に彼はクヌート王から様々なものを頂いた。クヌート王の使者がエルリングと共にノルウェイに向かい、彼らは高価な品々を携えていた。クヌート王の家来達は約束通りお金を支払って友情を得たのである。そしてこの事はオーラヴ王の聞き知ることになった。
オーラヴ王は大ユール祭をして、たくさんの家来達を招待していた。7日目に王は数名の者達を連れていった。シグヴァットはその時、王のそばにいた。彼らは王の財宝が隠された館に行き、8日目に友情の贈り物として与えるために集めたのである。館の中に数本の黄金で飾られた剣があった。その内1本を王はシグヴァットに与えた。柄は黄金の帯で施されていた。しかしこの贈り物は嫉妬も生んだのである。ユール後すぐにオーラヴ王はオプランドに向かった。なぜならそこから地税がこなかったからである。そしてその北の動向も気になりオプランド中を進んだ。そしてその地に到着した時、地主達や豪農達は王の接待を買って出た。
ビョルンというガウト人がおり、彼は友人でアストリド女王の知人で、遠戚でもあった。彼女は彼に家令職を与え、奥ヘデマルク州の首領職を与えた。彼はまた東ダーレの支配権もいくつか所有していた。王はビョルンからも、農夫達からもなにも受け取っていなかった。たくさんの牛と豚がビョルンの管区の町でいなくなった。そしてビョルンはシングを行って、泥棒を探した。彼はこのような悪巧みをしそうな人里離れた場所に住む者達を呼び出した。こうして東ダーレに住んでいた者達が責められた。彼らの住むところは広い土地などなく森を開墾したり水辺に住んだりとひっそりしたものであった。
その中にはラウドという男がいた。彼は東ダーレに住み、妻はラグンヒルドで、息子はシグルドとダグであった。彼らはダーレ人の代表として出席し、その事実を否定した。彼はは畏怖堂々としており、着衣や武器に乱れはなかった。そしてシングは終わった。少ししてオーラヴ王は「家令の」ビョルンを訪ねた。シングでの出来事について王に愚痴をこぼし、ラウドの息子達が怪しいと言ったのである。それゆえラウドの息子達が呼び出された。王の前に来た彼らは堂々としており、とても泥棒には見えなかった。そして自由にされたのである。彼らは王に客人として3日間もてなすので父を訪ねてくるように言った。ビョルンは押し止めたが王はその招待を受けたのである。ラウドの宴は最高のもので、王はラウドと妻のことを訪ねた。ラウドはスウェーデン人で、豊かで家柄も良いと聞いた。
「しかし私は妻と共にスウェーデンの地を飛び出したのである。彼女はリング・ダグソン王のきょうだいです。」と彼が言った。
それから王は夫婦の家柄を知った。そして父と息子達の優秀さを知り、彼らの偉業について訪ねた。シグルドは夢占いができ、太陽を見ることなしに時が判ると言った。王はこの事を確かめたがその通りであった。ダグは人を見て善行と悪行を見抜くことができるといった。それから王は自らの悪行を訪ねてみた。ダグはは王は善行だと言った。それから王はビョルンについて訪ねた。ダグはビョルンが泥棒で、彼はビョルンはこの秋に盗んだ家畜の残骸を彼の農場に隠していると言った。ダグはその場所を教えたのである。そして王はラウドの屋敷を後にした。王は彼からたくさんの贈り物を受け取った。ラウドの息子達は王に付き従った。王はまずビョルンを訪ね、ダグが言った事を証明した。その後に王はビョルンを追放し、女王に免じて身体は傷つけなかったのである。
「卵の」エルヴィルの息子でカルヴ・アルネソンの養い子で、「犬の」トーレの姉妹の息子のトーレは容姿もよく背丈も高く、力強かった。彼は18歳でいい家庭を築き富とヘデマルクの領土を手に入れていた。彼はよき友で州の領主になる期待が持たれていた。彼は王に接待を申し出た。王はそれを受けてトーレの屋敷を訪ねた。金のかかった宴で素晴らしいものであった。トーレの館、館の装飾、食卓の飾り、飲み物、そして主人は今までに見たこともないほど優秀なものだと皆が認めたのであった。王とタグはしがしば話をした。王は過去や未来を見通す彼の言葉を重んじたからである。彼はトーレがどれほど高貴な者か訊ねた。ダグはほとんど言葉を発しなかったが、王が言ったことは全て正しいと言った。それから王はトーレの心の中の欠点を訊ねた。
「閣下、もし彼の過失を見つけたれば、私が復讐をしてよろしいでしょうか。」とダグが答えた。
王は彼に他人を裁く権利はないと言った。
「閣下の意に従いましょう。私は彼の中に欲深さを見いだしました。」
「では彼は盗人か泥棒か。」と王が訊ねた。
「違います。彼は王の反逆者です。彼は閣下のお命を頂戴するために「強者の」クヌートに買収されました。」とダグが言った。
「どうやってお前はそれを証明するのだ。」と王が訊ねた。
「彼の腕に分厚い黄金の環が巻き付いております。彼は今までそれを誰にも見せたことはないのですが、それはクヌート王が彼に与えしもの。」とダグが答えた。
この話で王は起こっていた。トーレは給仕の動きを仕切っていた。王はトーレを呼び寄せた。彼はテーブルにつき、その上に両手を置いた。
「トーレ、お前はいくつだ。」と王が訊ねた。
「18歳です。」と答えた。
「トーレ、お前は若いのに偉い。」と王が言った。
それから王は彼の右腕を掴んで、上へとさすりあげた。
「それ以上は勘弁して下さい。私の腕には腫瘍がありますので。」と彼が言った。
王は彼の腕を掴み、固い部分に手を下ろした。
「私はヒルだという事を聞いたことがないか。どれ腫瘍を見せて見ろ。」と王が言った。
トーレはこれ以上隠しだてはできないと判り、黄金の環を見せた。王はこれはクヌート王から貰ったものかどうかを訊ねた。王はトーレを捕らえて鎖でつないだ。そしてカルヴがやってきて、トーレの罪の賠償金を支払った。たくさんの者達がその申し出を受けるように勧め、その上に彼らも品々を差し出したのである。王は誰も自身に同意しないことに腹を立てた。それから王はトーレを殺害した。しかしこの事はオプランドとトーレの身内のいたトロンヘイム北部の両方から反感を買ったのである。カルヴはトーレが幼少の頃の養い子であったので、この死を非常に悲しんだのである。
エルヴィルの息子でソーリの兄のグリョートガルズは勇敢で、自身の従者もいた。彼もまたこの時、ヘデマルクにいた。彼はソーリの死を知った。彼は王の家来達を見つけるとどこででも攻撃した。その一方で彼は森や身を隠せる場所で隠れていた。王がこの事をしるとグリョートガルズを追わせた。グリョートガルズは王のいる場所からそう遠くないところで隠れていた。すぐその晩にオーラヴ王は出発して夜が明ける頃にグリョートガルズが身を隠していた建物を取り囲んだ。武器ががちゃつく音でグリョートガルズとその仲間達が目を覚まして武器を手にした。グリョートガルズはポーチに躍り出て、誰が指揮官か訊ねた。そして王が指揮していることを知ると、王と話ができないかどうか訊ねた。王は扉の前に立った。グリョートガルズは和平を申し出た。彼は盾で頭を守りながら引き抜いた剣を手にしていた。薄暗くはっきりとは見えなかった。彼は王に攻撃しようとしたがそれはアルンビョルン・アルネソンに突き刺さった。その一撃はブリニャ鎧の下まで達し、アルンビョルンは絶命した。グリョートガルズもすぐに殺害された。彼の家来達も殺害され、この後に王は戻り、再びヴィクに向かった。
そしてオーラヴ王はツンスベルグに到着した。王は徴兵を行った。たくさんの戦士が集ったが、遠くから足を運んだのはわずかであった。その領土の者達は王に背いていたことが知れた。オーラヴ王は前の冬に残してきた船と戦利品を取りに行くために東のガウトランドへ家来達を送り出した。しかしクヌート王がその春にデンマーク中から徴兵し、1200(1440)艘以上を手に入れており、秋以上にデンマークの海峡を進むことに危険があったので、ゆっくりと慎重に航行したのである。
「強者の」クヌートは大軍隊を引き連れてノルウェイに進軍し、征服するとの話が聞かれた。そしてこの話は習知となり、ノルウェイではオーラヴ王に力する農民達はほとんどオーラヴ王に力を貸さなかった。オーラヴ王は新鋭達と友に会合を行い、フスシングを度々行った。
同じ春にハロガランドのティョッタのハレクはアスムンド・グランケルソンが強盗してフスカールに打たれたという事柄を思い出した。ハレクが所有する20漕手席の船が農場の前の水面に浮かんでいた。彼は南のトロンヘイムに向かおうとしていた。ある夕方にハレクは80名のフスカール達と船に乗り込んだ。夜通し漕いで朝方にグランケルの農場に到着して屋敷をぐるりと取り囲んだ。そして屋敷に火を付けてグランケルとその家来達を焼死させた。数名の者達は屋外で殺害され、30人全てが命を落とした。この後にハレクは屋敷に戻った。それからアスムンドはオーラヴ王と共にいた。そしてハロガランドにいた者達はこの行いに対してハレクから誰も賠償金を要求せず、彼の支払わなかった。
「強者の」クヌートは軍隊を引き出してリムフィヨルドに向かった。そして準備が整うとそこからノルウェイに向けて出帆した。その旅は迅速に押し進められ、フォルドを横切る時以外は停泊しなかった。アグデル付近に停泊し、そこでシングを行った。農夫達が集い、クヌート王とシングを行った。彼はその時、全土を納める王として認められたのである。その州にクヌート王は家来を置いて農夫達から人質を取った。オーラヴ王はその時、ツンスベルグにいた。クヌートは陸沿いに北上した。ノルウェイの民はクヌート王のもとへ集い、彼を王として認めた。クヌート王はエイクンダスンド何度か停泊した。そこにたくさんの者達を引き連れたエルリング・スキャルグソンがやってきた。彼とクヌート王は友情を新たに結んだのである。クヌート王は彼にスタッドとリギャルビッドの間にある領土の統治を認めた。クヌート王はさらに北上してニダロスに入港した。トロンヘイムでグラシングを開催し、そのシングでクヌート王は全ノルウェイの王として認められたのである。「犬の」ソーリはデンマークからクヌート王に従ってきており、ティョッタのハレクもそこにいた。彼とソーリはクヌート王の地主となり誓いを結んだ。クヌート王は彼らにたくさんの借地権、フィン人との交易権を与えた。この上に彼らにたくさんの贈り物をしたのであった。クヌート王はノルウェイの有力者達に以前よりも多くの富と権利を持たせたのである。
いまやノルウェイの王になったクヌート王はシングを開催した。それからこの度に手に入れた全土の支配を血族のヤールのハーコンに与えると宣言した。そして彼は息子のハルデクヌートを彼のそばの高座に座らせ、デンマーク王国の王の称号を与えた。クヌート王はこれら全ての地主と豪農達から人質を取った。ヤールのハーコンがノルウェイ王国を手にしてすぐに彼の身内の「太鼓腹振り」エイナルが友人になった。彼は以前の着地を手に入れたのである。ヤールはエイナルの身の安全と権利を保証した。ノルウェイのヤールに次ぐ最高権力者で、ヤールが不在の時にはエイナルや息子のエインドリティがヤールの要職につくことが約束された。
