一般的に一番人気があり、占いなどで使用されているルーン文字がこの共通ゲルマンルーン文字である。ゲルマンフサルクとも呼ばれ、またものによっては古フサルクや24文字フサルク、24文字ルーンとも呼ばれ、北欧の学者の本では原始もしくは租ノルドルーン文字、原始もしくは租ノルドフサルク、原始もしくは租スカンジナビアルーン文字、原始もしくは租スカンジナビアフサルク等々と言っているのだが、全て同じものをさしている。
どの呼称が正解というものでもないので細かいことは気にしないでおいておくのが無難です。
要は後期ローマン=ゲルマン鉄器時代頃に活躍した、初世紀から西暦8世紀ぐらいまでのルーン文字の事である。いわゆるゲルマン諸語時代である。スカンジナビアでは租ノルド語の時代になります。考古学ではローマン=ゲルマン鉄器時代(〜5世紀)といっているが、共通ゲルマンルーン文字が用いられた時代を総称してルーン文字学では移住時代としている。
遊び半分で昔に作ったページがあります。命知らずな方はご参照下さい。ココ。が、言語学の学者先生の本を読むことを強く勧めます。
まずルーン文字の質問で多いのが24個のルーンの並び方、つまりフサルクの順序についてである。23番目のdルーンと24番目のoルーンの順序が本によってまちまちだがどれが正解かという質問である。最後の23番、24番だけでなく、13番目のpルーン、14番目のe/iルーン(ここでは便宜上、e/iで表記しています。後で詳述します)も順序が入れ替わっていることがある。これを皆さん疑問に思われるようである。
答えは簡単です。気にしないで流しておく、です。
その理由は至極単純で主なフサルクが書かれた碑文から後の研究で再現されたものであるからである。
RUNES AN INTRODUCTION R.W.V.ELLIOTT
P18 TABLE 2 Runes and North Italic letters
これでおわかりいただけたと思います。完全に24文字を埋めているのは5世紀初期のスウェーデン、ゴトランドのチルヴェル石碑(Kylver)である。これはストックホルムの国立博物館で他の有名な共通ゲルマンルーン文字の石碑と共に展示されています。
ちなみに参考までに7つの碑文の時代を列挙しておきます。
発見地 | 記された物 | 時代 |
シュルヴェル(Kylver)石碑 ゴットランド島 スウェーデン |
(墓)石碑 | 西暦400〜450年 |
ヴァッステーナ(Vadstena)ブラクテアート オェステルヨータランド地方 スウェーデン |
ブラクテアート | 西暦500〜550年 |
グランパン(Grumpan)ブラクテアート ヴェステルヨータランド地方 スウェーデン |
ブラクテアート | 西暦500〜550年 |
シャルネー(Charnay)締め金 ソーヌエロワール県 フランス |
締め金 | 西暦550〜600年 |
ブレザ(Breza)教会の石柱 ボスニア |
石柱 | 西暦550年 |
アクウィンクム(Aquincum)締め金 ハンガリー |
締め金 | 西暦500年 |
ボイヘテ(Beuchte)締め金 ニーダーザクセン州 ドイツ |
締め金 | 西暦550〜600年 |
時代付けは断言しているように見えるかも知れませんが学者先生によって見解にばらつきのあるものもあり、おおよそ妥当だと思われるものを使用しています。
(注・かなり古い白地図を元にして作ったので現在の国境線と異なるかも知れません・・・(おいー))
共通ゲルマンルーン文字の記されたものは携行できるものが多く、この時代は地中海からバルト海まで盛んに交易や傭兵としての働き、または移住などで人の流れは多くあり、発見物が直接的に発祥、使用頻度を語るものではない。また発見数と当時の使用頻度を直接結びつけることはできないが、こうして見ると小さな低地ドイツ語のフリースランドに集中し(ここからブリテン島に移住が起こる)ていることが判る。これについては後のアングロサクソンルーン文字で触れることになると思うのでここでは省きます。注目すべきはやはりスカンジナビアでの発見数である。
スカンジナビア | 99個(55%) |
ゴート | 6個(3%) |
大陸 | 44個(25%) |
英国 | 19個(11%) |
フリジア | 10個(6%) |
BENGT ODENSTEDT
ON THE ORIGIN AND EARLY HISTORY OF THE RUNIC SCRIPT
P16
同 P130
(空白部はバリエーションがほとんどないルーン)
ルーン文字の発祥地がどこであれ、ルーン文字を育てたゆりかごはスカンジナビアになるのである。また形状のバリエーションからもそのことがわかるのである。発見数が多いことを考慮してもなおヴァリエーションの数が勝っており、スカンジナビアでは他の地域より多くルーン文字が使われたものであろうと推測がたつのである。
さて問題はルーンである。
eu (Wimmer 1874)、閉音 e (Marstrander 1928)、開音 e (v. Friesen 1993)、e と i の中間音(Krausen 1966)との見解がある。また Eliott(1963) は e と i の中間音の高前部母音としている。しかしながら Steblin-Kamenskij(1959,1962)はゲルマン語における e と i の中間音は否定している。これらは写本に記されたアングロサクソンルーン文字の名称が eoh 〜 ih があり、それを根拠としている。
とりあえずここでは Eliott に基づいているので e と i の中間音としておきます。
さて、ここでよくある質問シリーズなんですが、ルーン文字に v がないがどうすればいいのかと多々質問を受ける。その答えは類似音を使用してくださいとしかいいようがない。後のスカンジナビアフサルクでは v の音は b、 f、 u などで示されているので、そのあたりでご自由にお使い下さいとしかいいようがないのが正直なところです。
他の音についての詳細は Eliott のものからの抜粋を紹介しておきます。
ルーンの音価
(1)f。
(2)u。bookの音価。
(3)th。thinの[þ]。
(4)a。音価はドイツ語のBachの[a]
(5)r。
(6)k。
(7)g。古期英語のfugol「鳥」の軟口蓋有声せばめ音[}もしくは北方ドイツ語のsagenで、まれにgoodの閉鎖音。
(8)w。現代英語の音価。
(9)h。古期英語のflyht「飛行」の口蓋音[]に分化した古期英語もしくはドイツ語のichの両方のせばめ音、また古期英語dohtor「娘」やスコットランド語lochの軟口蓋音、もしくはそれ以外では現代英語の気息音hである。
(10)n。
(11)i。
(12)、j。yesの音価。
(13)。短音、長音iの刻文もあるが、恐らくかつては明確な音素であったeとiの中間の高前部母音と思われる。音訳時、正式のeやiと区別して、のどちらかで表されている。
(14)p。
(15)z。現代英語のrと現代英語のzの中間音と思われる。
(16)s。seaの無声音。
(17)t。
(18)。一般的な両唇せばめ音で、例えば語中音bのババリアの方言の発音。円唇以外で蝋燭の火を吹き消す時に出来る音。まれにbirdの閉鎖音[b]。
(19)e。endの音価。
(20)m。
(21)l。
(22)[]。singerのngの鼻音。
(23)d。thenの[ð]で、まれにdog[d]の閉鎖音。
(24)o。
RUNES AN INTRODUCTION R.W.V.ELLIOTT
P15 -P 17
音価については多く議論がなされているので、必ずしもこれが正解というものではありません。あくまでも一説です。
(04/09/23)
他にpdfの形式で共通ゲルマンルーン文字について詳しく書いてあります。 → ルーンの系譜5