オーラヴ王が船を求めて東のガウトランドに送り出された家来達は適当な船を取ってきたが、残りの不適当なものは焼かれたのである。彼らはクヌート王がノルウェイを北に進んでいることを知った時に、出帆した。彼らは海峡を抜けて西に航行し、ヴィクのオーラヴ王のもとへ向かった。その時、王はツンスベルグにいた。そしてオーラヴ王がクヌート王の北上を知るとオスロフィヨルドに向かい、ドゥラヴンにたどり着き、クヌート王の軍隊が南に来るまで待機した。そしてその間にクヌート王は全州でシングを行った。全てのシングで王の地位を確かめ、人質を差し出させた。こうしてクヌート王は戦わずしてノルウェイ全土を手中に納めたのである。
クヌート王がデンマークに向かった事を知るとオーラヴ王はすぐにツンスベルグに数隻の船で向かった。その時13艘の船を抱えていた。その後にヴィクに向かい、わずかな品物とわずかな家来であるが手に入れた。人里離れた島や岬に住んでいた者達だけが彼に従ったのである。彼はこの領土は従わないと判った。そして風の如くに進んでいった。これは冬の始まりの頃であった。彼らは良風を待ってセル諸島に非常に長い間に待機していた。そしてこの時、商人達から情報を得た。エルリング・スキャルグソンがイェデレンに軍隊を集結させていたのである。そこには小舟や釣り船や貨物船があった。王は軍隊を連れて出帆し、エイクンダスンドに停泊した。それから両軍は互いに相手の存在を知ったのである。それからエルリングはできるだけたくさんの民衆を集めた。
ユール(1028年12月21日)の前のトマス・ミサの夜明けに王は港を後にした。多少きついが良風が吹いていた。王はイェデレンを抜けて北上した。天気は時折、霧が漂い、空気は湿っていた。イェデレン中に王の出航が知られた。エルリングはその事を知り、戦の準備をした。しかし王の船の行動は早く、イェデレンを過ぎて北上した。フィヨルドに入り、入り用があったので内水路に方向を転じた。エルリングはたくさんの家来を引き連れて王の後を追った。そして武器以外の積み荷はなかったので、快調に飛ばして行った。エルリングのロングシップは船足が早く、彼は帆を畳んで家来達を待った。オーラヴ王の船は重く、夏から冬まで甲良干しされていなかったので木はたっぷりと水を吸って状態は悪かった。オーラヴ王はエルリングが順調に飛ばしてくるのを見つけた。しかし武力の差を感じとった。そして王はゆっくりと帆を畳むように船から船へ伝達させた。エルリングと家来達はそれに気付き、帆を下ろさせてどんどんと快調に飛ばした。
オーラヴ王はボーケンの中に向かい、彼らは互いの軍を見やることはできなかった。王は帆を下げて細い入江に漕ぎ入るように命じた。そして彼らは待機した。その外側は岩の岬であった。エルリングは入江に入り、王軍の船が漕いでくるのを目にするまでそこに待機していた艦隊に気がつかなかった。エルリングは帆を落として家来達に武器を取らせた。王軍はその回りを取り囲み、戦が始まった。激戦で、エルリングの家来達がたくさん殺害された。エルリングは頭に兜を着けて体を盾で覆い、剣を手にして後部に立っていた。エルリングの家来達は戦いが始まってすぐに倒れ出し、オーラヴ王の家来達が船に乗り込んだ時にはもはや総崩れであった。王もまた激しく前進した。今やエルリング軍はエルリングを残すのみとなった。オーラヴ王はエルリングを船尾に連れて行き、彼に話しかけた。
「エルリング、本日お前は我らに刃を向けた。」
「激戦でしたな。」とエルリングが答えた。
「お前は我が手にかかるか。」と王が言った。
「そうしましょう。」と彼は言い、兜を取って剣と盾を下に置いて、船首の方に向かって歩いていった。王はエルリングの頬に斧の尖端を突き刺して言った。
「これは王の反逆者の印なり。」
この後にアスラク・フィッティャスカッリが突然走り出して、エルリングの首に斧をたたきつけた。その羽は脳まで深く突き刺さった。こうしてエルリングは絶命した。それからオーラヴ王はアスラクに言った。
「この一撃のせいでお前は不運を受けることになるだろう。お前は私の手からノルウェイを引き離す気か。」
「閣下がこの攻撃で損害を受けたというのであればそれは不運であります。閣下の両手の中にノルウェイを突き出したと感じましたが。閣下はこの行為には私に感謝しないので私は何も手にできないでしょう。しかしこの事で私には敵意が向けられますゆえ閣下のお力沿いが必要です。」
王はその言葉に同意し、全ての者達に船に戻るように命じた。戦死者から物を盗むのも禁止した。できるだけ早く仕度を整えさせた。船は農夫の軍隊に向かって入江の中に入り込んでいった。そして農夫達は指揮官を失って戦意を喪失ていた。エルリングの息子達は誰もそこにいず、農夫達の攻撃もなかった。王は航路を北に取り、農夫達はエルリングの亡骸を運んで、整えて、ソーラに運ばれた。エルリング・スキャルグソンは称号を持たなかった者達の中でノルウェイにおいて最も高貴で、最も権力ある者であった。
エルリングの息子達の数名はヤールのハーコンと共にトロンヘイムにおり、ある者はホルダランド、ある者はフィヨルドにいた。彼らはそれぞれ兵を集めた。そしてエルリングの死が伝えられた時、アグデル、ロガランド、ホルダランドから兵が集結しているとも報告を受けた。集結した軍隊はオーラヴ王を見つけだすために北上した。オーラヴ王は戦いの後、海峡を抜けて北に向かった。それから陸沿いを北上した。彼は農夫達が集結していることの事の次第を知った。この時、たくさんの地主とアルネの息子達がいた。オーラヴ王はスタッドの北に到着するまで進み、ヘレイ諸島で停泊し、そこでヤールのハーコンがトロンヘイムに軍隊と共にいる事を知った。それから王は仲間に相談した。カルヴ・アルネソンはたとえ戦力が劣っていてもトロンヘイムを要求し、ヤールのハーコンと戦う事を強く促した。多くの者達は賛成したが、数名の者達は反対した。その判断は王に仰がれたのである。
オーラヴ王がステイナヴァグを航行し、その晩はそこで停泊した。アスラク・フィティャスカッリがボルグンドを航行しており、そこに停泊し、ヴィグレイク・アレネソンはそこにいた。その朝にアスラクが船に向かう時に、ヴィグレイクが彼に攻撃してエルリングの仇を討った。それから家来達がフレキョイスンドから王を訪ねてきた。彼らは夏の間、王の親衛隊であった。彼らは王にヤールのハーコンと彼のそばにいる地主達が代軍隊でフレキョイスンドに向かったと知った。そしてヤールは王の首を取ろうとしている事も知った。王は見晴らしのいい山に家来を送り出して、彼らは大軍が南下しているのを王に報告した。王はそこに12艘の船で待機していた。それから合図がなされ、天幕が取り外され、櫂を手にした。彼らが停泊所を出た時、農夫達の軍隊はティョタンデを過ぎて、25艘の船で南下していた。そして王はナルヴェ、フンドスヴェルを航行し、ボルグンドにたどり着いた。その時、アスラクが王に向かわせていた船もあった。彼らはオーラヴ王を見つけた時、ヴィグレイク・アルネソンがエルリング・スキャルグソンの仇討ちでアスラク・フィティャスカッリの首を取ったと言った。王はこれらの話を忌まわしく思ったが、歩みを止めることもできず、スコートを越えてヴェグスンドを通り抜けた。彼の家来の数名は王と別れた。カルヴ・アルネソンと多くの地主達と舵取りは王と別れて、ヤールに会うために出帆した。しかしオーラヴ王は旅を続けてトダルフィヨルドに向かい、ヴァッルダーレに船を停めた。そこでは船は5艘になっていた。彼はそれらの船を引き上げた。それから彼はスルト島の素晴らしい牧草地に天幕を張って、十字架を立てた。そこにはメールのブルースという農夫が住んでいた。彼はその谷の首領であった。ブルースと多くの農夫達はオーラヴ王を迎えに行って歓迎した。そして王は彼らにレイスヤルに向かって谷を抜けられるかどうか訪ねた。ブルースはセヴスルドという谷に峡谷があると言った。
「人も馬もそこは越えられません。」
「だが我らは越えなくてはならぬ。神の意のままに。明日、お前と馬でここに来てくれ。そして我らに付き従い、軍馬と兵が越える策を考えてくれ。」と王が言った。
次の日、農夫達は馬の背に荷物を縛り付けた。兵と王は歩いた。そして王はクロッスブレッカという場所まで歩いて行き、崖っぷちにたどり着いた時に休憩を取った。王はフィヨルドを見おろして言った。
「地主達は私を裏切り、彼らに厳しい旅を強いた。」
王が座った崖っぷちに2本の十字架が後にに立てられたという話である。それから王は馬に乗り、谷に沿って進んで行き、峡谷にたどり着いた。それから王はブルースに小屋かなにか休める場所があるかどうか訊ねた。彼はそれがあると答えた。王は天幕を張って夜の間はその中にいた。そして朝に王は峡谷を越えるように命じた。荷車が行くことができるかどうかためさせた。家来達はそれを試みた。しかし夕方に王の親衛隊と農夫達が戻ってきた時に、どこにも行けなかったと報告した。彼らは越える手だてはないと言った。彼らはもう一晩、そこに留まった。王は一晩中祈っていた。そして日が昇ると家来達を峡谷に送り出した。彼らは渋々行って何もできいだろうと報告した。そして彼らが立ち去った後に給仕が2枚の牛肉以外もう何もないと伝えた。
「400名の親衛隊と100名の農夫がいます。」と給仕が言った。
王は用意してあった釜に蓋を明けてそれぞれの釜に肉片を入れさせた。王が近寄り、釜の上に十字を切った。彼らに食事の用意をさせた。その後に王は制覇しなくてはならないセヴスルドに向かった。そして王が到着すると家来達は疲れて全員が座り込んでいた。
「閣下は認めたくないでしょうが、ここを越えることなんて不可能です。」とブルースが言った。
それから王はケープを外して、再び行動するように命じられた。それが行われた。目前には大きな岩があり、100人の力でもってもびくともしなかったのだが、20名の者達が動かしたのである。どうしても動かなかった岩が今や取り払われ、日が昇りきるまでに道は開かれたのであった。そしてその地は平原となんらかわることなく馬も人も通行できるようになった。王は再び給仕が食事の用意をしている場所に戻った。そこは現在は「オーラヴの岩」と呼ばれている。洞窟近くに泉があり、王はそこで体を洗った。後にこの谷で家畜が病気になった時、この水を飲ませればたちまち直る泉になったのである。あら不思議、王の奇跡はまだ続き、家来達は皆食事にありつくことができたのである。
「ブルース、今宵を過ごす小屋があるか。」と王が訊ねた。
「グレニンゲルという小屋があるにはあるのですが、そこには妖魔がきます。」とブルースが言った。
その後に王はそこで今宵過ごすと言った。それから給仕が王に近づいた。
「そこにはたくさんの食糧があります。しかしそれがどこから来たものか判らないのです。」と給仕が言った。
王はこの幸運に神に感謝した。それから王は谷を下って行った農夫達の食糧の必要があった。王はその晩はその小屋で過ごした。彼が横になっていた真夜中に背筋も凍る恐ろしいうなり声が聞こえた。
「オーラヴ王の祈りが炎となって襲いかかってくる。わが家にはいれやしない。この乳搾り場を去るとするか。」と妖魔が言い立ち去った。
そして朝になり、王は出て行き、ブルースに言った。
「ここに農場を作るがよい。ここに住む農夫達に代々継がせるのだ。たとえ吹雪きが厳しくたたきつけようとも決して作物は凍ることはないだろう。」と王が言った。
その後にオーラヴ王は山を越えて、エインブに向かった。ヤールのスヴェンがこの国に来た冬も含めてオーラヴ王は15年間ノルウェイの王であった。
オーラヴ王はレイシャルで夜を明かし、その後も家来達と来る日も来る日も進み、グドブランドダーレ、ヘデマルクに向かった。王に不信感を抱く者はどんどんと離れていったのであった。特にそれはオプランド人の内に多かった。そして王はこの地から出た時、今後どうするべきかを家来達に打ち明けた。まずスウェーデンに行くというものである。そして神の許しがあるのであれば、再びノルウェイの正当なる王であると宣言して要求したいと言った。
「ヤールのハーコンの治世は短い。ヤールのハーコンには神の恩恵は欠けている。しかし「強者の」クヌートに従う者達は彼を恐れて私の言葉なぞには耳も傾けぬだろう。私には見える。幾たびか冬が来るとクヌート王は死してその王国は消滅し、血筋も途絶える。」と王が言った。
王が話終わった後に旅支度を整えてエイダスコッグに向かった。王のそばにはアストリド女王、娘のウルヴヒルド、オーラヴ王の息子のマグヌス、ラグンヴァルド・ブルースソン、トルベルグ、フィン、アルネ、アルネの息子達、数名の地主達がいた。人選が行われた。すっかり影の薄いへたれの元帥のビョルンは帰宅の許しを受けた。彼は自分の農場に戻り、それ以外のたくさんの者達も自身の屋敷に戻った。彼らはふるさとで起こっている事柄を王に伝えように言われた。そして王は先を急いだのであった。
オーラヴ王はまずノルウェイを抜け、エイダスコッグ、ヴェルムランド、ヴァッスブを抜け、そして森を抜けてネリーケに至った。そこにはシグトリュッグという金持ちの有力者が住んでいた。彼の息子は後に名前が知られるイヴォルという。春の間はオーラヴ王はそこで過ごした。そして夏になると仕度を整え、船を手に入れてヤリスレイヴ王とインゲゲルド女王のいるガルダリーキに向かった。アストリド女王とウルヴヒルド王女はスウェーデンに残したが息子のマグヌスは連れていった。ヤリスレイヴ王はオーラヴ王を歓迎し、彼の家来達を食わせていけるだけの土地を与えようと申し出た。オーラヴ王はそれを受け入れて身を寄せていた。
オーラヴ王は人生を通じて神へ奉仕し、彼の力が衰え敵の力が増してもなお彼は全精神を神に捧げ、どんな困難や難儀があろうともそれを邪魔だてできなかった。彼が王国に君臨した間、まず国の平和に人力を尽くし、外国の首領達の奴隷の身分であったノルウェイを解放し、ノルウェイにキリスト教をもたらし、法と税制と王権などの様々な取り決めを行い、無法者を処罰した。地主や豪農達の息子達がロングシップで国内外でヴァイキング行為を行うという習慣が今まであったが、オーラヴ王は全ての略奪行為を禁止して国の安全に勤めた。そしてもし地主や豪農達の息子達が平和を乱すのであれば、手足を切り取るだけではなく厳しく処罰したのである。彼は金持ち、貧しき者分け隔てなく罪を犯した者は処罰した。しかしそれはこの国の民には傲慢に映り、血讐という手段で背信行為が行われたのである。そして王の行為を煩わしく感じた者達から反旗が翻り始めた。彼は正義を重んじてこの国の主権をあきらめようとしていた。彼は友への贈り物に気前が良かったが、家来達への贈り物に難儀しており、それゆえ苦情の種であった。しかし彼らの王への敵意の一つの理由は処罰の厳しさにあった。その反面、クヌート王は金銭をさくさん差し出したのである。小王にも等しき権力を持つ首領達は自らの保身のため自らの権利を優先させたのであった。
ヤールのハーコンは軍隊を連れてトロンヘイムから出帆して、メーレ付近でオーラヴ王と対峙した。そして王がフィヨルドに入った時、ヤールはその後を追った。それからカルヴ・アルネソンやオーラヴ王と別れた者達は彼に会いに行き、歓迎された。ヤールは王が所有していた舵を取って、舵手を決めるためにくじ引きが行われた。ヤールと友にヴァッスダーレのバルド・ヨォクルソンの息子のユォクルというアイスランド人がいた。オーラヴ王の「野牛」号はくじ引きでヨォクルに決まった。ヨォクルはゴトランド島でオーラヴ王の家来達と遭遇して捕らえられた。王は彼を死刑執行のために行かせ、髪の毛に棒が巻き付けられており、その棒を1人の男が持っていた。ヨォクルは土手に座り、執行人が首を落とそうとした。笛の音が聞こえたかと思うとヨォクルは体を持ち上げ、それは頭を強打して致命的な傷になった。王は致命傷だと気付いたので、執行を中止させた。そして彼は時勢の句を作った後に絶命した。
カルヴ・アルネソンはヤールのハーコンとトロンヘイムに向かった。カルヴはまずエッゲの自分の屋敷に戻った。彼は妻が動揺しているのに気付いた。彼女は父のエルヴィルの死について夫に不信感を抱いていた。しかし彼は義父の死は意に反していたと言った。
「義父の命の賠償をしよう。しかしグリョートガルズが死んだとき、私は兄弟のアルンビョルンを失った。」と彼が言った。
「もしあなたが私の悲しみの仇を取らなければ、あなたの兄弟の復讐もできないというわけね。でもあなたは養い子のソーリが殺害された時、王がどれぐらいあなたを気にかけたか判っているんでしょ。」と彼女は言った。
このようないやみにカルヴは頭にきていたが、彼はもしヤールが彼の借地権を増やすのであればヤールの傘下に入ると言った。シグリッドはヤールにどれぐらい彼との仲がよいのか訊ねるために使者を遣わせた。ヤールはすぐにカルヴに来るように伝令を送った。カルヴはすぐにニダロスに向かい、ヤールに会った。彼は歓迎され、カルヴはヤールの傘下に入った。その後にカルヴはトロンヘイムの最高権力保持者という称号とともに屋敷に戻った。春になってすぐにカルヴは船を整えてクヌート王が早春にデンマークからイングランドに行った事を知ったのでその後を追ったのである。カルヴ・アルネソンはイングランドに到着するとクヌート王に謁見して歓迎を受けた。クヌート王は彼に「大きな」オーラヴの再蜂起を必ずくい止めるように命じた。
「お前にはヤールの領土を与えてノルウェイを統治させてやろう。我が血族のハーコンに力添えをしてほしい。というのはハーコンはおぼっちゃまゆえオーラヴを見つけたとしても箸より重い槍一本投げられないだろうからな。」とクヌート王が言った。
そしてカルヴは同意し、贈り物を頂いて家路についた。
その夏にヤールのハーコンはノルウェイを去り、イングランドに向かった。ヤールはイングランドで婚約し、ノルウェイで挙式をあげるためにノルウェイに向かった。彼は田舎のノルウェイでは手に入らないような素晴らしい品々をイングランドで集めた。ヤールの出発は遅れたため海の状態は悪かった。船が沈み誰も生還しなかった。悪天候の日の晩にペントランドの入江外れのケイスネスの北で船が目撃されたとの情報もあった。この情報を信じた者達は船はスヴェルグへ入ったと思った。しかしヤールのハーコンは消息を断ち、誰も再び姿を現さなかった。同じ秋に商人達からその話が伝えられたのである。そしてノルウェイの民はこの国には支配者がいないということに気がついたのである。
話は少し戻る。元帥のビョルンはオーラヴ王と別れた後は自分の屋敷でぼーとしていた。ヤールのハーコンと首領達は使者を彼のもとに遣わせた。
「クヌート王閣下は貴殿の事を評価されております。貴殿は「大きな」オーラヴに長く仕え、閣下の敵だったともご存知です。しかし今、貴殿はオーラヴ王から離れており、閣下の家来になることは栄誉ある事だと思われます。貴殿には選ぶことのできる選択肢はないはずです。」と使者がいった。
「でもなぁ、私はこうやってぼーと過ごしているのが幸せなんだな。誰にも仕えていないし、仕える気もないし。」とビョルンが答えた。
こんなこともあろうかと使者達は持ってきた金銀財宝をちらつかせた。イングランドから持ってきた銀貨を大きな袋から取り出したのである。ビョルンはお金に執着心があり、銀貨に釘付けになった。使者はそれを見逃さず2個の太い黄金の環を目の前に投げた。
「こんなもんじゃないですよ。クヌート王の報酬は。」と使者が言った。
あれやこれやと心の中で考え、オーラヴ王の再蜂起は不可能と判断した。結局、ビョルンの心は金で動かされ、クヌート王とハーコンに魂を売ったのであった。
そして話は戻ると、ビョルンはヤールのハーコンの水死を知った。それからへたれな彼はオーラヴ王を裏切った事を悔やんだのであった。しかし都合よく理解した彼はヤールがいなくなったので約束も無くなったと勝手に解釈した。そして支配者なき今、オーラヴ王の再蜂起、王権奪取はありえると判断したのであった。そして彼はあわてて準備をして家来を数名引き連れてオーラヴ王に会いにガルダリークに向かった。到着したのはユールの季節になろうかとしている時期であった。王はビョルンの裏切りも知らず、彼を大歓迎した。王はノルウェイの情報をたくさん得ようとした。ビョルンはヤールが水死し、領土には支配者がいないと言った。この話はオーラヴ王を喜ばせた。そして王は自らの信望がどれほどノルウェイであるのか訊ねた。ビョルンはそれは非常に良くも悪くもなくぼちぼちだと答えた。彼は立ち上がり、王の足下に屈み、王の足を握りしめて言った。
「全ては神と閣下のものです。私は一度はクヌートの家来から賄賂を受け取り裏切りました。しかし閣下に従い、両者の生ある限り閣下にお仕えします。」
王は彼を許して立ち上がらせた。王はビョルンにノルウェイで自身に敵意の源になっている者達の名前を揚げさせた。ヤルダルのエルリングの息子達とその親族、「太鼓腹振りの」エイナル、カルヴ・アルネソン、「犬の」ソーリ、ティョッタのハレクを言及したのであった。
オーラヴ王はガルダリークに来てからずっと色々な事を考えていた。ヤリスレイヴ王とインゲゲルド妃はオーラヴ王にこの地に留まるように言い、ヴルガリア(ブルガールの首都のヴォルガ川とカーマ川のそばの大ブルガリア)王国を手にするように言った。しれはガルダリーキの一部で、異教の地であった。この事はノルウェイ行きに大きくのしかかっていたのであった。王も全ての権力を捨ててエルサレムやその他の聖地に向かい僧侶になろうとも考えていた。しかし度々心に昇ってきたのはノルウェイ行きのことであった。彼は様々な事を思い起こした。統治して10年間はうまく事が運んだが、その後の5年間は困難の連続であった。そしてわずかな武力で立ち向かうのが賢明かどうか疑い、今までの行動がうまくいかなかった事も思いだし、深く考えれば考えるほど結論が出てこなかったのである。
ある晩にオーラヴ王は寝床に横たわり考え事をしていた。しかし考えることにも疲れた時、眠りに陥った。しかし彼は夢か現実か判らない状態にいた。館の仲ではみなせわしなく動いているように感じていた。そして1人の見事な服を着た高貴な者が寝床のそばに立っていた。そして彼はそれがオーラヴ・トリュグヴァッソンだと確信し、心に強く訴えた。
「お前はどうやら考えあぐねているようだ。深く考えれば考えるほど混乱している。神はお前の国を見捨てようとしている。なのにお前はここで時を無駄にしている。神と共に長らく支配した国へ帰れ。華々しく散ってはどうだ。」とその男が言った。
そして王は男が立ち去るのを感じた。この瞬間に王の心は決まった。支配者を欠いている時期で容易く手には入るだろうと考えたのである。そしてこの計画をノルウェイからついてきた者達に打ち明かすと皆はこの事に感謝したのであった。
オーラヴ王がガルダリークにいた時、身分の高い未亡人の息子が喉に腫瘍ができ、食べ物が通らなくなるほど大きくなり、死は間違いないだろうとみなされた事があった。その少年の母は知人のインゲゲルド妃を訪ねて少年を見せたのであった。妃はこれを直せる医者はいないと言った。
「でも・・・。最高の医者であるオーラヴ王のところへ行って、彼にさすってもらって下さい。もし彼が行ってくれないようであれば、私の言葉を伝えて下さい。」と妃が言った。
彼女は妃が言ったようにした。彼女が王に出会った時、この事を話した。王は彼女に自分は医者ではないと言った。彼女は妃が託した言葉を伝えた。
「妃殿下は貴殿が最高の医者だといいました。」
それから王は少年の首のまわりをさすり始めた。少年が口を開けれるまで長い間腫瘍をさすり続けた。それから王はパンを一切れ手に取ると十字架の形にちぎって少年の口に入れた。少年がそれを飲み込むとあら不思議、痛みはまたまく間に消え失せて数日後にすっかりよくなったのである。そしてそのことが大変喜ばれ、彼は名医であるとの噂が流れたのであった。しかしこれは医術ではなくて神のなせる奇跡であったことは言うまでもない。
そしてある日曜日に食卓の高座についていた時、王が深く考え込み、時間を忘れていた。彼は手にナイフをもって棒から屑を削りだしていた。給仕の少年が食事を持って彼の前に立っていた。彼は王がやっている事を見て、考え事をしているのが判った。
「ご主人様、明日は月曜日です。」と少年は言った。
王は驚いて少年を見た。そして自分のしていた事に驚き、火をともしたキャンドルを持ってくるように言った。彼は木屑を手のひらで片づけて、てに平のくぼみの中の木屑に火を付けた。その事は恐らく、彼は神の法と神の戒律で断食し、彼が正しく理解しようとした事を拒絶しようとしたのではないということなのであろう。
オーラヴ王はノルウェイ行きをヤリスレイヴ王とインゲゲルド妃に伝えた。彼らはその旅を強く反対した。その時、オーラヴ王は夢の出来事を語った。彼はこれは神のご意志であると信じているとも言った。そして彼らはできる限りの援助を申し出て、彼は感謝したのであった。
ユールの後すぐに準備を整えた。約200(240)名の家来が従い、ヤリスレイヴ王は彼らに軍場と装備を与えたのであった。ヤリスレイヴ王とインゲゲルド妃は大きな栄光で彼らを見送った。オーラヴ王は息子のマグヌスを彼らに託した。そして春が来て氷が解けた時に、彼は船を水に浮かべた。良風が吹いた時、彼らは帆をあげたのである。オーラヴ王は船団を連れてゴトランドに到着し、そこでスウェーデン、デンマーク、ノルウェイの現状を耳にしたのであった。再び彼らは出帆し、スウェーデンに舵を取った。王と家来達はレグリン(メーラレン湖)に停泊し、アロス(ウプサラなど)に向けて舵を取った。そしてオーラヴはスウェーデン王アヌンドに家来達を送り出した。アヌンド王はオーラヴ王の頼み通り彼に会いに来た。アストリド女王も家来達と共にやってきた。
この間にノルウェイで起こっていた事に話を向けると、「犬の」ソーリはフィン人達との2冬に渡る交易で莫大な財を築いていた。彼は12枚のトナカイの皮でマントを作っていた。それには魔法がかけられてどんな武器も傷つけることはできなかった。それはブリニャ鎧よりも強かったのである。この前の春にソーリはロングシップにフスカールを配して、農夫達の軍団と共に最北州で徴兵を要求した。ティョッタのハレクも戦士を集めていた。彼らはオーラヴ王からこの地を守りたいと考えていたのであった。
「太鼓腹振りの」エイナルはヤールのハーコンの死を知るとすぐに外トロンヘイムの最高支配権を保持した。彼とその息子のエインドリティはヤールの持っていた財産と権力を受け継ぐ資格があるとみなしていた。彼は船団を整えてイングランドに向かい、クヌート王に謁見した。そしてエイナルはクヌート王にヤールの称号を要求した。
「それは無理だ。我がしるしをデンマークの息子のスヴェンに持たせた。そして彼にノルウェイ王国を約束したのだ。しかしお前は身分も高く有望だ。お前は地主の中で一番の身分にしてやろう。」と王が言った。
それからエイナルは事の次第を理解し、次の問題に気持ちを向けたのであった。オーラヴ王がガルダリーキから戻り、平穏が壊されるであろうと予想したのであった。すぐに帆をあげてその夏の大切な時期にノルウェイに戻ってきた。
ノルウェイの首領達はオーラヴ王のノルウェイ行きの有無を探るために偵察隊をスウェーデンとデンマークに出した。軍隊は集結し、アグデルとロガランド、ホルダランドの地主達はそれぞれの配置に向かった。ある軍団は北へ、ある軍団は東へと。その2カ所に大きな軍備をしく必要があったからであった。ヤダルのエルリングの息子達と、東からの者達は東に向かい、この軍団の指揮官はエルリングの息子達であった。そして北へはフィンネイのアスラクとゲルデのエルレンドと北部の地主達が向かった。
そして彼らがオーラヴ王がスウェーデンに向かった事を知ると、オーラヴ王の力になろうと人々が集まった。その中には母方義弟のハーラル・シグルソン(後の苛烈王)がいた。彼は15歳であった。背が高く、戦士として一人前であった。それ以外の者達もたくさんきた。オプランドを出て、ヴェルムランド、エイダスコッグを抜けて東に向かった。その軍団の数は600(720)名であった。彼らはスウェーデンに向かい、オーラヴ王の便りを知った。
オーラヴ王はその春はスウェーデンにおり、ノルウェイに偵察隊を出していた。戻ってきた者達はノルウェイの状況を見て、ノルウェイ行きを押し留まるように言った。しかしながら王の心は決まっていた。オーラヴ王はアヌンド王に援助を頼んだ。
「しかしスウェーデンの民はノルウェイには行きたがらないだろう。ノルウェイの民がどれほど激しく勇敢で強いか知っている。この状況でノルウェイと戦いたいと望む者はいないだろう。しかし事は急を要す。400(480)名の一般兵、エリート兵、私の親衛隊から選抜した者、戦に必要な物品を与えよう。そして我が領地を抜ける時に徴兵する権利を与えよう。」とアヌンド王は言った。
オーラヴ王はこの申し出を受けて出発した。アストリド女王とウルフヒルド王女はスウェーデンに留まったのであった。
オーラヴ王が旅に出る時、アヌンド王が与えた者達が彼に集った。そこには400(480)名の男達がいた。王はスウェーデンの民が彼の姿を認識できる道を進んだ。彼らは森を抜け、ヤルンベラランド州に向かった。彼はノルウェイから来た軍団と合流して1200(1440)名にまで膨れ上がった。
オーラヴ王のせいでくにを追われたリング・ダグソンの息子のダグという男がいた。そしてリングはハーラル美髪王の息子のリングの息子のダグの息子であった。それゆえにダグはオーラヴ王の身内であった。彼とその父のリングはスウェーデンに住んでおり、州を手に入れていた。その春にオーラヴ王がスウェーデンに来た時、ダグにオーラヴ王に従うように言った。そしてもしオーラヴ王が勝利すれば、以前のノルウェイの土地と同等の土地を与えると申し出た。彼はこれを聞いてノルウェイ行きを承諾した。
オーラヴ王は森を抜け、荒れ地を抜け、船で水面を越えてどんどん進んだ。一団がオーラヴ王のもとへやって来た。彼らは森の住人であり、数名の者達は山賊であった。王が夜を過ごしたたくさんの小屋は「オーラヴの小屋」と言われている。彼らはイェムートランドにたどり着くまでどんどん進んだ。そこから彼は山山山の連続の国境地帯のキョッルに向かった。ここでは軍団はばらばらになって先を進んだ。
「かっこうの」・ソーリとアフラファスティという2人がいた。彼らは大盗賊で彼らは30名の山賊を抱えていた。この兄弟はでかい図体で強く大胆であった。彼らはその地を抜けて進む軍隊を知ると会いに行った。彼らは真の戦闘、戦をしたことがなかったので腕試しで参加したいと申し出た。そして正式な布陣や戦略や戦術というものを見たいと言った。そしてそれが認められて王の軍団に仲間入りした。そして彼らが王に面通しされた。
「たしかに彼らを入隊させるのは心強いことだ。しかしお前達はキリスト教徒なのか。」と王が訊ねた。
「なに、俺らには神サマなんざいらねぇ。信じられるのは自分自身だけさ。」とこの時代にしてはめずらしい事を「かっこうの」・ソーリが言った。
「我らは神の教えに従い勝利を信じている。神とともにある。こんな立派な戦士がキリストを信じておらぬとは罪深きことだ。」と王が言った。
「ぶーん、じゃぁ、王サンの従者の中のキリスト教徒サンの中に俺ら兄弟を追い越すような戦士がいるんかね。」とソーリが言った。
王は彼らに洗礼するように命じ、キリストと受け入れるように言った。
「そして我に従え。お前の身分は私が保証しよう。もしこの申し出を受けないというのであれば、とっととどこなりとでもうせろ。」と王が言った。
「俺はキリストなんざくそくらえだな。」とアフラファスティが答えて背を向けた。
「王サンよ。あんたは我ら兄弟の手助けに後ろ足で泥をかけた。えれぇ屈辱を受けた。俺は今までもそうだったが、誰とも手はにぎらねぇ。」と「かっこうの」・ソーリが言った。
こうして森の住民達は森に戻って行き、王達は国境地帯に向かった。
そしてオーラヴ王はキョールを越え、山を下りると西方に向かった。広い場所に着くと馬に乗り、王は無口であった。そして司教が王のそばに近づいてなぜ口を閉ざしているのかを訊ねた。
「いつものように楽しそうに話をしないのですかな。閣下の楽しそうな話で皆が勇気づけられ幸運になるんですぞ。」
「夢を見た。今まさにこの場面を見たのだ。山から下りてきて西方に向かい、この山からノルウェイを見おろしていた。私はこの国で幸せだった頃を思い出した。そしてトロンヘイムを抜け、ノルウェイ全体を見おろしているという夢を見た。目に焼き付いている。陸と海の両方を見渡した。全世界、生活している場面、人の住まぬ地域、今まで聞いた事がないような場面もみた。」と王が厳しい顔で言った。
司教は幻視は聖なるもので、非常に価値のあるものだと言った。
その後にヴェルダーレ州のスーラの農場にたどり着いた。道ばたの畑は耕されており、王は家来達に決して畑を踏みつけぬように命じた。これは王の近くでは守られたのであるが、遠くにいた者達は注意せずに畑を歩いて荒らしたのであった。そこの農夫は「しみの」トルゲイルと言った。彼には息子が2名いた。トルゲイルは王の来訪を快く迎えた。そして王はこの辺りのことを詳しく聞いた。トルゲイルは大軍隊がトロンヘイムに配備され、地主達はその地の南とハロガランド出身であると言った。
「しかしこの配備の目的は判りません。オーラヴ王に向けられたものか、それ以外に向けられたものか。と、話は変わりますが、閣下、どうしてくれるんです。私の作物は閣下の軍団によって踏みあらされ駄目になってしもうた。」と彼が訴えた。
「それは大変なことをした。」と王は行って、馬に乗って踏みあらされた場所に向かった。
「私は神に祈ろう。農夫よ、神はこの損害を償ってくれよう。1週間でよりより畑にするであろう。」と王が祝福を与えた。
そしてここでもまた奇跡が行われ、この畑は最高のものになった。王はその晩、そこで過ごし、朝になるとトルゲイルに同伴を求めたが、2人の息子がそれを買って出た。王は少年達に適当ではないと言ったが、少年達はついてきた。王の親衛隊の者達は彼らを縛ってついてこれないようにしようと言った。
「ほうっておきなさい。すぐにホームシックにかかる。」と王が言った。
そしてその通りになったのであった。
彼らはスラヴに向かった。スタヴの湿地へ到着した時、しばらく休息を取った。そして王は農夫達の軍団が向かってきており、すぐに戦闘になると知った。それから王は軍を建て直した。王軍は900(1080)名の異教徒を含む3000(3600)名になった。そして王が自軍に異教徒がいることを知ると洗礼するように命じた。
「この戦いは神のご意志に従うもの。異教徒がいるままで勝利はない。」と王が言った。
そして異教徒同志で話し合いが持たれた。400名は洗礼し、残りの500名はくにに帰ったのであった。そしてそこへ2人の兄弟がやって来た。
「いやー、王サンよ。俺らをやっぱり混ぜてくれ。」と「かっこうの」・ソーリとアフラファスティが言った。
「洗礼を施されたのか。でなければうせろ。」と王が言った。
この後に兄弟は王に背を向けて顔を見合わして相談した。
「俺らは後戻りはしない。戦に行く。俺達の仲間も同じ思いだ。」とアフラファスティが言った。
「あんたは俺らの力が必要だ。まぁ他の神サン選ぼうがキリストさんを選ぼうが俺らにとっては同じさ。戦に行きたいんだな。」と「かっこうの」・ソーリが言った。
そして司祭と司教によって彼らは洗礼を施された。
「お前達は戦においては我が軍旗の袂に立つのだ。」と王が言った。それは最も勇気ある者がつく場所であった。
オーラヴ王は農夫達との戦いの前に少し時間があることが判った。軍隊を招集し、3000名を越える軍隊に向かって演説した。
「我が軍は大きく、勇敢なる兵で構成されている。布陣を説明しよう。楔型で中央に私が軍旗を前方に向ける。その後ろに我が親衛隊と客人、オプランド人の集った者達とトロンヘイムから集った者達が続く。右翼は我に従った軍隊とダグ・リングソン。彼は第二の軍旗を持つ。左翼はスウェーデン王の民。第3の旗を彼らが持つ。そして部隊を細かく分ける。互いに助け合うのだ。血族と友は同じ部隊に立たせる。この軍に印をつける。我らは兜と盾に白い聖なる十字を印すのだ。そして戦では1つのかけ声をかけるのだ。「前へ、前へ、キリストの僕達、十字架の僕達、王の僕達」と。武力が習知の通りこの通りだ。もし翼が薄くなり、孤立させられた場合は他の部隊に合流して厚くするのだ。つねに自分のいる場所を確認して戦え。常に臨戦態勢でいるように。」と王が鼻し終えた。
そして印が着けられ、王は指揮官達と話し合いを持った。そしてこの辺りの農夫達の集まりに農夫達に王軍につくかどうか訊ねるために使者を出した。この辺りの農夫達は戦には関与せず、平和でいたいと言った。これについての相談をしている時にフィンが言った。
「こうゆうのはどうでしょう。我らは戦の盾を掲げて全州を進み、略奪し、火を付けるのです。こうやって彼らをこらしめるのです。さすれば農夫達の軍隊は自らの農場を案じてばらばらになってくにに帰ります。農夫達は自らの農場以上に大切に感じているものはありません。」と言った。
この演説に皆は拍手喝采をした。
そしてオーラヴ王は呆れ顔で答えた。
「それが最大の恐怖であることは百も承知だ。以前、私はオーディンに供犠を行う農夫達にその仕打ちをした。しかし今、彼らは私と共に信仰を守ってはおらぬ。わかるな。それどころかキリストを恨むばかりだ。平和に行くのだ。ここでは戦をしてはいけない。まず農夫達と話し合いをしよう。折り合いがつけばよりよい状況となろう。しかし彼らが我らに戦を持ちかけるのであれば、我らには2つの選択がある。勝利すれば略奪をせずとも戦利品が手に入る。いくら立派な館でも燃えてしまえば役にたたぬ。略奪もそうだ。共に戦うように説得するのだ。食事に必要な家畜を屠殺するのは止む終えまい。しかしそれ以上の略奪はしてはいけない。農夫達の偵察隊を捕らえた場合は殺害してよい。ダグとその家来達は谷を抜けて北側の道を行け。私は大道を行く。そして夕暮れに合流するのだ。」と王が言った。
オーラヴ王は戦の時に最前線で盾の壁を行う勇敢な戦士を選び出した。そしてその中にスカルド達も行くように命じた。トルモド・コルブルナルスカルド、「きつねの」ホフガルドの養父の「金色マツゲの」ギッスル、「口の」トルフィンがその場にいた。
それから王は谷を出た。そして明るくなるとすぐに谷に沿って進んでいった。たくさんの農夫達がやってきた。彼らのほとんどは王軍に加わった。そして王はたくさんの銀を農夫達の手のひらに置いていった。
「この銀をお前に託す。そして後で分けるのだ。一部は教会へ、一部は司祭へ、一部は貧しき民へ、一部は生者のため、一部は我らの手に掛かった者達の魂のために。」
「このお金は閣下の家来達の魂に捧げられるんでは。」と農夫が言った。
「その金は我らの手に掛かった者達の魂のためにだ。我に従いし者達の中で失われた魂は我らと共に救済されるのだ。」と王が言った。
オーラヴ王は夜の間はほとんど寝ずに王軍に祈りを捧げていた。朝が来ようとしている時に眠りに陥り、夜明けに目が覚めた。それから彼はスカルドのトルモドがどこにいるか訊ねた。彼はそばにおり、王について歌を歌わせた。すると彼は立ち上がって大声で歌ったので全軍に響きわたったのである。それから全軍は起きあがり、詩が終わると彼に感謝した。その歌は「スフカールを煽るもの」で王は彼のからかいに感謝した。その後に彼は半マルクの重さの金の環を手に入れた。
オーラヴ王は谷を通った。ダグは家来達と共に先を進んでいた。王はスティクラスタデルに到着するまで進んだ。それから彼らは農夫達の軍隊を目にした。たくさんの兵が集まっていた。ヴェルダーレから進む一団を見つけた。互いが認識できるほどの距離であった。それはヴィッグのルットと30人の家来達であった。それから皆が煽ったので王は外国人の客人にルットの首を取るように言った。
「秋に農夫達に聞いた。アイスランドにはフスカールの賠償に牡鹿の皮が使われると。この殺害に一頭の牡鹿の皮をお前に与えよう。」と王はアイスランド人に言った。
ルットと全ての者達は殺害された。スティクラスタデルに到着すると王は軍隊を停止させ、馬から下ろさせた。布陣が敷かれ軍旗が立てられた。しかしダグとその家来達はまだ合流していなかった。王はオプランド人達に前を行き、数本の軍旗を立てるように命じた。
「ハーラルはまだ若い。戦には参加させないでおく。」とオーラヴ王が言った。
「戦います。もし剣を振り回すだけの力がないというのでしたら、剣を紐で手に縛り付けます。」とハーラルは答えた。
この時、ハーラルは一つの歌を読んだ。そして参加が認められたのであった。
トルギルス・ハルマソンはスティクラスタデルに住んでいた農夫の名前で、「善人の」グリムの父である。トルギルスは王に援助を申し出て戦に参加すると言った。王は彼の申し出に感謝した。
「しかしお前は戦闘に参加しなくてよい。むしろ戦後に戦死した者達に墓を作って弔ってくれ。そしてもしできれば私が戦で命を落としたのであれば亡骸を役立てて欲しい。」と王が言った。
彼は王の要望に答えようと言った。
オーラヴ王の軍隊の隊列が整うと王は家来達に言った。
「たとえ農夫達の軍が数の上で勝っていようとも勇敢に戦え。運命が勝利を決めるのだ。戦闘開始時に激しく攻撃せよ。素早い行動が勝利へ導く。敵軍は数が多いので疲れた者は休息をとった者達と交代して戦うことができる。持久戦は我らには不利になる。」と王がいった。
そして王はもし勝利すればその後にどれほどの報酬を与えるか言ったのであった。王軍の者達は大歓声を出して鼓舞し合った。トルド・フォラソンがオーラヴ王の軍旗を取った。オーラヴ王は黄金の兜を被り、黄金で聖なる十字架を描いた白い盾を持っていた。片手には後の時代に祭壇で奉られることになる槍を手にしていた。彼は最も鋭い剣のフネイティールという剣を身につけていた。その握りは黄金で巻かれていた。王はまだリング・ブリニャ鎧を身につけていた。
オーラヴ王は軍隊を引き出した。しかし農夫達の軍隊はまだ来ていなかったので、座って待機するように命じた。王も座ってくつろいでいた。王はもたれかかってフィン・アルネソンの膝に頭をおいた。睡魔が襲いかかり、しばらくが過ぎた。それから彼は農夫達が軍旗を掲げてやってくる夢を見ていた。それから実際に農夫の軍団がやって来たのでフィンは王を起こして伝えた。
「なぜお前は私の夢を妨げるのだ。」と王が言った。
「敵が目前にきております。それほど起こしたことがよくなかったのですか。」とフィンが言った。
「私は梯子の最後の横木に手をかけようとしていた。」と王が言った。
「その夢は私にはよくないものに思われます。それは閣下の死を予言するものだと思います。」とフィンが言った。
オーラヴ王がスティクラスタデルに来た時、1人の男が王のもとへ来た。彼は背が高く、人より頭一つ分大きかった。容姿端麗で美しい髪の持ち主であった。彼もまた武装しており、素晴らしい兜とリング・ブリニャ鎧を身に帯びていた。赤い盾を持ち、装飾が施された剣を腰に下げていた。彼は手におおよそ手のひらの大きさにも及ぶ穂のある大きくて黄金で象眼された槍を持っていた。その男は王の前に行き、挨拶して力になると言った。王は彼の家柄を聞いた。
「イェムートランドとヘルシンゲランドの血筋でゲッリナのアルンリョットと申します。私はイェムートランドに閣下がスコット税の徴収に行かせた部下を手助けしたことがあります。私は彼らに1つの銀製の鉢を私、それは私が王の友になるというしるしであるとして送ったものです。」と彼が言った。
そして王はアルンリョットがキリスト教徒かどうか訊ねた。
「私は私自身を信じております。これは今までは有効であった。しかし今、閣下を信じようと誓いましょう。」と言った。
「もしお前が私を信じるというのであれば、イエス・キリストが天地創造を行ったということを信じるべきだ。使者は神のもとへゆくことを信じるのだ。」と王が言った。
「私はキリストという名前は聞いたことがありますが、彼の偉業、その他のことには通じておりません。閣下が信じろというのであれば、信じましょう。私は閣下に全ておまかせ致しましょう。」とアルンリョットは答えた。
アルンリョットはその後に洗礼を施され、王は彼にたくさんの信頼を置いた。彼は最前線を行き、軍旗の前に立った。その場所には「かっこうの」・ソーリ、アフラファスティとその山賊仲間達がいたのであった。
少し話しを戻すと、地主と農夫達は王がガルダリークからノルウェイに向かっていることを知ると軍隊を集めてスウェーデンに向かった。そして彼らは王がイェムートランドを抜けてケェールを越えてヴェルダーレに向かったと知ると、内トロンヘイムに戻り、自由民と奴隷の両方を集めてヴェルダーレに向かった。この軍勢は今までのノルウェイではなかったほどの大きさであった。今までの軍隊の形態と異なっていた。地主や豪農達もいたのであるが、多くは農夫達や一般労働者達であった。彼らは皆トロンヘイムに集結させられ王に対する敵意で興奮していた。
「強者の」クヌートはノルウェイ全土を手に入れて、ヤールのハーコンを置いていた。王はヤールにシグルドというデンマーク生まれで長らくクヌートと過ごした宮廷の司教を与えた。その司教もその軍団の中におり、しばしば農夫達を煽っていたのであった。
シグルド司教はたくさんの群衆とフスシングを行った。
「これほどの軍団を今までノルウェイにあっただろうか。オーラヴの凶行を止めなくてはならぬ。彼は若い頃から略奪、殺戮し、国を捨てた。彼の凶行を最も知るのはお前達だ。そして今対峙しているオーラヴ軍は山賊、追い剥ぎ、泥棒だ。クヌート王閣下の有り難き恩恵を受けてやつらと叩きのめすのだ。鷲と狼どものために奴等悪人を殺害するのだ。彼は皆ヴァイキングで悪人だ。誰もやつらの亡骸を教会に運ぶでないぞ。」と司教が大胆に演説を終えた。
地主達は会合を行って布陣、軍隊の指揮者を誰にするかを話し合った。カルヴ・アルネソンはティョッタのハレクが相応しいと言った。
「彼はハーラル美髪王の一族であるからだ。王はグランケルの一件で彼に恨みを抱いている。」
しかしハレクは適切な年齢の者の方が相応しいと言った。
「わしは年寄りで足下もおぼつかない。そして私とオーラヴには血縁関係がある。ソーリ、お前が指揮をすればよい。お前は血族を殺されている。もっともな理由があるはずだ。お前は実際、クヌート王にアスビオルンの仇討ちをすると言ったではないか。」と彼は言った。
「オーラヴ王に向けて軍旗を持ったり、指揮権を握ることに自信がない。トロンド人達の力は最強だ。しかし彼らは傲慢だから私に従うとは思えない。しかしオーラヴは私の血族、甥のアスビオルンとソーリ、グリョートガルズ、その父のエルヴィルの4人の命を奪っている。私は血讐しなくてはならない。」
「数の上で圧倒的に我らが勝っている。しかし指揮官がいい加減で戸惑っているのであれば志気はがた落ちだ。ソーリ、ハレク、お前達は軍旗のもとで進むのだ。我らは皆気を引き締めて行かねばならぬ。敵に弱点を見せてはいけないのだ。」とカルヴ・アルネソンが言った。
そしてカルヴが指揮官になることを望み、彼の指示に従って軍隊を配置した。
カルヴは軍旗を立てて、彼のフスカール、ティヨッタのハレクとその家来を旗本においた。「犬の」ソーリとその家来達は軍旗の前の軍団であった。ソーリの両側には勇敢な農夫達の精鋭部隊がいた。布陣は厚く長く、右翼はトロンド人とハロガランド人で構成されており、第二の旗を持ち、左翼はロガランド、ホルダランド、ソグン、フィヨルドの民で構成されており、第3の旗が立てられていた。
そこには商人で職人で戦士で大殺戮者の「船大工の」トルステインがいた。彼は戦に参加しており、王は彼らからトルステインが建造した大きくて新しい商船を取り上げた。それはトルステインの暴力と義務のための罰として取り上げられたものであった。トルステインは「犬の」ソーリのいる最前線にいた。
「オーラヴ、やつの首はもらった。やつは俺から船を奪いやがった。」と言った。
ソーリとその家来達はトルステインを仲間に入れた。
そして農夫達は様々に戦略を立て合った。その後に農夫達はスティクラスタデルへ軍隊を移した。そこにオーラヴ軍もやって来た。軍隊の先頭にはカルヴとハレクが軍旗を持って進んでいた。すぐに戦は始まらなかった。戦の雄叫びが上がり先頭が始まった。農夫達の軍は10000(14400)名を下らなかった。
2つの軍旗はまだ立っていた。
「なぜお前はそこにいるのだ、カルヴよ。我らは南のメーレで友として別れたのではないのか。ここにはお前の4人の兄弟がいる。忌まわしいことだ。」と王が言った。
「色々あってな。私に決断権があるんだったら折り合いをつけるんだがな。」
「いくらお前が折り合いをつけようとも、農夫達が大人しくしているとは思えんがな。」とフィンが言った。
「お前は自らの行為に責任を持たなくてはならぬ。」とクヴィスッスタデルのトルゲイルが言った。
「この日、お前は我らに勝てやしないだろうからそんなに熱心に戦う必要はない。ちっぽけな男だったお前をここまでしたのは私だ。」と王が言った。
「犬の」ソーリが軍旗の前で家来達と共に進んで叫んでいた。
「前へ、前へ、農夫達。」
彼らは戦の雄叫びをあげて矢と槍の雨を降らせた。王の家来達も戦の雄叫びをあげて互いに煽り合った。
「前へ、前へ、キリストの僕達、十字架の僕達、王の僕達。」
かけ声で敵を認識して戦った。天気は快晴で太陽はさんさんと輝いていた。しかし戦が始まると天は赤色に染まり、太陽を覆い尽くし、夜のように暗くなった(皆既日食)。オーラヴ王は丘のある場所へ戦線を引き出し、敵を強襲した。農夫軍の後衛にまで届く攻撃であった。農夫達は逃げようとしたが、地主とそのフスカール達はしっかりと立っていた。彼らは家来達を煽り、前に群がった。そして農夫達の軍は全ての面で前進した。最前線の者は剣や斧で攻撃し、次の列は槍で刺し、その後ろは槍や矢を放った。戦はいよいよ激しくなり、両軍に死傷者が出た。最初のターンでグッリナ・アルンリョット、「かっこうの」・ソーリ、アフラファスティと山賊仲間が倒れた。王軍の旗本は薄くなり、そのため王はトルドに軍旗を前に持っていくように命じた。オーラヴ王は盾の壁から最前線に向かい、農夫達が王の顔を見たとき、次々と戦闘意欲を失った。そして王は戦いが最も濃い場所へ向かった。
オーラヴ王は勇敢に戦っていた。地主のクヴィストスタデルのトルゲイルは兜の鼻を守る部分がばらばらに砕け、その攻撃は顔を横に打ちつけた。そして彼が崩れた時、王が言った。
「お前は戦で私の首を取ると言ったのではなかったか。」と王が言った。
その時、トルドは垂直に激しく軍旗を突き刺した。それからトルドは致命傷を浴びた。彼は軍旗の下で崩れた。ここでムン・トルフィンとグルブラ・ギッスルが倒れた。2人の男がトルドに襲いかかったが、彼は1人を殺害し、彼が倒れる前にもう1人に怪我を負わせた。
この時にダグ・リングソンは軍隊を連れて前に出てきて、軍旗を立てた。しかし非常に暗かったので敵か味方か判断が鈍った。そして彼らは反対側に立っていたロガランド、ホルダランドの方に向かった。
カルヴとオーラヴはカルヴ・アルネソンの血族の名前である。彼らは彼の片側に立っていた。カルヴはアルンフィン・アルモドソンの息子で、彼の兄弟はアルネ・アルモドソンであった。カルヴ・アルネソンのもう反対側には「犬の」ソーリが進んだ。オーラヴ王は「犬の」ソーリの上背部を横に叩き切った。しかし彼は魔法のマントを着けていたので傷を負わなかった。煙がマントから上がった。ソーリは王に攻撃し、剣を交えた。王の剣はトナカイのマントに食いつかなかったが、ソーリは手に傷を負ったのであった。
「ビョルン、私の剣はこやつにかみつかぬ。お前がこの犬を殺せ。」と王はビョルンに言った。
ビョルンは手斧をくるりとひっくり返し、後ろのハンマー部分で攻撃した。それはソーリの肩を強打してよろめいた。そしてその時、王はカルヴの血族のカルヴとオーラヴに攻撃を向けた。オーラヴを殺害した。「犬の」ソーリは槍で元帥のビョルンの体を貫いたのである。
「こんな風に熊(ビョルン)を刺すんだよ。」
「船大工の」トルステインはオーラヴ王に斧で攻撃し、左足の膝の上を攻撃した。フィン・アルネソンはすぐにトルステインを殺害した。そかしその後に負うは岩に向かって傾き、剣を投げ捨てて、神に救いを求めた。それから「犬の」ソーリが王を突き刺した。それはブリニャ鎧を貫き、胃に達した。それからカルヴが王に攻撃した。王を殺害する者の中にはこのじじいカルヴが入っていなかったのであるが、彼の攻撃は左側の首に落ちた。この3つの傷がオーラヴ王に死をもたらした。そして彼が息絶えると共に前線を進んだ者達のほとんどが倒れたのであった。グッルブラル・スカルドのビアルネはカルヴ・アルネソンを讃えて歌を歌った。スカルドのシグヴァットは元帥のビョルンを讃えて歌を歌った。
ダグ・リングソンは今や戦闘の要であった。農夫達が敗走するほど彼の攻撃は激しかった。農夫達の軍団と共に、ゲルデのエルレンド、フィンネイのアスラクといった地主も倒れた。彼らの持っていた軍旗は折られて無惨な姿になっていた。それから戦は猛烈に激しくなった。これは「ダグの間」と言われている。カルヴ・アルネソン、ティョッタのハレク、「犬の」ソーリはダグに刃先を向けた。ダグは圧倒され、後衛と共に敗走した。大勢で逃げた谷の道には死体がたくさん転がっていた。戦は集結した。ほとんどの者達が疲れてぐったりしていた。
「犬の」ソーリはオーラヴ王の亡骸のある場所へ向かった。彼は亡骸を岩から下ろし、大地に横たえて布をかけて顔の血を拭った。ソーリが後に語ったところによれが、王の死に顔はまるで寝ているかのようで頬に赤みがあったということである。そして王から発せられるオーラというものは生前のそれよりも輝きを増していた。王の血がソーリの手元の流れていった。それは彼の手のひらの傷に滴った。すると彼の傷は瞬く間に直ったのである。これはオーラヴ王の神聖が有名になる前にソーリが証言したことであった。「犬の」ソーリはオーラヴ王に刃向かった者達の中でオーラヴ王の神聖を讃える第一人者になるのであった。
カルヴ・アルネソンはそこで倒れた兄弟達を探した。彼はトルベルグとフィンを見つけだした。フィンは彼に剣を投げつけて彼を殺害しようしたという話である。彼は厳しい言葉を浴びせかけ、彼を臆病者、王の裏切り者と罵った。カルヴは気に留めなかった。フィンとトルベルグを戦場から運び出した。彼らの傷は致命傷ではなかったが、疲れで倒れた。カルヴは兄弟達を船に運ぼうとした。そして彼が戦場に戻ると、傷を負った親戚や友人、亡骸を相手していた者達を除いて、近くに屋敷のある全の兄弟達は帰った。負傷者は農場に移され、全ての家屋敷は怪我人で溢れた。あぶれた者達は屋外に張られた天幕の中に収容された。
ヴェルダーレに屋敷がある農夫達は指揮官であるハレクとソーリに会いに行った。
「戦場から逃げた者達はヴェルダーレを抜けて、我らの屋敷や農場に悪さするでしょう。それを防いで欲しい。軍隊を派遣してくれ。」と彼らは不満を打ち明けた。
そして「犬の」ソーリと家来達はヴェルダーレの者達と共にこの旅につくことになった。600(720)名の者達と共に行った。彼らは夜になると出発し、スーラに到着するまで進んだ。そこで彼はダグ・リングソンとオーラヴ王の家来隊がここにいることを聞き知った。これらの者達は夕食を取るため訪れ、山に入ったと聞いた。それからソーリは山まで深追いせず、谷を下ってわずかな者達だが殺害した。それから農夫達は農場に戻っていった。次の日、ソーリと彼の家来達は船に乗り込んだ。
ハーラル・シグルソンはひどく傷を負っていた。しかしラグンヴァルド・ブルースソンは夜の内に彼をある農夫のもとへ連れていった。この後に農夫は息子をハーラルに仕えるために与えた。彼らは人目につかない山や荒れ地を抜けてイェムートランドを抜けて、ラグンヴァルド・ブルースソンを見つけだし、ガルダリーキのヤリスレイヴ王のもとへ向かう。この後は後のハーラル苛烈王のサガで語ることになる。
コルブルナルスカルドのトルモドは王の軍旗のそばにいて戦っていた。戦が激しくなった時、彼もまた傷を負った。彼は「ダグの間」には参加できなかった。彼は左側に矢が突き刺さっていた。矢を取り、戦場を後にしてよろよろとある屋敷に向かった。そこには大きな建物があった。トルドは手に剣を握っていた。1人の男が彼を見つけた。
「慟哭と騒音の中での悲惨、苦悩。まぁよくやったんじゃないのか王軍の連中も。」
「誰だ。」とトルモドが言った。
「キンビだ。」
「お前は戦に参加したのか。」
「最善を尽くした。農夫達と共に戦ったさ。」
「怪我はしたのか。」とトルモドが聞いた。
「少しね。で、お前さんは戦に参加したのか。」とキンビが言った。
「私は最善を尽くした者達と共にいた。」
「ふーん、その腕に光る黄金の環。王軍の者だな。それをくれ。お前を匿ってやる。」
「取るがよい。できるのならな。」とトルモドが言った。
キンビが環を取るために手を伸ばすとトルモドは彼の手を切り落とした。キンビは逃げて行き、トルモドは建物の中に入った。彼はしばらくそこで座っていた。そこにはたくさの負傷者がいた。そして傷を手当している1人の女性がいた。いろりでは湯が湧かされ、傷を洗っていた。トルモドは扉の近くに座った。ある者がトルモドに気がついて怪我の有無を訊ねた。そして彼はよろよろと立ち上がって炉端へ行った。
「そこのあんた、出ていって薪を取ってきて。」と女の医者が言った。
彼は出ていって薪を腕いっぱいにして運んできた。医者は彼の顔の青白さを奇妙に思い、訊ねた。彼は矢で負傷したと歌った。彼女は傷を見て手当をした。彼女は鉄の破片を見つけた。その傷がどこまで達しているか判らなかったので、西洋葱と薬草を石の釜に入れて煮た。その臭いはきついので傷が内蔵まで達しているかどうか調べられるのである。
「いらん。「引き割穀物の病気」ではない。」と彼は言った。
彼女は鉄を引き出すために毛抜きを持ち出したが、それは固くて取れなかった。傷が膨れたのでいくらか出てきた。
「肉を切れ、そして引き出してくれ。そして毛抜きで鋏んで私に渡してくれ。自分で抜く。」
彼女はその通りにした。それからトルモドは手から黄金の環を取り去り、彼女に与えた。
「これはいいものだ。オーラヴ王が今朝私にくれたんだ。」と彼は言った。
そしてトルモドは矢尻を抜き去った。それには返しがあり、赤と白の心臓の繊維がこびりついていた。
「王は楽しませてくれた。心臓の付け根あたりに脂肪があるぞ。」
彼はこの後に後ろに倒れて絶命した。
オーラヴ王は7月29日の水曜日に命を落とした。それは午後3時以前ではないといわれている。午後3時まで皆既日食が続いた。農夫達は戦死者から略奪しなかった。しかしシグルド司教が言ったように彼らは埋葬されず捨て置かれていた。しかし親族の者達はそのいいつけを守らず教会に亡骸を運び、埋葬したのであった。
トルゲイル・ハルマソンと息子のグリムは暗くなった時に戦場に向かった。彼らはオーラヴ王の亡骸を農場の片側にあった小屋に運んでいった。亡骸から衣類を脱がせて水で洗い、朝の布でくるんだ。彼らは気で覆い隠して見つからないようにした。彼らは家に向かった。両軍のたくさんの者達が食糧を求めてやってきた。様々な部族がそこで過ごした。夜になると彼らは寝床を探した。そこには全盲の男がいた。彼は貧しく、彼の召使いが彼を導いた。彼らは農場の建物に寝床を求めて歩いた。空いた小屋を見つけた。その小屋の入り口はかなり屈まないといけないほど低かった。そして全盲の男がその小屋にはいった時、横になるところを探して手探りした。彼は帽子を被っていたが、屈んだ時にするりと顔に覆い被さった。彼は床に水たまりがあるのを気付いた。そして帽子を治すために濡れた手を上にあげた。その時、濡れた手が両目を濡らした。彼は瞼に強い痛みを感じたので目をさすった。それから彼は小屋を這い出た。
「濡れているんで寝ることはできんのう。」と彼は言った。
そして小屋の外に出た時、彼は驚いた。目が見えるようになった。彼はすぐに屋敷に戻って彼の視力が戻ったことを伝えた。多くの者達は彼が以前そこにおり、館を歩いていたので全盲であったのは皆のしるところであった。
「小屋の中の水たまりで手を濡らし、それで目をこすったら目が見えるようになった。」と彼が言った。
回りにいた者達はこの不可思議な事柄について不思議がった。しかし農夫のトルギルスと息子のグリムは慌てた。その小屋が見つかり、王の亡骸が見つけだされる心配をしたのであった。彼らはこっそり王の亡骸を運んでいって隠した。そしてその晩、屋敷に戻って寝たのであった。
木曜日に「犬の」ソーリはヴェルダーレからスティクラスタデルに向かい、多くの民衆が彼に従った。彼は王の亡骸を探した。誰も王の亡骸について知らなかったのであった。ソーリはトルギルスに訊ねた。
「私は戦には参加していなかったので、判りません。」とトルギルスはとぼけた。
そして王が復活して軍隊を手に入れて戻ってくるとの噂が流れたのであった。
トルゲイル・ハルマソンと息子はオーラヴ王の亡骸を見つけだすと焼くか海に流すと言っており、それはよく知られた話であった。その夜に戦場のオーラヴ王の亡骸があった場所には蝋燭の火がついた蝋燭のようなものが現れ出た。それはオーラヴ王の亡骸の場所を示すのでトルギルスは思い悩んだ。トルギルスとグリムはチェストを作り、王の亡骸を入れた。そして彼らは2個目の棺を作り、その中に人間の重量ほどの藁と石をつめて閉じた。そしてたくさんの農夫達が去った後に、トルギルスとグリムは手漕ぎ船を手に入れた。7、8人のトルギルスの身内と友達もいた。彼らはこっそりと王の亡骸を運んで床の下に2個のチェストを置いた。彼らはフィヨルドに沿って航行し、暗くなった頃にニダロスに到着した。それからトルギルスはシグルド司教に使者を送り出した。司教がこのことを知るとすぐに突堤までやって来た。そこで彼らは手漕ぎ船でトルギルスの船に近づいた。トルギルスとその家来達は床に置いていたチェストを持ち上げて船に運び込んだ。それから彼らはフィヨルドに向かい、そこでチェストを沈めた。トルギルスと家来達は町のはずれまで川を漕いで、町の上にあるサウッリという場所で停泊した。彼らは空の小屋に亡骸を運び込んだ。そして彼らは王の亡骸を夜通し見張った。トルギルスは町に下りて行き、王の大親友であった者達と話をした。彼は彼らに王の亡骸を引き受けてくれるか訊ねたが、誰もそれを敢えて行おうとしなかった。トルギルスと家来達は川岸から亡骸を運んで砂丘に埋葬した。そしてばれないように平らにした。それから彼らは船に戻って漕ぎ出た。彼らはスティクラスタデルの屋敷に戻った。
クヌート王とヤールのアルフリムの娘のアルギヴァの息子のスヴェンはヴェンドランドのヨムスボルグを治めるために任命された。しかしその時、デンマークにまず行き、ノルウェイに行きノルウェイを統治するようにとクヌート王の命が出た。スヴェンはデンマークに向かい、たくさんの家来達と合流した。彼と共にヤールのハーラル(背高トルケルの息子)とたくさんの優秀な者達が向かった。そしてスヴェンはノルウェイに向かってた。彼には母のアルギヴァが付き添った。彼は全ての法のシングで王として選ばれた。スティクレスタドの戦のでオーラヴ王が倒れた時、彼はヴィクに南東からやって来た。スヴェンはトロンヘイムで王として選ばれるためにやって来た。スヴェンはたくさんの新しい法律を持ち込んだ。それらはデンマークの法をならって作られた。誰も王の許しなしに土地を離れることは許されなかった。もしそれを犯した者は財産が没収されるのであった。殺人には土地と高価な物で賠償が行わた。追放者は財産が没収された。ユールに全ての農夫に「農場税」が要求された。それは全ての炉につきたくさんのモルト、3歳の雄牛の後ろ半分の半分、手桶1杯のバターの提出。全ての主婦は「主婦の羊毛税」という紡いでいない麻の一握りの提出。農夫達は農場内に王の館を建造することが求められた。5歳以上の男子7名ごとに1名の徴兵、数にならって漕ぎ手の徴兵。海を行く者は魚5匹の「海上保安税」を支払わなくてはならない。アイスランドに向かう者達はノルウェイ人、アイスランド人のどちらも土地税を支払わなくてはならない。おまけにデーン人1人の証言はノルウェイ人10人の証言より重んじられた。そしてこれらの法が人々に伝えられると、人の心とはうつろいやすいものである。オーラヴ王に反抗しようとしなかった彼らは言った。
「内トロンヘイムのやつらがオーラヴ王と戦ったからこんなことになったんだ。デーン人のクヌート一族が来てろくなもんじゃない。確かに平和になり、お前達はたくさんの報酬を手にしたかもしれんが、どうだ、奴隷の身分を手に入れたんじゃないか。」と嘆いた。
そしてデンマークに反対するのは容易いことではなかった。多くの者達がクヌート王に人質を出していたからであった。そして蜂起するための指導者もいなかった。彼らはスヴェン王について不服を言ったが、特に嫌われ者であったアルギヴァを最も非難した。
この冬にトロンヘイムで多くの者達がオーラヴ王が聖人で多くの奇跡のしるしがあると語った。多くの者達は大切なことをオーラヴ王に祈りを捧げた。たくさんの者達がその祈りで救われ、ある者は健康を手に入れ、ある者は旅の幸運、またある者はそれ以外の幸運を手に入れたのであった。
「太鼓腹振りの」エイナルはイングランドから屋敷に戻ってきた。彼はクヌート王からヤールの領土ほどの借地権を得ていた。彼はオーラヴ王への蜂起については積極的ではなかった。エイナルはクヌート王がノルウェイで約束したヤールの領土について約束を守っていないことを思い出した。エイナルはオーラヴ王の神聖を支える有力者達の筆頭であった。
フィン・アルネソンはカルヴが王に刃を向けた事に対して非難するために短い間であったが彼と共にエッゲに滞在した。トルベルグ・アルネソンはフィンより落ちついていた。しかしトルベルグが自分の農場へ戻りたいと思った。カルヴは兄弟のために船と従者を与えた。それから彼は家に戻った。アルネ・アルネソンは長らく傷ついていたが、癒されて不具から解放された。その冬に彼は自らの農場に戻った。全てのこれらの兄弟達はスヴェン王と折り合いをつけて大人しくしていた。
グリンケル司教は「太鼓腹振りの」エイナルを訪れた。彼らはこの地の重大な事柄について話し合った。それから司教は市場に行き、皆は彼に挨拶した。彼はオーラヴ王についての話を詳しく訊ねた。その後に司教はトルギルスと息子のグリムにこの町で会いたいとスティクレスタドに使者を遣わした。彼らはやって来て司教に王の奇跡と亡骸の場所について語った。それから司教は「太鼓腹振りの」エイナルに伝言を送り、エイナルは町にやってきた。エイナルと司教はそれから王とアルギヴァについて語った。彼らは王にオーラヴ王の亡骸を大地から引き上げる許しを頼んだ。王は認めた。司教とエイナルと家来達はオーラヴ王が埋葬されている場所へ向かい、掘り起こした。司教が聖クレメント教会の近くの土地に埋葬するように多くの者達が頼んだ。12ケ月と5晩(1031年8月3日)に聖遺骸が取り上げられた。そしてあら不思議、王の棺はまるで新調されたかのように新しかった。グランケル司教はオーラヴ王のチェストが開かれているところに行った。するとあら不思議、王はまるで寝ているかのように頬には赤みがさしていた。そしてまたまた不思議、王はまるで時間を過ごしたかのように髪と爪が伸びていた。スヴェン王と全ての首領達はそれを除きに行った。
「な〜によぅ。単に腐敗がゆっくりだったってことじゃない。もし腐葉土の中に入れていたらとっくに腐っていたわ。」とアルギヴァがいやみたらたらと言った。
それから司教はハサミで当の髪と髭を整えた。オーラヴ王はこの時代の成人男性がそうであったように長い髭の持ち主であった。
「奇跡ですよ。王は髪も髭の爪も伸びておられる。ほらご覧なさい。」と司教がアルギヴァに言った。
「あらそう。じゃぁ、その髪を火に投じてみなさいよ。燃えなかったら聖遺骸と認めてあげてあげてもいいわ。私知っているのよ。私知っているのよ。これより長い間埋葬されていてもちっとも腐ってなかったって話。」とアルギヴァが言った。
それから司教は吊り香炉の方に行った。彼は十字を霧、その中に香を入れた。それから彼はオーラヴ王の髪を炎の中に入れた。全ての香が燃え尽きた後に彼は王の髪を取り上げた。それは燃えておらず、司教は回りの者達にそれを見せた。
「なにさ、じゃぁ神聖な炎以外に投じなさいよ。それで燃えなかったら信じてあげてもよくってよ。」とアルギヴァが言った。
「少しは静かにしたらどうだ。」とエイナルが彼女を黙らせた。
そして司教はオーラヴ王の神聖を宣言し、亡骸を聖クレメント教会に運び込み、祭壇の上に置かれた。その棺は棺覆いで巻かれて、その上によい織物が覆われていた。たくさんの奇跡がオーラヴ王の聖なる遺骸から引き起こされた。
オーラヴ王が埋葬されていた砂丘には素晴らしい泉が湧き出し、その泉で悪い部分にかけるとあら不思議、たちまち患部を治したのであった。その泉は囲いが立てられて大切にされた。小さな教会が立てられて、オーラヴ王の墓があるところに祭壇が置かれた。その場所には後にキリストの像が置かれた。大司教エイステインは、大聖堂を立ちあげた時、王の墓があった場所に高祭壇を置いた。その場所には以前のキリスト教会の中にあった祭壇の場所と言われている。聖オーラヴ教会は一晩亡骸がすごした空の小屋の後に立っていると言われている。これは町中にありオラーヴスリと言われている。司教はオーラヴ王の遺骸の世話をして伸び続ける髪と爪を整えた。
「おべんちゃらの」トラレンはスヴェン王と共にいた。彼はオーラヴ王の神聖のしるしを聞いた。聖遺骸の神々しい力によって鐘がなる音を聞いたとか、祭壇を照らすキャンドルを見たとかという風であった。足の不自由な者、目の不自由な者、あらゆる病気に悩まされてる者がやって来た。彼らは聖オーラヴの奇跡で癒されたと噂さされた。話されているのはほんの一部であろう。
こんな風に聖オーラヴはヤールのスヴェンが去った後15年間、ノルウェイの王であった。しかしこの前の冬には彼はオプランド人の小王の称号を受けたに過ぎなかったのであった。賢者アリ司祭によれば、聖オーラヴは35歳で亡くなったということである。彼は20回の大きな戦を戦い抜いた。
スヴェン・クヌートソン王は数年間ノルウェイを統治した。彼はあらゆる意味で幼かった。彼の母のアルギヴァが摂政を行い、そして多くの者達が彼女を非難していた。それからデーン人の者達がノルウェイにおいてたくさんの権力を持つようになった。そしてトロンド人達が悪く言われた。なぜなら彼らがこの状況を引き起こしたからであった。首領達はこれらについて話し合いを持った。そして「太鼓腹振りの」エイナルがその陣頭に立った。そしてカルヴ・アルネソンはクヌート王が自らと約束した事柄を守っていないと皆に打ち明けた。彼は兄弟達と折り合いをつけた。
スヴェンがノルウェイの王となり3度の冬を経験した。海の向こうで軍勢が集まっているとい話が聞かれた。その指導者はトリッヴィであった。彼はオーラヴ・トリュグヴァッソンと英国女のギーダの子供だと言っていた。そしてスヴェン王が外国の軍隊がこの国にくるという事を聞いた時、地主達と共にトロンヘイムから出た。「太鼓腹振りの」エイナルは自らの館で待機しており、スヴェン王に従わなかった。そしてスヴェン王の命がエッゲのカルヴにも伝えられ、彼は所有している20漕手席の船で向かった。カルヴはメーレまで南下し、ギスケの兄弟のトルベルグを訪れた。アルネの息子達の全兄弟が集い、話し合った。この後にカルヴは北に戻っていった。そして彼がフレキョイスンドに到着した時、スヴェン王と会った。そして王の家来達はカルヴに王に従って守るように命じた。
「私は十分に働いたさ。この国の民達と戦い、デーン人のクヌート一族のためにな。」と彼は行って通り過ぎた。
アルネの息子達もこの徴兵に従わなかった。スヴェイン王は南に向かった。そして彼は西からの軍眼のことについてなにも情報を得ることができなかった。トリッヴィがまず血族のいるアグデルに向かって手助けを求めるであろうとの読みでここに向かったのであった。
トリッヴィ王はホルダランドにやって来た。そこから彼はスヴェン王が南に向かったと聞いたのでロガランドに向かった。そしてスヴェン王がトリッヴィの到着を知った時、軍隊の方向を変えた。両軍はエルリング・スキャルグソンが倒れた場所近くのソクナルスンドのボークンで出会った。そこで激しい戦いになった。トリッヴィは両手で槍を投げたと言われている。
「こんな風に我が父は私に聖歌を教えた。」
スヴェン軍は彼は司祭の子供であろうと言ったが、なによりもオーラヴ・トリュグヴァッソンにそっくりであると皆が褒め称えたのであった。トリュッヴィも勇敢な男であった。この戦でトリュヴィ王と彼の家来の多くが倒れた。数名は逃げて、数名は命乞いした。
スヴェン王はこの戦の後も統治し、平和であった。次の冬にスヴェン王は南で滞在した。この冬に「太鼓腹振りの」エイナルとカルヴ・アルネソンはカウパングで会合をした。
「クヌート王が私に3ダースの最高級の斧を要求してきた。」とカルグが言った。
「しかし1本たりとも贈りはしない。息子のスヴェンにたくさんの斧を治めている。不自由はないはずだ。」とカルグがきっぱりと言った。
早春に「太鼓腹振りの」エイナルとカルヴ・アルネソンは旅の準備をした。彼らはトロンドローの選び抜かれた者達と軍隊を形成した。その春に彼らは船を手に入れるスウェーデンを越えて東に向かった。その夏にガルダリーキへ到着し、秋に彼らはアイディギャボルグにたどり着いた。彼らはヤリスレイヴ王のいるホルムガルド(ノブゴロド)に使者を遣わした。聖オーラヴの息子のマグヌスをノルウェイに連れ帰り、父の遺産を引き継いで王になるために協力したいと考えていたと王に伝えた。そしてその事がヤリスレイヴ王に知れた時、王は妃と首領達と話し合った。そして彼らがホルムガルドに到着した時、ヤリスレイヴ王とマグヌスに謁見し、誓いを行った。スティクラスタデルでオーラヴ王に刃向かったカルヴと全ての者達もこの誓いに縛られた。マグヌスは彼らに平和を約束し、もしノルウェイの王になれば約束を守ると誓った。彼はカルヴ・アルネソンの養い子になり、カルヴは全力でもって支えると誓ったのであった。
(02.04.07)